『はてしない物語』ミヒャエル・エンデ/著(岩波書店)その1
XIII 夜の森ペレリン
気づくと周りは心地よい闇で恐れや不安はすっかり消え、心が軽くなり、思わず笑った
幼ごころの君:
始まりはいつも暗いのです
ファンタージエンはあなたの望みで新しく生まれ変わる その望みを実現させるのは私ですけれど
望みは多いほどファンタージエンを豊かにします
バが幼ごころの君をもう一度見たいというと、最初の望みを言ってくれたと笑い
なくなってしまった元の国でたった一つ残った一粒の砂をバに渡す
それは種子で、そこからあっという間に芽がふき、さまざまな色を発する見事な花が無数に開いた
みるみるうちに植物が茂り、森となった
モンデンキント:名前をつけてごらんなさい!
バ:夜の森ペレリンだ
モンデンキント:瞬間は永遠です
バ:本当はあなたの所に来るのが恥ずかしかった 僕が思うふさわしい人は勇気があって、強くて、美しくて・・・
モが自分の瞳を見るよう言うと、そこにバと同じ年頃の美少年がいた 自分自身の姿だった
驚きに酔っているとモの姿はなく、首からアウリンをさげていることに気づいた
これは女王の名代のしるし この国のあらゆる権威を残していったのだ
裏返すとこう書いてあった
「汝の 欲する ことを なせ」
喜びのまま森を歩き回っていると、いつしかそれが当然になり、背の低い太った少年だったことを忘れていた
これにはワケがあったが、それを知るのはずっとあとのことだった
バは美しいだけではなく、一番の力持ち、強くなりたいと望んだ
XIV 色の砂漠ゴアプ
ずっと夜のように思われた夜が明け、バはファンタージエン1大きな砂漠をさすらうことこそ威張っていいことだと思った瞬間
ペレリンの森は日がのぼるとともに崩壊し、見渡すかぎりの砂漠に変わった
それはあらゆる色の丘また丘 そこに「色の砂漠ゴアプ」と名をつけた
そこを歩くうち鉄の固さの意志が目覚め、以前はすぐにくじけていた自分のことがはるか遠い昔のことになっていた
そのうち一人で歩いていても誰にも知られず残念な気持ちになったが、なにもかも書き記している古老のことを思い出した
かつては神経質で愚痴っぽかった人間世界での自分に関する自分の記憶の一部がまた消えた
今度は、大胆さ、勇気が必要な冒険に出会いたいと望んだ
ファンタージエン中一番危険な生きものがいたら、僕はそれに向かっていくんだ
思うと同時に巨大なライオン、グラオーグラマーンが立っていた たてがみは足元の砂の色とともに変化した
グ:ご主人さま 私はあなたの召使です このあたりにあるものは、私がいるというだけで燃えて灰になってしまいます
バはこの砂漠から出たいと言うが、グは砂漠と一体のためムリだという
とりあえず何か飲みたいと言うと、グはバを乗せて疾風のごとく走り、グの棲む岩山の宮殿に着いた
食卓にはあらゆるご馳走が用意してあり、食べるもの、飲むものすべてが素晴らしく美味しかった
グ:私の時が近づきました 恐ろしい声を耳にされるかもしれませんが、おしるしをかけているかぎり大丈夫です
すさまじい音がして、グを見ると、氷のように冷たく死んでいた
外を見ると、砂漠はまた夜の森ペレリンとなっていた
バはグの足元で身もだえして泣き、そのまま寝てしまった
XV 色のある死グラオーグラマーン
日がのぼり、グは毎晩夜になると死に、朝になると甦る自分の運命を話す
グ:
あなたさまは色のある死の前脚で眠られた唯一人の方で、その死を悼んでくださった唯一人の方です
私はなぜ夜が来ると死ななければならないのでしょう?
バは夜の森と昼の砂漠が表裏一体となっていることを話す
グ:私の死が生を生み、私の生が死をもたらす 両方ともそれで善いのです 私の存在意義がこれで分かりました
グは一振りの剣を渡した バはそれにシカンダと名をつけた瞬間手の中におさまった
グ:
あなたは私の背に乗って駆け、私の火を飲み、私の火で湯浴みをされました
その者だけが触れることができる剣です
今のように自然に手に飛びこむ時だけ使ってもいいが、自身の意志で引き抜くなら
自身とファンタージエンに大きな禍がもたらされることをお忘れなく
グや砂漠はバが来る前からずっとあると聞いてフシギに思う
バ:僕が望んだからそうなるのか、何もかも始めからあって、僕が言い当てたのか?
グ:
その両方です ファンタージエンは物語の国 新しくても大昔を語ることができる
答えは幼ごころの君だけが知っている あなたは幼ごころの君から授かっておられるのです
幾日も過ごして2人は友だちになり、いつまでもいたいというと
グ:
ここには生と死があるだけ 物語がありません あなたはご自身の物語を体験されなくてはなりません
次の望みを見つけなくてはなりません
ファンタージエンからはどこへでもゆける「千の扉の寺」があり、それはファンタージエン中のどんな扉にも通じています
そこを通ると、もときた所へは戻れません
バ:
望みって簡単じゃないね 望みって一体何なのだろう?
「汝の 欲する ことを なせ」とは、僕がしたいことを何でもしていいということだろう?
グ:
違います あなたが真に欲することをすべき 真の意志を持てということ これ以上難しいことはありません
それはあなたが存じないご自身の深い秘密です 誠実さと細心の注意をもって道をゆかねばならない
経験しなければ、繰り返し考えても分からないということがずっと後になって分かったが、今のバにはまだ分からなかった
バには勇気が加わり、かつて臆病だった記憶はなくなっていた
今度はそれを誰かに感嘆され、名声をあげたくなった
すると寝室の扉が開き「千の扉の寺」に変わった
グにまたきっとまた会おうと誓うが、この約束は守れず、ずっと後でバの名において約束を果たした者がいたが
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
XVI 銀の都アマルガント
「千の扉の寺」の中は六角形の部屋で、色や模様などが違う扉がいくつかあり
1つを開けるとまた、違った扉がある繰り返しで、外に出るにはなにか望みが必要だと分かる
バはアとフに会いたいと思うと明るい春の森に出て、
立派な武具に身を固めた勇士4人と美しいオグラマール姫が休んでいた
バはご馳走になり、勇士ヒンレック、強力のヒクリオン、迅速のヒスバルト、粘りのヒドルンと共に銀の都アマルガントに行くことになる
そこでは、ファンタージエンを救ってくれた「救い主」を探す旅に出るため、最も強い者を決めて捜索隊を出すという
競技大会の主催者は、銀翁ケルコバートと、バを一度見たことがあるア
オグラマール姫が「最も強い勇士でなければ夫としない」と決めているので
彼女に焦がれるヒンレックは、なんとしても優勝すると誓っていた
バにあてがわれた老ロバのイハには、バがその「救い主」だと分かるという
銀の都アマルガントは、大きな湖の真ん中にあり、この湖に入ると銀以外はみな溶けてしまうので
どの家も船も見事な細工をほどこした銀でできている
競技はもう始まっていた
本気で命を賭けるのではなく、いかにフェアで礼儀正しいか、自分をコントロールできるかなどが基準
バの連れの3人が残り、ヒンレックはその3人相手に戦い、あっという間に勝った
その彼にバが戦いを挑み、矢を射っても、フェンシングでもバが勝ち
色のある死にいたため、何も怖くないバは「涙の湖で競泳しよう」と言い出す
ヒンレックは悔しいあまり本気で切りかかり、剣シカンダは一瞬で彼の刀を砕いた
姫は去り、バはヒが可哀相になった
ア:
捜索隊はとりやめにします 救い主は警護を必要とされないのです
魔法の鏡で見た姿とは違うが、救い主は彼に間違いありません
アマルガントはかつてない祭りに湧きかえった
XVII 勇士ヒンレックの竜
この時、初めてフの歌を聴いた 心がおのずと開き、広がっていくメロディーだった
アとバは互いに友を見つけた幸せに浸った
バは今度は自分がおひかりを持っているのだと見せ、かけてみるかと勧めるが断るア
裏に書いてある文字も読めなかったと話す
ア:君は鏡の中では蒼白い顔で、まるで違う服を着ていたよ
バ:たしかかい? 僕はずっと今のようだったよ
バはアに無条件に尊敬してもらいたくなり、自分は唯一、物語が語れることを思いついた
翌日、ケルコバートは、アマルガント人は古来より歌人だが、あまり物語を持っていないため
いくつか作って欲しいとバに頼む
バは、アマルガントの由来を語り、住民は聞き入った
昔ここにはクアナというものが治めていて、クインという息子がいた
クインは一角獣を狩ったため、町は子宝に恵まれなくなり、南のお告げ所で聞くと
ファンタージエンで最も醜いアッハライは我が身を嘆いて絶えず泣いているため、この湖が出来た
かれらは美しい銀の網細工が造れるため、水面に最初の邸宅ができ、2人だけ残った男女に条件を出した
それは、子孫がみな歌人や語り部になるように そのため2人は図書館をつくり、バの物語を全部集めた
それが「アマルガント図書館」だと
町に大きな建物があるが、一角獣の石が枠におさまり、名を唱えるまで扉を閉ざすと書いてあり
誰も開けられなかったが、あれこそが「アマルガント図書館」だと分かり
バが石に「アル・ツァヒール」と名づけると、手の中におさまり、扉が開く
中には「バスチアン・バルタザール・ブックス全著作図書館」と銘が刻まれていた
アマルガントの住民は、自分たちの由来を初めて知り、無尽蔵の蔵書を目にして夢中で読んだ
ヒクリオン、ヒスバルト、ヒドルンはバの家来にして欲しいと願い出て、バは受けたが
ヒンレックのことが気がかりで訪ねると、姫は去り、打ちひしがれているのを見て、また物語を話す
姫は今、スメーグという恐ろしい竜に連れ去られ、助けられるのはヒしかいない
スメーグは、はるか遠いモーグールという国の、石化した森の真ん中の鉛の城に棲み、その毒針に刺されたら絶体絶命
美しい乙女をさらっては一生家事をさせ、死ぬとまた新しくさらってくる
城の地下室にある鉛の斧で頭を切り落とすしか方法がない
まさにその時、姫の助けを叫ぶ悲鳴が聞こえ、ヒンレックは飛び出して行った
ア:
今度は君が帰り道を見つけるのを手伝うよ
君の世界を健やかにしないと遅かれ早かれ、またファンタージエンは滅んでしまう
ヒンレックは、その後、見事にスメーグを負かしたが、姫とは結婚しなかった
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
XVIII アッハライ
出発してから何日も雨や雪が降りつづき、アはフにのり、一足に先の土地の様子をさぐっていた
ほんとうのところバは少しももとの世界に帰りたいと望んでいないことに気づいていなかった
それより、自分が考え出した恐ろしい怪獣にヒンレックが殺されたり、
大勢の罪なき者に禍いをもたらしていたらどうしようと心配していた
自分はモンデンキントと同じように振る舞っていていいのだろうか?
