き、きさま、いったい、な、何者だっ。」
二十面相は、追いつめられたけもののような、うめき声をたてました。
「わしか、わしは羽柴家のダイヤモンドをとりかえしに来たのだ。たった今、あれをわたせば、一命を助けてやる。」
おどろいたことには、仏像がものをいったのです。おもおもしい声で命令したのです。
「ハハア、きさま、羽柴家のまわしものだな。仏像に変装して、おれのかくれがをつきとめに来たんだな。」
相手が人間らしいことがわかると、賊は少し元気づいてきました。でも、えたいのしれぬ恐怖が、まったくなくなったわけではありません。というのは、人間が変装したのにしては、仏像があまり小さすぎたからです。立ちあがったところを見ると、十二―三の子どもの背たけしかありません。その一寸法師いっすんぼうしみたいなやつが、落ちつきはらって、老人のようなおもおもしい声でものをいっているのですから、じつになんとも形容のできないきみ悪さです。
――江戸川乱歩「怪人二十面相」
……賊でさえ、相手が人間だと分かると安心するのであって、相手が物質となるとやはり我々は不安になることがある。今週の「丸激トークオンデマンド」(http://www.videonews.com/marugeki-talk/898/)では、「ゲノム編集が変える「人間の領域」」というのが特集であった。我々が「人間」であることはゲノム編集で自明ではなくなる可能性があるそうである。最近の、アスペルガーやら何やらへの考え方が変わって「健常者」というのがあまりはっきりしなくなったことで引きおこされた軋轢から、――「人間」の自明性が壊れた社会をいくらか想像できるものであるが、それはまた予想を超えたものになるに違いない。
小賢しいインテリが早急に事態の急変を推測して妙な未来社会を設計しないことが大切だと思いますっ。