★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

高峰秀子様 対 吉本隆明

2011-06-01 23:57:32 | 文学


最近、大学院や学部の演習で吉本隆明の昭和20年代を扱っているのだが、同時代性(笑)という意味で、秀子様との比較は欠かせない。吉本の初期の傑作「方法的思想の一側面──反ヴァレリイ論──」と、「二十四の瞳」以前型ナマイキ秀子様の傑作「巴里ひとりある記」を交互に引用してみよう。

「ポオル・ヴァレリイと呼ばれる方法的思想の一事件に何らかの結論を与へようと思ひ立つたのは一年ほど前のことである。」(吉)

「エンヂンがかかりブルンブルンブルンと飛行機はカッソウを始めた。」(秀)

「戦争中における集団のロマンチシズムは僕に異常な不信を強ひたのであつた。」(吉)

「サンキュウとイエスと、あとはニヤニヤで再び機上の人となる。やれやれ。」(秀)

「当時(戦末から戦直後に亘つて)僕は暗黒の実験室で若干の精神の幾何学を試みてゐた。」(吉)

「アー・ユー・チャイニーズときかれる。」(秀)

「虚無とは意識の野における単純意識状態束の一定の部分が如何なる感覚又は感情の強度の変化によつても変化を受けない状態である。」(吉)

「きたないな、男は(笑)」(秀)

「人は訣別の意を蔵して相語ることができる。」(吉)

「うん。ほんと。ひどいもん着てますわよ。」(秀)

「美は絶望と合致する……等々。」(吉)

「きれいな人つて、あまりゐたと思へないけど、小づくりで可愛い感じはするわね。胸やおしりがビューッとふくらまつててね。」(秀)

「最初にあらゆる言語は同じ捕獲確率を以て浮動状態にある。」(吉)

「太宰治……死んじゃつたね。無理に生きてゐろなんていひたくないけれど、死んじやつたね。」(秀)

「デカルトの神に対するパスカルの批難を想起しよう〈デカルトは神なしにも済ました筈だ〉」(吉)

「スティルでみると、三船さんの武蔵は、シェパードがドブに落ちたやうで、あまりキレイではない。」(秀)

「ヴァレリイは今日僕に何も与へない」(吉)

「いやだよ、そんなの。」(秀)

「彼の名はヨオロッパだ。」(吉)

「うん、ほんとほんと。だからもつたいないよ、ヘンな男と結婚したら(笑)」(秀)

「僕にはヴァレリイの手が見えすぎる。」(吉)

「私は金太郎みたいになってしまつた。」(秀)

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