もともとファンタージエンの物語に入るつもりではなかった
ただ善意と無私の人として有名になりたい
そう望んだ時、ようやく盆地に達した
アはバがよく話を聞かせた友だちのクリス・タのことを聞くと、ほとんど思い出せない様子を見て
さらにここに来る前の話を聞くと、学校の物置に来たことまでで、その理由の記憶がなかった
ア:
アウリンのせいだ おひかりは僕たちが持つ時と、人間が持つ時で別の働きをするんだな
君に特別な力を与えると同時に、君からもとの世界の記憶を奪っているんだ
バ:
でも、グラオーグラマーンは、1つの望みから次の望みへ進まなくちゃだめで、飛び越してはいけないと言っていた
でないと、僕は一歩も先に進めないって
真夜中になり、これまで聞いたこともない悲しい嘆きを聞いて目が覚めた
アル・ツァヒールであたりを照らすと、谷全体がいやらしい芋虫でいっぱいだった
彼らの真ん中に彼らが造ったいいようもなく美しい銀細工の塔が建っている
「おお、なんたる悲劇! 我らの姿を己が目で見ねばならぬとは 光をのぞきたまえ!
われらこそ最も不幸な生き物、アッハライ!」
その様子を憐れに思い、バは彼らの物語を聞かせた
バ:
僕の望みで、おまえたちはすぐに眠りに入り、朝目覚めると、きれいな蝶となり
これからは笑いと楽しみばかり 常泣虫から常笑いのシュラムッフェンだ!
バはこの善行は、自分のためでなく無私の行いだから、徳の高い人として名声が広まるだろうと思った
だが、翌朝、あらゆる奇体な姿をした蛾が、あの見事な銀細工を壊そうとしていた
バ:やめろ ぼくは慈善者 君たちの恩人じゃないか!
道化蛾たちは叫んだり、笑ったりしながら飛んでいった
バはほんとうに善いことをしたのかどうか分からなくなっていた
XIX 旅の一行
バの気分が沈んでいるのを見て、アはイハに乗ってみたいから、フに乗らないかと誘うと
バは喜んでフに乗り、空を舞った
3人の騎士が狩りに出た間、アはまたバに学校でバカにした子たちの話を聞くと
バ:そんな子はいるはずがないよ
ア:君はまた記憶の一部をなくした もうアウリンの力を使わないで欲しい
バ:僕、ほんとうは、あっちへ帰りたいとは全然思わないんだ
ア:向こうの世界に君の心を惹くものは何もないのかい?
バ:君たちは僕をできるだけ早くファンタージエンから追い出せるかばかり考えているみたいだな
ア:僕たちは友だちだと思っていたのに・・・
一行は森の中に廃墟の城を見つけ、そこで泊まり、翌日、森を丸一日ひと周りしていたことに気づいた
その次の日も、また同じ廃墟に戻った
イハ:
今まではエルフェンバイン塔に向かっていたが
一行が先に進めなくなったのは、バが望むことをやめたからです
バはアとフにそれを話し、エルフェンバイン塔に向かい、幼ごころの君にもう一度会うと告げると
幼ごころの君には一度しかお目にかかれないのだと言われる
バ:
君たちはファンタージエンの生きもの、僕は人間なんだ 僕は物置で1度、ここで1度会っている
今度は3度目会ってみせる
その夜、丸太小屋に泊まっていると、それぞれファンタージエンのあちこちから
トロル、頭足族、地霊小人、影ぼっこ、森女、青い魔鬼(ジン)がやってきて
自分たちは領主で、バの噂を聞いて、自分たちの物語を語って欲しいと頼むが
バは今はエルフェンバイン塔へ向かっているから、一緒に探してくれと言う
その後、夜魔、妖精、あらゆる国からの使者が加わり、すでに100人ほどになった
彼らはなんとなく不安を感じさせる斑入りの巨大な花のある森に入った
XX 目のある手
一行は今や300近くになった 森には仔牛を丸呑みできるほどの食肉植物がびっしり生えている
バはアとフが自分を心配ばかりして、まるで子どものように扱っていることに我慢できなかった
なんとか思い知らせなければ!
「食肉蘭の森 オグライス園」は、目のある手と呼ばれる魔の城ホロークの領域で
城には最も性悪な女魔術師サイーデがいるという
森の中には大きな手のような建物が見えた
アはバをフに乗せてまた提案した
ア:
アウリンを僕に預けて、僕に道案内をさせてくれないか? でないと君は何もかもすっかり忘れてしまう時が来る
君はすっかり変わってしまったのが分からないのか?
バ:イヤだ! 君は僕を妬んでいるんだ 僕はもう帰らないことに決めた
一行のもとに城から黒い甲冑をかぶった大男の一団が襲ってきた
「サイーデに無条件降伏すると誓え でなければ3人の腹心に残酷な死を味わわせる」と告げる
バは断り、3人が連れ去られたため、サイーデの目をくらまして、3人を救う方法を考える
みんな逃げるふりをして走り、その間に1つだけ見張りのいない窓から自分が入るという
ジン:これはファンタージエンの物語に残るでしょう
黒甲冑は、力は強いが、見張りに関しては能無しと分かる
地下には無惨に吊るされた3人がいて、鎖を外そうとすると、城中に警報のような音が鳴り響いた
黒甲冑が襲ってくると、シカンダが飛び出し、どれほど大勢でかかってもあっという間に粉々になった
バはサイーデに会うと、とても脅えた様子で、バの奴隷となると誓い、モンデンキントに会いに行く一行に加わる
テント村はすでに1000人を超え、サイーデは見えないかつぎ手の輿に乗ってきた
フは彼女を乗せることを断り、アは疑ったため、とうとうバは皆の面前で怒鳴った
バ:僕のすることが気にいらないなら、どこにでも行ってくれ! もう顔も見たくない!
バから自分の世界で子どもだったという記憶が消えた
XXI 星僧院
ジンは侍従兼近衛隊長役になり、アとフは群衆の一番後ろからついてくるだけだった
バはイハに乗るのに飽きて、サの輿に乗ることが増えた
バ:黒甲冑の中身はカラッポだった 一体何の力で動いているのだ?
サ:
私の意志です 中身のないものならなんでも、私の意志で操ることができるのでございます
わが君さまは、どうかもっとご自身の成長にお心をお使いくださいまし イハはわが君さまにはふさわしくないと存じます
バはイハに別れを言いに来ると、イハは嘆いた
イハには子孫が出来ないことを思い出し、物語を与える
バ:
実はおまえの息子の父親が近くにいる 白鳥の翼をもつ牡の白馬だ
おまえが好きだが、とても恥ずかしがりやでそばに来る勇気がないんだ
イハは名残惜しそうに去って行った
バはひとのためになることをしても気持ちは晴れなかった いつ、どんな理由でするかが大事なのだ
イハはその後、白馬と結婚し、息子パタプランが生まれた 彼は後に評判のラバになったが
これは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
沈んだバのためにサは小箱から身につけると姿が見えなくなる帯を出す
バは「ゲマルの帯」と名づけた
サ:
危険はご自身の中にあるのです 賢いというのは、誰も憎まず、誰も愛さないこと
アとフはわが君さまからおしるしを奪おうとしています ゲマルの帯が証しを見せるでしょう
バは賢さについて考えた
喜び、悩み、不安、同情、名誉欲もすべてを超越している、誰も手の届かない存在
いよいよ最高の望みにたどりついたのだ!
