★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

遠くの、稲積の方を

2014-05-28 23:15:09 | 文学


少年は老人の手にふたつの時計をわたした。うけとるとき、老人の手はふるえて、うた時計のねじにふれた。すると時計は、また美しくうたいだした。
老人と少年と、立てられた自転車が、広い枯野の上にかげを落として、しばらく美しい音楽にきき入った。老人は目になみだをうかべた。
少年は老人から目をそらして、さっき男の人がかくれていった、遠くの、稲積の方をながめていた。
野のはてに、白い雲がひとつういていた。

――新美南吉「うた時計」


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