シューベルトを聴いてると、とっても不安になってくる。昔ピアノを習っていた頃、先生はシューベルトが私に合っていると思ったのか、即興曲などをしきりに練習させたのだが……、シューベルトのピアノ曲というのは、すごく指が廻りやすいところがあったかと思うと、怖ろしく弾きにくいところがあったりするのだ。弾いていてもまさに放浪という感じでどこに向かっているのか分からぬ。そのくせ、漸進だ前進だ、と急かされている感じもする。いまでもD935の第3曲、第5変奏の難所でいつも指がこんがらがる夢を見る。そういえば、私が学校のビックバンドでピアノを弾いていたことを心配していたピアノの先生が、「第4変奏であんまりスウィングしちゃだめ」と言っていた。私はわけが分からなくなったので、リストの「愛の夢」でも弾いて気を落ち着かせていたような気がする。……私はこの程度であった。
という私が、最近彼の初期の交響曲を聴いてみた訳だが、これがどれもこれもいい曲であった。第2交響曲なんか、まだ17か18の頃の曲らしいが、すごいではないか。ベートーベンともハイドンとも違う。誰だよ、シューベルトに構築力がないとかいってるのは。芸術の世界でも学術の世界でもそうだが、「まとまっている」という批評ほど当てにならんものはないな。