ジンは、峰の上に丸い屋根の建物を見つけ、そこから6羽のフクロウがやって来た
星僧院ギーガムの使者で、僧院には3人の院長、沈思黙考師がいるという
夜は予感の母・ウシュトゥーと配下のフクロウ、昼は観照の父シルクリーと配下の鷲、
昼夜の境は怜悧の息子イージプーと配下のキツネが支配している
3人はバに長い生涯解けずにいる疑問に答えて欲しいと招く
バはサとアを連れて星僧院に入る
ここで修行するには自分の国や家族と縁を切り、情け容赦のない3人の試験に通らねばならないがいまだ合格者はいない
3人の院長は、人の体にそれぞれフクロウ、鷲、キツネの頭をつけている
年長のシルクリーが尋ね、バが答える
シ:いかなるか、これ、ファンタージエン
バ:ファンタージエンとは、はてしない物語である
シ:師の答えを理解するため、しばらく時をいただきたい
一夜明け、同時刻にまた尋ねる
シ:はてしない物語は、どこに書かれておりましょう?
バ:あかがね色の絹で装丁された1冊の本に
またひと晩考えて、尋ねる
シ:その本はどこにあるのですか?
バ:学校の物置の中に
シ:われらに見せてくださいませぬか?
バ:できると思う 明晩、僧院の屋上の空を一心に見てほしい
3人とバ、ア、サが翌晩、屋上にあがるとエルフェンバイン塔が見えた
バはアル・ツァヒールを取り出し、アマルガント図書館の扉に書かれた銘の文句を言った
「わが名をいま一度 終わりから始めへと唱えるならば・・・ルーヒツァ・ルア!」
目もくらむ閃光で宇宙が照らし出され、学校の物置が映って消えた アル・ツァヒールも同時に消えうせた
それを見た鷲の頭は鷲を見たと言い、フクロウの頭はフクロウを見たと言い、キツネの頭はキツネを見たと言った
シ:大いなる知者よ だれが正しいのか答えをいただきたい
バ:三師ともに
シ:師の答えを理解するため、しばらく時をいただきたい
バ:よろしい だが、我々はこれで失礼する
この夜を境に三師は初めて根本的な意見の相違が生じ、僧団は解体し、それぞれの僧院をつくった
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
バはかつて自分は学校へ通っていたこと、物置、本のことまで記憶の一切を失い
自分がどうしてファンタージエンに来たのかフシギにも思わなくなった
XXII エルフェンバイン塔の戦い
2つの思いが闘い、エルフェンバイン塔が近づくと、バは休憩を挟んだり、急に出発したりした
1つはモンデンキントにもう一度会いたいという思い 今や同等の立場になれたのだ
もう1つは、モンデンキントはアウリンを返すよう要求するのではないかということ
もう手放したくはない もしかするとくれたのかもしれないと思うと一行をせきたてた
塔に着くと、あれほど死に瀕していたのが、かつてない美しさで建っていた
真夜中に、ファンタージエンで最も速足の使者が来て、塔には幼ごころの君はいないと告げた
バの旅を知らないはずはない 自分に会いたくないのか? 何か起きたのか?
これは不可解というより侮辱だった!
がっかりした気持ちがアとフへの懐かしさを呼び起こし、ゲマルの帯を締めて姿を隠して2人のもとに行くと
ア:幼ごころの君がバのおしるしをとりあげるのが最後の望みだったが、こうなったら盗むより他に方法はない
それを聞き、本当に忠実なのはサイーデだけだとバは思う
3人の騎士に今夜、テントに泥棒が入るから誰であれ捕えて欲しいと命令し
黒甲冑にはフを捕まえるよう命令した
ほんとうは来ないで欲しいと願っていたが、アは3人の騎士に捕まり、自分の罪を認めたため
バは2人を永遠に追放すると、サイーデはバの心の奥底にある密かな望みを耳元に囁いた
サ:
幼ごころの君がいないなら、わが君が塔で待てばよろしい
もしくはわが君が跡をお継ぎになるということではないでしょうか?
そうして初めて真の自由を得るのですわ
幼ごころの君の廷臣らは全員バ一行を大歓迎したが、肝心のモクレン宮は閉じていた
アも最後のつるつるした斜面は登れず、授かる道だと思い出す
バはなんとか段を刻むなり、はしごをかけるなりしろと命じるが、すべすべした面には傷ひとつつかない
バは廷臣らに絶対服従を要求し、今日から77日目に即位するから、即位式はかつてない絢爛豪華な祝典にするため
ファンタージエンのすべての種族の代表が出席するよう命じる
高官らは耳を疑ったが、おしるしを持っているなら全権を持ち、服従の義務があるので命令に従った
バにはもう何も思い浮かばなかった モンデンキントを呼んでも返事はない
果てしないファンタージエンの代表を全員集めるのはムリだった
儀式への参加を断わり、反乱が起こりつつあった
即位式は、塔をめぐる血生臭い合戦の日としてファンタージエンの物語に残ることとなる
パレードは楽しい音楽というより猛々しく騒がしく単調で、城壁にはバの顔のポスターが一面に貼られた
黒甲冑がいつの間にか何百倍にも増え、式を取り仕切るサイーデ以外そのわけは分からない
式典でもっとも時間がかかったのは、代表が1列に並び、1人ずつバの右足に接吻し
服従の誓いの言葉を述べたことだった
そこに使者が来て、アが大勢の反乱軍を率いて塔に向かっていると告げた
3人の騎士はやっと仕事が出来たと勇んだが、参列者の中には戦争の役に立つ者は少なかった
反乱軍にはフはじめ幸の竜が5匹、サイーデに勝るとも劣らぬ白魔術師もいて、
1日の戦闘後、迷路苑の花園は血に染まる戦場と化した
それに参戦した1人1人に違った物語があるが、これは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
アの反乱軍は黒甲冑の軍勢に勝ち、塔の征服に成功したが、それは友バのための戦いだった
ア:おしるしを渡したまえ 君自身のためなんだ
バはとうとうシカンダを無理やり引き抜くと、グラオーグラマーンが死を迎える時の声が聞こえ
アに斬ってかかり、その胸を突き、血が吹き出し、大門から墜落したが、フが捕まえて翔び去った
アが負けたことで反乱軍は逃げはじめた バは悪夢を見ているような一方で、獰猛な勝利感に酔っていた
塔は猛火に包まれ、ジンは戦死していた もくれん宮は燃え上がり、中がカラッポなのが見えた
バ:あんなことになったのはアのせいだ 地の果てまで追ってやるぞ! 全員つづけ!!
XXIII 元帝王たちの都
黒甲冑の馬を駆けに駆けたため、戦闘で死ぬほど疲れ果てていた大多数はバの体力に及ばず
サイーデの意志も限界に近づいているようだった
復讐に燃えながら、なぜアはためらったのか疑問に思った
その時、金属の馬が突然バラバラに分解した
ゲマルの帯を落としたことにも気づかず、思い出しもしなかった
数日後、1羽のカササギが見つけ、巣に持ち帰った
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
バは盆地の中の町に着いた これまで見たこともない奇妙奇天烈な家々ばかりで
住民は人間のようだが、みな気が狂ったように、衣服も行動もおかしく、奥へ行くほど混雑していた
とにかく皆とても忙しそうだった
小さな灰色の猿が1匹が話しかけてきた
「おれはアーガックス 町に名前はないが、いってみりゃ元帝王たちの都ってとこだな
みんな元はファンタージエンの帝王か、帝王になろうとしていたんだ オレはこの町の監視人だな
あんたも入る資格はもうあるよ 同類だ いつの時代にも、自分の世界に戻れなくなった人間はいるさ
みんな最後の望みを別のことに使っちまった あんたが望めるのは、あんたの世界を思いだせる間だけ
みんな記憶をすっかり失くしちまった阿呆で、アウリンは望みを叶えられなくなる」
バ:昨日、私が帝王になっていたら、もうここに来ていただろうか?
アーガックス:いずれにしても来ただろうな
バ:ならアは私を救ってくれたわけだ
アーガックス:
あんたに残った望みはせいぜいあと3つか4つ 「霧の海」を越えるのに1つ必要だ
人間世界への帰り道は誰も知らない ひょっとしたらヨルのミンロウドが最後の救いになるかもしれん
今ハッキリしているのはこの狂った町から抜け出すことだ 二度と戻らないように!
深い眠りに落ちている間に、バは昔、物語を作れたという記憶がまた消えた
嵐の中でシカンダを地面に埋めた
バ:禍が起こらないよう、お前とはもうこれきりだ 誰もお前を見つけださないように
シカンダは今もそこにある
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
バは今こそ人間世界への帰り道を探そうと思ったがどこへ行けばいいのか?
