それに、もう一つ大事なのは、作品には明瞭な、ある決った思想がなければならんということだ。なんのために書くのか、それをちゃんと知っていなければならん。でなくて、一定の目当てなしに、風景でも賞しながら道を歩いて行ったら、君は迷子になるし、われとわが才能で身を滅ぼすことになる。(「かもめ」)
貴郎、ペテンに掛かったのよ。ええそうとしか思われないわ。でもどうしてこんなペテンに? いいえさ佐伯とかいう大詐欺師が、どうしてこんな変なペテンに、引っかけなければならなかったんでしょう? 儲かることでもないのにね。かえって大変な損をするのに。これには奥底があるんだわ。そうとしきゃア思われないわ。恐いわねえ、どうしましょう。返していらっしゃいよ、さあ直ぐに。(「銀三十枚」)