望みはコントロールできるものではない
幾日も彷徨ううちに、寂しくてたまらず、仲間が欲しいと思った
そこに霧の海が現れ、船乗りの町イスカールに着いた
みな子どもの背丈で、区別がつかないほどよく似ていて、大小のグループになって行動する
かれらには「私」という言葉も名前もない
イスカールは籠の町とも呼ばれ、すべてが籠でできている
霧の海スカイダンでは、短時間で方向感覚が失われるため、命を落とした者も多い
向こう岸に着く方法は1つ この町の住民イスカールナリの船に乗ること
普通の航海と違い、どこに、いつ着くか分からないが、バは見習い水夫として乗せてくれと頼んだ
14人のイスカールナリは、数人で壇上に立ち、ある種の舞をしていることに気づいた
かれらの思いの力で船を動かしていて、強い集中力が必要だと後で知った
長い航海でバは次第に自分を忘れ、他と和合する感覚になり
もといた世界ではそれぞれが自分の考えを持っているという記憶が消えた
かれらは個人の感情を持たないので、意見の不一致がないことになにか物足りなさを覚えはじめた
その後、1羽の大霧カラスが1人のイスカールナリを運び去ったが
何事もなかったかのように、それまでどおり楽しそうだった
かれらには個人は問題ではないのだ
イスカールナリには和合はあっても愛はない
バはバだからこそ、欠点も含めてありのまま愛されたかった
ようやく向こう岸に着き、上陸すると、ばらの森の小径を歩いていった
XXIV アイゥオーラおばさま
サイーデの最期については矛盾に満ちている
サはバの乗った金属の馬が砕けているのを見、元帝王たちの都への足跡を見て賭けに負けたことを悟った
都に入ったら何も望めない廃人と化すし、そこから出たのなら、権威への望みは消え失せているからだ
黒甲冑に行進の停止を命じたが、彼らは聞かず、彼女を踏み殺して止まった
3人の騎士がそれを見て、自分の意志で動かす黒甲冑に踏み潰されている理由が分からない
彼らは軍を故郷へ帰し、それぞれの冒険に出た
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
バは薔薇の咲く小路を歩くと、かぼちゃのような家があり、
それはゆっくり絶え間なく変化する「変わる家」だった
そこから心地よい歌声が聴こえた
“あなたが探すもの やすらぎ 慰め みんな用意ができてます
いい子にしろ、わるい子にしろ あるがままでいいのです
子どもにかえって入っていらっしゃい!”
りんごのような顔のアイゥオーラおばさまを見た時、バは亡くなった母を思い出した
彼女が出す果物は食べるほど、前のよりもさらに美味しく夢中で食べる間
おばさまは、これまでの冒険の話を聞かせる
「幼ごころの君は、ぼうやが真の意志を見つけるまで、なんでも実現させてあげると約束なさいました
ぼうやは記憶をなくしてほとんどファンタージエン人になってしまった
そしてやっとこの家に着いた この家はそこに住む人も変える
ぼうやは、それまで別のものになりたいと思ってきたけれども、自分を変えようとは思わなかったから」
おばさまは自分の頭から実る果物をとってバに与えた バが初めてのお客だという
「ずっと子どもが欲しいと思っていたが、私たちは生まれも死にもしない
年をとると枯れて、また若葉が出て、実がなると生まれるから、私たちは自身の子どもで母親ではない
だから、ぼうやが来てくれて本当に嬉しいのよ」
バは時の経つのを忘れて過ごすうちに、長い間餓え続けていたものが、あふれるばかりに与えられた気持ちになった
バ:ぼく、みんな間違ったことをしてしまった
アイゥオーラ:あなたは望みの道を歩いてきたの あなたは「生命(いのち)の水の湧きでる泉」を見つければ帰れるわ
バはいきなり泣き出し、疲れるまで泣いた
その水はファンタージエンの境にあると聞く
幼ごころの君の力はそこから受けていて、自身はそこへは入れない
バ:そこで望みを果たすとまた何か忘れるの?
アイゥオーラ:何ひとつ失われはしないのよ みんな変わるの
ひどい飢餓感は癒され、バは自分も愛することができるようになりたいと望んだ
アイゥオーラ:
とうとう最後の望みを見つけたのね 愛すること それがあなたの真の意志なのよ
生命の水を飲めばできるわ
ここには滅多に口にしない予言がある いつかずっと先に、人間たちがファンタージエンに愛を持ってきてくれる
その時、2つの世界は1つになるだろうというの
バは父母のことを忘れ、自分の名前しか残らなくなった
翌朝、アイゥオーラは枯れていて、外に通じるドアが開いた
お礼を言って、外に出ると一面雪の平原だった
XXV 絵の採掘抗
盲目の抗夫ヨルは、光の中では盲目だが、闇の採掘場「ミンロウド抗」ではよく見える
ヨル:この世に失われるものは一つもない 絵の採掘抗では音を立てないように
絵はある種の雲母でできた、ごく薄いもので、溶けた時計、サーカスなどあらゆる絵があった
2人は質素な小屋に戻り、ヨルは見覚えのある絵があったかと聞くが、バにはなかった
ヨル:
あれは人間世界の忘れられた夢だ 全ファンタージエンがその基盤の上にある
少なくとも1枚自分の絵を見つけなければならない
お前は愛することができるようにりたいと望んだが言うのは簡単だ!
生命の水はだれを?と尋ねても答えられなければ飲むことは許されぬ
だが、その絵を見つけるためにはお前の最後の記憶、自身を忘れねばならない
すべての絵を見てもバのものはなく、ヨルはバに闇の中で絵を採掘する方法を教える
何日も採掘し、絵を地上に運ぶ毎日で、バは辛抱強く、静かな人間になっていった
ある夕方、絵の1枚を見て、バの心はひどく波立った
片手に石膏の歯型を持った男で、透明な氷の塊の中に閉じ込められている
バはこの男に思慕が目覚めた そして、最後に自分の名前を忘れた
名前のない少年は男を助けたかった 男の叫びが心に響いた
「私を見捨てないでくれ! 私を救えるのは君だけなんだ!」
少年は生命の水を探しに行くとヨルに告げた
ヨル:よくやった お前はよい見習い抗夫だった
絵を注意深く持ち、白い平原を歩いていると、突然、騒々しい音が聴こえた 道化蛾シュラムッフェンだ!
最初は楽しかったが、今じゃ死ぬほど退屈で、バにお頭になってもらい命令して欲しいと騒ぐ
バ:よかれと思ってやったんだ
シュ:そうとも、あんた自身によかれってね! こっそりファンタージエンからずらかろうったってそうはさせないぞ!
その時、大きなブロンズの鐘の音がして、道化蛾たちは飛び去っていった
粉々になった絵を見て、すべては終わってしまった
目の前には幸いの竜とアトレーユがいた
XXVI 生命の水
バとアは長いこと黙って向かい合い、バはゆっくりとアウリンを外した
その瞬間、はかり知れないきらめきを発して、巨大ドームが現れた
そこには巨大な黒と白のヘビがたがいに相手をしっかりつかまえている
もし離してしまえば、世界は亡びるだろう
2匹は生命の水を守っていた 水は目で追ういとまもないほど噴き出し、幾千もの悦びの声をあげていた
その言葉が分かるのはフだけ
“われら生命の水 汝らが飲むほど豊かに湧く泉
飲め! 汝の 欲する ことを なせ!”
名を尋ねられ、1人答えられない少年のためにアはバの名を叫んだ
生命の水は記憶のないものは通さないと言い、アは自分が証人になると答える
理由を聞かれると「ぼくは、かれの友だちです」
泉:
この場所がアウリンで、ずっとバが自分の内に持っていた
月の子のお力はここまで ご自身を外すことはできないから
ヘビたちはファンタージエンのものは通さないから、
バは幼ごころの君からもらったものをここですべて返さなければならない
黒いヘビが頭をもたげると、大きな門になり、そこを通るとバはふたたび太っちょの、気の弱い少年に戻り
裸のままためらわずに水に飛び込み、水を飲むと体中に生きる悦び、自身であることの悦びに満ちあふれた
今はあるがままの自分でいたいと思い、世の中に悦びの形は無数にあれど、
結局のとことたった一つ、愛することができる悦びだと知った
バは後で自分の世界に戻ってからも、この悦びが消え去ることはなく、彼を微笑ませ、周りを慰めた
バはすべての記憶を思い出す
バ:この水を父さんに持って帰ってあげたいなあ
泉:
バは白いヘビの門を通ってもう行かねばならない
それには、ファンタージエンではじめた物語一切に結末をつけなければならない
それはムリだとバが言うと、ア「ぼくがする」、フも「幸いの運で!」と答える
2人が去ると、白いヘビの門ができ、バは飛び込んだ
バ:父さん! ぼくだよ バスチアン・バルタザール・ブックス!
気づくとふたたび学校の物置にいた 靴もオーバーもどしゃ降りのあの日のように湿っているが本が見当たらない
学校の時計が9時を打ったが、教室には誰もいない
2階の足場から下におり、家に向かうと、父が上から駆け下りて迎えた
父:しょうがない坊主め、どこへ行ってたんだ?!
バは昨日、学校へも行かず、父は一晩中探し、警察にも届けたという
バは体験したことをすべて話すと、父の目に涙が浮かんだ
やっぱり父さんに生命の水を持ってくることができたんだ
父:さあ、これからは、何もかも変わるぞ 今日はお祝いの日にしよう 何がしたい?
バはまずコレアンダーさんに本を盗み、なくしてしまったことを言わなくちゃとハッキリ言った
父:変わったなあ 父さんも慣れるまで時間がかかりそうだ
店に入り、本のことを話すと、そんな本は持ってないという
バ:あれは魔法の本なんです おじさんには分かってるはずだよ!
コ:始めからもっと詳しく話してくれなくちゃ
順を追って話すと
コ:
その本自体、ファンタージエンから来たんだ この瞬間も他の人が手にしているかもしれない
絶対にファンタージエンに行けない人間もいる
行けるけれども行きっきりになる人間もいる
だが、また戻ってくるものもいるんだな そういう人たちが両方の世界を健やかにするんだ
君は幸せだよ ファンタージエンに友だちがいるんだから
私ももちろん行ってきた 幼ごころの君も知っている
だがモンデンキントではない 別の名前をさしあげた だがそれは問題じゃない
ほんとうの物語は、みんなそれぞれはてしない物語なんだ
ファンタージエンへの入り口はいくらもあるが、気づかない人が多い つまり読む人次第
ファンタージエンでは誰も知らない秘密が1つある
新しい名前をさしあげることができれば、君はまた幼ごころの君に何度もお会いすることができる
そして、それはその都度初めてで、一度きりなんだ
きみ、ちょくちょく顔を見せてくれ 互いの経験したことを話し合おう
扉の向こうで父が待っているのが見えた その顔は輝きそのものだった
コ:
君はこれからも何人もの人にファンタージエンへの道を教えてくれる気がする
そうすれば、その人たちが、俺たちに生命の水を持ってきてくれるんだ
彼の期待はたがわなかった
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
XIII 夜の森ペレリン
気づくと周りは心地よい闇で恐れや不安はすっかり消え、心が軽くなり、思わず笑った
幼ごころの君:
始まりはいつも暗いのです
ファンタージエンはあなたの望みで新しく生まれ変わる その望みを実現させるのは私ですけれど
望みは多いほどファンタージエンを豊かにします
バが幼ごころの君をもう一度見たいというと、最初の望みを言ってくれたと笑い
なくなってしまった元の国でたった一つ残った一粒の砂をバに渡す
それは種子で、そこからあっという間に芽がふき、さまざまな色を発する見事な花が無数に開いた
みるみるうちに植物が茂り、森となった
モンデンキント:名前をつけてごらんなさい!
バ:夜の森ペレリンだ
モンデンキント:瞬間は永遠です
バ:本当はあなたの所に来るのが恥ずかしかった 僕が思うふさわしい人は勇気があって、強くて、美しくて・・・
モが自分の瞳を見るよう言うと、そこにバと同じ年頃の美少年がいた 自分自身の姿だった
驚きに酔っているとモの姿はなく、首からアウリンをさげていることに気づいた
これは女王の名代のしるし この国のあらゆる権威を残していったのだ
裏返すとこう書いてあった
「汝の 欲する ことを なせ」
喜びのまま森を歩き回っていると、いつしかそれが当然になり、背の低い太った少年だったことを忘れていた
これにはワケがあったが、それを知るのはずっとあとのことだった
バは美しいだけではなく、一番の力持ち、強くなりたいと望んだ
XIV 色の砂漠ゴアプ
ずっと夜のように思われた夜が明け、バはファンタージエン1大きな砂漠をさすらうことこそ威張っていいことだと思った瞬間
ペレリンの森は日がのぼるとともに崩壊し、見渡すかぎりの砂漠に変わった
それはあらゆる色の丘また丘 そこに「色の砂漠ゴアプ」と名をつけた
そこを歩くうち鉄の固さの意志が目覚め、以前はすぐにくじけていた自分のことがはるか遠い昔のことになっていた
そのうち一人で歩いていても誰にも知られず残念な気持ちになったが、なにもかも書き記している古老のことを思い出した
かつては神経質で愚痴っぽかった人間世界での自分に関する自分の記憶の一部がまた消えた
今度は、大胆さ、勇気が必要な冒険に出会いたいと望んだ
ファンタージエン中一番危険な生きものがいたら、僕はそれに向かっていくんだ
思うと同時に巨大なライオン、グラオーグラマーンが立っていた たてがみは足元の砂の色とともに変化した
グ:ご主人さま 私はあなたの召使です このあたりにあるものは、私がいるというだけで燃えて灰になってしまいます
バはこの砂漠から出たいと言うが、グは砂漠と一体のためムリだという
とりあえず何か飲みたいと言うと、グはバを乗せて疾風のごとく走り、グの棲む岩山の宮殿に着いた
食卓にはあらゆるご馳走が用意してあり、食べるもの、飲むものすべてが素晴らしく美味しかった
グ:私の時が近づきました 恐ろしい声を耳にされるかもしれませんが、おしるしをかけているかぎり大丈夫です
すさまじい音がして、グを見ると、氷のように冷たく死んでいた
外を見ると、砂漠はまた夜の森ペレリンとなっていた
バはグの足元で身もだえして泣き、そのまま寝てしまった
XV 色のある死グラオーグラマーン
日がのぼり、グは毎晩夜になると死に、朝になると甦る自分の運命を話す
グ:
あなたさまは色のある死の前脚で眠られた唯一人の方で、その死を悼んでくださった唯一人の方です
私はなぜ夜が来ると死ななければならないのでしょう?
バは夜の森と昼の砂漠が表裏一体となっていることを話す
グ:私の死が生を生み、私の生が死をもたらす 両方ともそれで善いのです 私の存在意義がこれで分かりました
グは一振りの剣を渡した バはそれにシカンダと名をつけた瞬間手の中におさまった
グ:
あなたは私の背に乗って駆け、私の火を飲み、私の火で湯浴みをされました
その者だけが触れることができる剣です
今のように自然に手に飛びこむ時だけ使ってもいいが、自身の意志で引き抜くなら
自身とファンタージエンに大きな禍がもたらされることをお忘れなく
グや砂漠はバが来る前からずっとあると聞いてフシギに思う
バ:僕が望んだからそうなるのか、何もかも始めからあって、僕が言い当てたのか?
グ:
その両方です ファンタージエンは物語の国 新しくても大昔を語ることができる
答えは幼ごころの君だけが知っている あなたは幼ごころの君から授かっておられるのです
幾日も過ごして2人は友だちになり、いつまでもいたいというと
グ:
ここには生と死があるだけ 物語がありません あなたはご自身の物語を体験されなくてはなりません
次の望みを見つけなくてはなりません
ファンタージエンからはどこへでもゆける「千の扉の寺」があり、それはファンタージエン中のどんな扉にも通じています
そこを通ると、もときた所へは戻れません
バ:
望みって簡単じゃないね 望みって一体何なのだろう?
「汝の 欲する ことを なせ」とは、僕がしたいことを何でもしていいということだろう?
グ:
違います あなたが真に欲することをすべき 真の意志を持てということ これ以上難しいことはありません
それはあなたが存じないご自身の深い秘密です 誠実さと細心の注意をもって道をゆかねばならない
経験しなければ、繰り返し考えても分からないということがずっと後になって分かったが、今のバにはまだ分からなかった
バには勇気が加わり、かつて臆病だった記憶はなくなっていた
今度はそれを誰かに感嘆され、名声をあげたくなった
すると寝室の扉が開き「千の扉の寺」に変わった
グにまたきっとまた会おうと誓うが、この約束は守れず、ずっと後でバの名において約束を果たした者がいたが
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
XVI 銀の都アマルガント
「千の扉の寺」の中は六角形の部屋で、色や模様などが違う扉がいくつかあり
1つを開けるとまた、違った扉がある繰り返しで、外に出るにはなにか望みが必要だと分かる
バはアとフに会いたいと思うと明るい春の森に出て、
立派な武具に身を固めた勇士4人と美しいオグラマール姫が休んでいた
バはご馳走になり、勇士ヒンレック、強力のヒクリオン、迅速のヒスバルト、粘りのヒドルンと共に銀の都アマルガントに行くことになる
そこでは、ファンタージエンを救ってくれた「救い主」を探す旅に出るため、最も強い者を決めて捜索隊を出すという
競技大会の主催者は、銀翁ケルコバートと、バを一度見たことがあるア
オグラマール姫が「最も強い勇士でなければ夫としない」と決めているので
彼女に焦がれるヒンレックは、なんとしても優勝すると誓っていた
バにあてがわれた老ロバのイハには、バがその「救い主」だと分かるという
銀の都アマルガントは、大きな湖の真ん中にあり、この湖に入ると銀以外はみな溶けてしまうので
どの家も船も見事な細工をほどこした銀でできている
競技はもう始まっていた
本気で命を賭けるのではなく、いかにフェアで礼儀正しいか、自分をコントロールできるかなどが基準
バの連れの3人が残り、ヒンレックはその3人相手に戦い、あっという間に勝った
その彼にバが戦いを挑み、矢を射っても、フェンシングでもバが勝ち
色のある死にいたため、何も怖くないバは「涙の湖で競泳しよう」と言い出す
ヒンレックは悔しいあまり本気で切りかかり、剣シカンダは一瞬で彼の刀を砕いた
姫は去り、バはヒが可哀相になった
ア:
捜索隊はとりやめにします 救い主は警護を必要とされないのです
魔法の鏡で見た姿とは違うが、救い主は彼に間違いありません
アマルガントはかつてない祭りに湧きかえった
XVII 勇士ヒンレックの竜
この時、初めてフの歌を聴いた 心がおのずと開き、広がっていくメロディーだった
アとバは互いに友を見つけた幸せに浸った
バは今度は自分がおひかりを持っているのだと見せ、かけてみるかと勧めるが断るア
裏に書いてある文字も読めなかったと話す
ア:君は鏡の中では蒼白い顔で、まるで違う服を着ていたよ
バ:たしかかい? 僕はずっと今のようだったよ
バはアに無条件に尊敬してもらいたくなり、自分は唯一、物語が語れることを思いついた
翌日、ケルコバートは、アマルガント人は古来より歌人だが、あまり物語を持っていないため
いくつか作って欲しいとバに頼む
バは、アマルガントの由来を語り、住民は聞き入った
昔ここにはクアナというものが治めていて、クインという息子がいた
クインは一角獣を狩ったため、町は子宝に恵まれなくなり、南のお告げ所で聞くと
ファンタージエンで最も醜いアッハライは我が身を嘆いて絶えず泣いているため、この湖が出来た
かれらは美しい銀の網細工が造れるため、水面に最初の邸宅ができ、2人だけ残った男女に条件を出した
それは、子孫がみな歌人や語り部になるように そのため2人は図書館をつくり、バの物語を全部集めた
それが「アマルガント図書館」だと
町に大きな建物があるが、一角獣の石が枠におさまり、名を唱えるまで扉を閉ざすと書いてあり
誰も開けられなかったが、あれこそが「アマルガント図書館」だと分かり
バが石に「アル・ツァヒール」と名づけると、手の中におさまり、扉が開く
中には「バスチアン・バルタザール・ブックス全著作図書館」と銘が刻まれていた
アマルガントの住民は、自分たちの由来を初めて知り、無尽蔵の蔵書を目にして夢中で読んだ
ヒクリオン、ヒスバルト、ヒドルンはバの家来にして欲しいと願い出て、バは受けたが
ヒンレックのことが気がかりで訪ねると、姫は去り、打ちひしがれているのを見て、また物語を話す
姫は今、スメーグという恐ろしい竜に連れ去られ、助けられるのはヒしかいない
スメーグは、はるか遠いモーグールという国の、石化した森の真ん中の鉛の城に棲み、その毒針に刺されたら絶体絶命
美しい乙女をさらっては一生家事をさせ、死ぬとまた新しくさらってくる
城の地下室にある鉛の斧で頭を切り落とすしか方法がない
まさにその時、姫の助けを叫ぶ悲鳴が聞こえ、ヒンレックは飛び出して行った
ア:
今度は君が帰り道を見つけるのを手伝うよ
君の世界を健やかにしないと遅かれ早かれ、またファンタージエンは滅んでしまう
ヒンレックは、その後、見事にスメーグを負かしたが、姫とは結婚しなかった
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
XVIII アッハライ
出発してから何日も雨や雪が降りつづき、アはフにのり、一足に先の土地の様子をさぐっていた
ほんとうのところバは少しももとの世界に帰りたいと望んでいないことに気づいていなかった
それより、自分が考え出した恐ろしい怪獣にヒンレックが殺されたり、
大勢の罪なき者に禍いをもたらしていたらどうしようと心配していた
自分はモンデンキントと同じように振る舞っていていいのだろうか?
もともとファンタージエンの物語に入るつもりではなかった
ただ善意と無私の人として有名になりたい
そう望んだ時、ようやく盆地に達した
アはバがよく話を聞かせた友だちのクリス・タのことを聞くと、ほとんど思い出せない様子を見て
さらにここに来る前の話を聞くと、学校の物置に来たことまでで、その理由の記憶がなかった
ア:
アウリンのせいだ おひかりは僕たちが持つ時と、人間が持つ時で別の働きをするんだな
君に特別な力を与えると同時に、君からもとの世界の記憶を奪っているんだ
バ:
でも、グラオーグラマーンは、1つの望みから次の望みへ進まなくちゃだめで、飛び越してはいけないと言っていた
でないと、僕は一歩も先に進めないって
真夜中になり、これまで聞いたこともない悲しい嘆きを聞いて目が覚めた
アル・ツァヒールであたりを照らすと、谷全体がいやらしい芋虫でいっぱいだった
彼らの真ん中に彼らが造ったいいようもなく美しい銀細工の塔が建っている
「おお、なんたる悲劇! 我らの姿を己が目で見ねばならぬとは 光をのぞきたまえ!
われらこそ最も不幸な生き物、アッハライ!」
その様子を憐れに思い、バは彼らの物語を聞かせた
バ:
僕の望みで、おまえたちはすぐに眠りに入り、朝目覚めると、きれいな蝶となり
これからは笑いと楽しみばかり 常泣虫から常笑いのシュラムッフェンだ!
バはこの善行は、自分のためでなく無私の行いだから、徳の高い人として名声が広まるだろうと思った
だが、翌朝、あらゆる奇体な姿をした蛾が、あの見事な銀細工を壊そうとしていた
バ:やめろ ぼくは慈善者 君たちの恩人じゃないか!
道化蛾たちは叫んだり、笑ったりしながら飛んでいった
バはほんとうに善いことをしたのかどうか分からなくなっていた
XIX 旅の一行
バの気分が沈んでいるのを見て、アはイハに乗ってみたいから、フに乗らないかと誘うと
バは喜んでフに乗り、空を舞った
3人の騎士が狩りに出た間、アはまたバに学校でバカにした子たちの話を聞くと
バ:そんな子はいるはずがないよ
ア:君はまた記憶の一部をなくした もうアウリンの力を使わないで欲しい
バ:僕、ほんとうは、あっちへ帰りたいとは全然思わないんだ
ア:向こうの世界に君の心を惹くものは何もないのかい?
バ:君たちは僕をできるだけ早くファンタージエンから追い出せるかばかり考えているみたいだな
ア:僕たちは友だちだと思っていたのに・・・
一行は森の中に廃墟の城を見つけ、そこで泊まり、翌日、森を丸一日ひと周りしていたことに気づいた
その次の日も、また同じ廃墟に戻った
イハ:
今まではエルフェンバイン塔に向かっていたが
一行が先に進めなくなったのは、バが望むことをやめたからです
バはアとフにそれを話し、エルフェンバイン塔に向かい、幼ごころの君にもう一度会うと告げると
幼ごころの君には一度しかお目にかかれないのだと言われる
バ:
君たちはファンタージエンの生きもの、僕は人間なんだ 僕は物置で1度、ここで1度会っている
今度は3度目会ってみせる
その夜、丸太小屋に泊まっていると、それぞれファンタージエンのあちこちから
トロル、頭足族、地霊小人、影ぼっこ、森女、青い魔鬼(ジン)がやってきて
自分たちは領主で、バの噂を聞いて、自分たちの物語を語って欲しいと頼むが
バは今はエルフェンバイン塔へ向かっているから、一緒に探してくれと言う
その後、夜魔、妖精、あらゆる国からの使者が加わり、すでに100人ほどになった
彼らはなんとなく不安を感じさせる斑入りの巨大な花のある森に入った
XX 目のある手
一行は今や300近くになった 森には仔牛を丸呑みできるほどの食肉植物がびっしり生えている
バはアとフが自分を心配ばかりして、まるで子どものように扱っていることに我慢できなかった
なんとか思い知らせなければ!
「食肉蘭の森 オグライス園」は、目のある手と呼ばれる魔の城ホロークの領域で
城には最も性悪な女魔術師サイーデがいるという
森の中には大きな手のような建物が見えた
アはバをフに乗せてまた提案した
ア:
アウリンを僕に預けて、僕に道案内をさせてくれないか? でないと君は何もかもすっかり忘れてしまう時が来る
君はすっかり変わってしまったのが分からないのか?
バ:イヤだ! 君は僕を妬んでいるんだ 僕はもう帰らないことに決めた
一行のもとに城から黒い甲冑をかぶった大男の一団が襲ってきた
「サイーデに無条件降伏すると誓え でなければ3人の腹心に残酷な死を味わわせる」と告げる
バは断り、3人が連れ去られたため、サイーデの目をくらまして、3人を救う方法を考える
みんな逃げるふりをして走り、その間に1つだけ見張りのいない窓から自分が入るという
ジン:これはファンタージエンの物語に残るでしょう
黒甲冑は、力は強いが、見張りに関しては能無しと分かる
地下には無惨に吊るされた3人がいて、鎖を外そうとすると、城中に警報のような音が鳴り響いた
黒甲冑が襲ってくると、シカンダが飛び出し、どれほど大勢でかかってもあっという間に粉々になった
バはサイーデに会うと、とても脅えた様子で、バの奴隷となると誓い、モンデンキントに会いに行く一行に加わる
テント村はすでに1000人を超え、サイーデは見えないかつぎ手の輿に乗ってきた
フは彼女を乗せることを断り、アは疑ったため、とうとうバは皆の面前で怒鳴った
バ:僕のすることが気にいらないなら、どこにでも行ってくれ! もう顔も見たくない!
バから自分の世界で子どもだったという記憶が消えた
XXI 星僧院
ジンは侍従兼近衛隊長役になり、アとフは群衆の一番後ろからついてくるだけだった
バはイハに乗るのに飽きて、サの輿に乗ることが増えた
バ:黒甲冑の中身はカラッポだった 一体何の力で動いているのだ?
サ:
私の意志です 中身のないものならなんでも、私の意志で操ることができるのでございます
わが君さまは、どうかもっとご自身の成長にお心をお使いくださいまし イハはわが君さまにはふさわしくないと存じます
バはイハに別れを言いに来ると、イハは嘆いた
イハには子孫が出来ないことを思い出し、物語を与える
バ:
実はおまえの息子の父親が近くにいる 白鳥の翼をもつ牡の白馬だ
おまえが好きだが、とても恥ずかしがりやでそばに来る勇気がないんだ
イハは名残惜しそうに去って行った
バはひとのためになることをしても気持ちは晴れなかった いつ、どんな理由でするかが大事なのだ
イハはその後、白馬と結婚し、息子パタプランが生まれた 彼は後に評判のラバになったが
これは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
沈んだバのためにサは小箱から身につけると姿が見えなくなる帯を出す
バは「ゲマルの帯」と名づけた
サ:
危険はご自身の中にあるのです 賢いというのは、誰も憎まず、誰も愛さないこと
アとフはわが君さまからおしるしを奪おうとしています ゲマルの帯が証しを見せるでしょう
バは賢さについて考えた
喜び、悩み、不安、同情、名誉欲もすべてを超越している、誰も手の届かない存在
いよいよ最高の望みにたどりついたのだ!
ジンは、峰の上に丸い屋根の建物を見つけ、そこから6羽のフクロウがやって来た
星僧院ギーガムの使者で、僧院には3人の院長、沈思黙考師がいるという
夜は予感の母・ウシュトゥーと配下のフクロウ、昼は観照の父シルクリーと配下の鷲、
昼夜の境は怜悧の息子イージプーと配下のキツネが支配している
3人はバに長い生涯解けずにいる疑問に答えて欲しいと招く
バはサとアを連れて星僧院に入る
ここで修行するには自分の国や家族と縁を切り、情け容赦のない3人の試験に通らねばならないがいまだ合格者はいない
3人の院長は、人の体にそれぞれフクロウ、鷲、キツネの頭をつけている
年長のシルクリーが尋ね、バが答える
シ:いかなるか、これ、ファンタージエン
バ:ファンタージエンとは、はてしない物語である
シ:師の答えを理解するため、しばらく時をいただきたい
一夜明け、同時刻にまた尋ねる
シ:はてしない物語は、どこに書かれておりましょう?
バ:あかがね色の絹で装丁された1冊の本に
またひと晩考えて、尋ねる
シ:その本はどこにあるのですか?
バ:学校の物置の中に
シ:われらに見せてくださいませぬか?
バ:できると思う 明晩、僧院の屋上の空を一心に見てほしい
3人とバ、ア、サが翌晩、屋上にあがるとエルフェンバイン塔が見えた
バはアル・ツァヒールを取り出し、アマルガント図書館の扉に書かれた銘の文句を言った
「わが名をいま一度 終わりから始めへと唱えるならば・・・ルーヒツァ・ルア!」
目もくらむ閃光で宇宙が照らし出され、学校の物置が映って消えた アル・ツァヒールも同時に消えうせた
それを見た鷲の頭は鷲を見たと言い、フクロウの頭はフクロウを見たと言い、キツネの頭はキツネを見たと言った
シ:大いなる知者よ だれが正しいのか答えをいただきたい
バ:三師ともに
シ:師の答えを理解するため、しばらく時をいただきたい
バ:よろしい だが、我々はこれで失礼する
この夜を境に三師は初めて根本的な意見の相違が生じ、僧団は解体し、それぞれの僧院をつくった
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
バはかつて自分は学校へ通っていたこと、物置、本のことまで記憶の一切を失い
自分がどうしてファンタージエンに来たのかフシギにも思わなくなった
XXII エルフェンバイン塔の戦い
2つの思いが闘い、エルフェンバイン塔が近づくと、バは休憩を挟んだり、急に出発したりした
1つはモンデンキントにもう一度会いたいという思い 今や同等の立場になれたのだ
もう1つは、モンデンキントはアウリンを返すよう要求するのではないかということ
もう手放したくはない もしかするとくれたのかもしれないと思うと一行をせきたてた
塔に着くと、あれほど死に瀕していたのが、かつてない美しさで建っていた
真夜中に、ファンタージエンで最も速足の使者が来て、塔には幼ごころの君はいないと告げた
バの旅を知らないはずはない 自分に会いたくないのか? 何か起きたのか?
これは不可解というより侮辱だった!
がっかりした気持ちがアとフへの懐かしさを呼び起こし、ゲマルの帯を締めて姿を隠して2人のもとに行くと
ア:幼ごころの君がバのおしるしをとりあげるのが最後の望みだったが、こうなったら盗むより他に方法はない
それを聞き、本当に忠実なのはサイーデだけだとバは思う
3人の騎士に今夜、テントに泥棒が入るから誰であれ捕えて欲しいと命令し
黒甲冑にはフを捕まえるよう命令した
ほんとうは来ないで欲しいと願っていたが、アは3人の騎士に捕まり、自分の罪を認めたため
バは2人を永遠に追放すると、サイーデはバの心の奥底にある密かな望みを耳元に囁いた
サ:
幼ごころの君がいないなら、わが君が塔で待てばよろしい
もしくはわが君が跡をお継ぎになるということではないでしょうか?
そうして初めて真の自由を得るのですわ
幼ごころの君の廷臣らは全員バ一行を大歓迎したが、肝心のモクレン宮は閉じていた
アも最後のつるつるした斜面は登れず、授かる道だと思い出す
バはなんとか段を刻むなり、はしごをかけるなりしろと命じるが、すべすべした面には傷ひとつつかない
バは廷臣らに絶対服従を要求し、今日から77日目に即位するから、即位式はかつてない絢爛豪華な祝典にするため
ファンタージエンのすべての種族の代表が出席するよう命じる
高官らは耳を疑ったが、おしるしを持っているなら全権を持ち、服従の義務があるので命令に従った
バにはもう何も思い浮かばなかった モンデンキントを呼んでも返事はない
果てしないファンタージエンの代表を全員集めるのはムリだった
儀式への参加を断わり、反乱が起こりつつあった
即位式は、塔をめぐる血生臭い合戦の日としてファンタージエンの物語に残ることとなる
パレードは楽しい音楽というより猛々しく騒がしく単調で、城壁にはバの顔のポスターが一面に貼られた
黒甲冑がいつの間にか何百倍にも増え、式を取り仕切るサイーデ以外そのわけは分からない
式典でもっとも時間がかかったのは、代表が1列に並び、1人ずつバの右足に接吻し
服従の誓いの言葉を述べたことだった
そこに使者が来て、アが大勢の反乱軍を率いて塔に向かっていると告げた
3人の騎士はやっと仕事が出来たと勇んだが、参列者の中には戦争の役に立つ者は少なかった
反乱軍にはフはじめ幸の竜が5匹、サイーデに勝るとも劣らぬ白魔術師もいて、
1日の戦闘後、迷路苑の花園は血に染まる戦場と化した
それに参戦した1人1人に違った物語があるが、これは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
アの反乱軍は黒甲冑の軍勢に勝ち、塔の征服に成功したが、それは友バのための戦いだった
ア:おしるしを渡したまえ 君自身のためなんだ
バはとうとうシカンダを無理やり引き抜くと、グラオーグラマーンが死を迎える時の声が聞こえ
アに斬ってかかり、その胸を突き、血が吹き出し、大門から墜落したが、フが捕まえて翔び去った
アが負けたことで反乱軍は逃げはじめた バは悪夢を見ているような一方で、獰猛な勝利感に酔っていた
塔は猛火に包まれ、ジンは戦死していた もくれん宮は燃え上がり、中がカラッポなのが見えた
バ:あんなことになったのはアのせいだ 地の果てまで追ってやるぞ! 全員つづけ!!
XXIII 元帝王たちの都
黒甲冑の馬を駆けに駆けたため、戦闘で死ぬほど疲れ果てていた大多数はバの体力に及ばず
サイーデの意志も限界に近づいているようだった
復讐に燃えながら、なぜアはためらったのか疑問に思った
その時、金属の馬が突然バラバラに分解した
ゲマルの帯を落としたことにも気づかず、思い出しもしなかった
数日後、1羽のカササギが見つけ、巣に持ち帰った
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
バは盆地の中の町に着いた これまで見たこともない奇妙奇天烈な家々ばかりで
住民は人間のようだが、みな気が狂ったように、衣服も行動もおかしく、奥へ行くほど混雑していた
とにかく皆とても忙しそうだった
小さな灰色の猿が1匹が話しかけてきた
「おれはアーガックス 町に名前はないが、いってみりゃ元帝王たちの都ってとこだな
みんな元はファンタージエンの帝王か、帝王になろうとしていたんだ オレはこの町の監視人だな
あんたも入る資格はもうあるよ 同類だ いつの時代にも、自分の世界に戻れなくなった人間はいるさ
みんな最後の望みを別のことに使っちまった あんたが望めるのは、あんたの世界を思いだせる間だけ
みんな記憶をすっかり失くしちまった阿呆で、アウリンは望みを叶えられなくなる」
バ:昨日、私が帝王になっていたら、もうここに来ていただろうか?
アーガックス:いずれにしても来ただろうな
バ:ならアは私を救ってくれたわけだ
アーガックス:
あんたに残った望みはせいぜいあと3つか4つ 「霧の海」を越えるのに1つ必要だ
人間世界への帰り道は誰も知らない ひょっとしたらヨルのミンロウドが最後の救いになるかもしれん
今ハッキリしているのはこの狂った町から抜け出すことだ 二度と戻らないように!
深い眠りに落ちている間に、バは昔、物語を作れたという記憶がまた消えた
嵐の中でシカンダを地面に埋めた
バ:禍が起こらないよう、お前とはもうこれきりだ 誰もお前を見つけださないように
シカンダは今もそこにある
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
バは今こそ人間世界への帰り道を探そうと思ったがどこへ行けばいいのか?
望みはコントロールできるものではない
幾日も彷徨ううちに、寂しくてたまらず、仲間が欲しいと思った
そこに霧の海が現れ、船乗りの町イスカールに着いた
みな子どもの背丈で、区別がつかないほどよく似ていて、大小のグループになって行動する
かれらには「私」という言葉も名前もない
イスカールは籠の町とも呼ばれ、すべてが籠でできている
霧の海スカイダンでは、短時間で方向感覚が失われるため、命を落とした者も多い
向こう岸に着く方法は1つ この町の住民イスカールナリの船に乗ること
普通の航海と違い、どこに、いつ着くか分からないが、バは見習い水夫として乗せてくれと頼んだ
14人のイスカールナリは、数人で壇上に立ち、ある種の舞をしていることに気づいた
かれらの思いの力で船を動かしていて、強い集中力が必要だと後で知った
長い航海でバは次第に自分を忘れ、他と和合する感覚になり
もといた世界ではそれぞれが自分の考えを持っているという記憶が消えた
かれらは個人の感情を持たないので、意見の不一致がないことになにか物足りなさを覚えはじめた
その後、1羽の大霧カラスが1人のイスカールナリを運び去ったが
何事もなかったかのように、それまでどおり楽しそうだった
かれらには個人は問題ではないのだ
イスカールナリには和合はあっても愛はない
バはバだからこそ、欠点も含めてありのまま愛されたかった
ようやく向こう岸に着き、上陸すると、ばらの森の小径を歩いていった
XXIV アイゥオーラおばさま
サイーデの最期については矛盾に満ちている
サはバの乗った金属の馬が砕けているのを見、元帝王たちの都への足跡を見て賭けに負けたことを悟った
都に入ったら何も望めない廃人と化すし、そこから出たのなら、権威への望みは消え失せているからだ
黒甲冑に行進の停止を命じたが、彼らは聞かず、彼女を踏み殺して止まった
3人の騎士がそれを見て、自分の意志で動かす黒甲冑に踏み潰されている理由が分からない
彼らは軍を故郷へ帰し、それぞれの冒険に出た
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
バは薔薇の咲く小路を歩くと、かぼちゃのような家があり、
それはゆっくり絶え間なく変化する「変わる家」だった
そこから心地よい歌声が聴こえた
“あなたが探すもの やすらぎ 慰め みんな用意ができてます
いい子にしろ、わるい子にしろ あるがままでいいのです
子どもにかえって入っていらっしゃい!”
りんごのような顔のアイゥオーラおばさまを見た時、バは亡くなった母を思い出した
彼女が出す果物は食べるほど、前のよりもさらに美味しく夢中で食べる間
おばさまは、これまでの冒険の話を聞かせる
「幼ごころの君は、ぼうやが真の意志を見つけるまで、なんでも実現させてあげると約束なさいました
ぼうやは記憶をなくしてほとんどファンタージエン人になってしまった
そしてやっとこの家に着いた この家はそこに住む人も変える
ぼうやは、それまで別のものになりたいと思ってきたけれども、自分を変えようとは思わなかったから」
おばさまは自分の頭から実る果物をとってバに与えた バが初めてのお客だという
「ずっと子どもが欲しいと思っていたが、私たちは生まれも死にもしない
年をとると枯れて、また若葉が出て、実がなると生まれるから、私たちは自身の子どもで母親ではない
だから、ぼうやが来てくれて本当に嬉しいのよ」
バは時の経つのを忘れて過ごすうちに、長い間餓え続けていたものが、あふれるばかりに与えられた気持ちになった
バ:ぼく、みんな間違ったことをしてしまった
アイゥオーラ:あなたは望みの道を歩いてきたの あなたは「生命(いのち)の水の湧きでる泉」を見つければ帰れるわ
バはいきなり泣き出し、疲れるまで泣いた
その水はファンタージエンの境にあると聞く
幼ごころの君の力はそこから受けていて、自身はそこへは入れない
バ:そこで望みを果たすとまた何か忘れるの?
アイゥオーラ:何ひとつ失われはしないのよ みんな変わるの
ひどい飢餓感は癒され、バは自分も愛することができるようになりたいと望んだ
アイゥオーラ:
とうとう最後の望みを見つけたのね 愛すること それがあなたの真の意志なのよ
生命の水を飲めばできるわ
ここには滅多に口にしない予言がある いつかずっと先に、人間たちがファンタージエンに愛を持ってきてくれる
その時、2つの世界は1つになるだろうというの
バは父母のことを忘れ、自分の名前しか残らなくなった
翌朝、アイゥオーラは枯れていて、外に通じるドアが開いた
お礼を言って、外に出ると一面雪の平原だった
XXV 絵の採掘抗
盲目の抗夫ヨルは、光の中では盲目だが、闇の採掘場「ミンロウド抗」ではよく見える
ヨル:この世に失われるものは一つもない 絵の採掘抗では音を立てないように
絵はある種の雲母でできた、ごく薄いもので、溶けた時計、サーカスなどあらゆる絵があった
2人は質素な小屋に戻り、ヨルは見覚えのある絵があったかと聞くが、バにはなかった
ヨル:
あれは人間世界の忘れられた夢だ 全ファンタージエンがその基盤の上にある
少なくとも1枚自分の絵を見つけなければならない
お前は愛することができるようにりたいと望んだが言うのは簡単だ!
生命の水はだれを?と尋ねても答えられなければ飲むことは許されぬ
だが、その絵を見つけるためにはお前の最後の記憶、自身を忘れねばならない
すべての絵を見てもバのものはなく、ヨルはバに闇の中で絵を採掘する方法を教える
何日も採掘し、絵を地上に運ぶ毎日で、バは辛抱強く、静かな人間になっていった
ある夕方、絵の1枚を見て、バの心はひどく波立った
片手に石膏の歯型を持った男で、透明な氷の塊の中に閉じ込められている
バはこの男に思慕が目覚めた そして、最後に自分の名前を忘れた
名前のない少年は男を助けたかった 男の叫びが心に響いた
「私を見捨てないでくれ! 私を救えるのは君だけなんだ!」
少年は生命の水を探しに行くとヨルに告げた
ヨル:よくやった お前はよい見習い抗夫だった
絵を注意深く持ち、白い平原を歩いていると、突然、騒々しい音が聴こえた 道化蛾シュラムッフェンだ!
最初は楽しかったが、今じゃ死ぬほど退屈で、バにお頭になってもらい命令して欲しいと騒ぐ
バ:よかれと思ってやったんだ
シュ:そうとも、あんた自身によかれってね! こっそりファンタージエンからずらかろうったってそうはさせないぞ!
その時、大きなブロンズの鐘の音がして、道化蛾たちは飛び去っていった
粉々になった絵を見て、すべては終わってしまった
目の前には幸いの竜とアトレーユがいた
XXVI 生命の水
バとアは長いこと黙って向かい合い、バはゆっくりとアウリンを外した
その瞬間、はかり知れないきらめきを発して、巨大ドームが現れた
そこには巨大な黒と白のヘビがたがいに相手をしっかりつかまえている
もし離してしまえば、世界は亡びるだろう
2匹は生命の水を守っていた 水は目で追ういとまもないほど噴き出し、幾千もの悦びの声をあげていた
その言葉が分かるのはフだけ
“われら生命の水 汝らが飲むほど豊かに湧く泉
飲め! 汝の 欲する ことを なせ!”
名を尋ねられ、1人答えられない少年のためにアはバの名を叫んだ
生命の水は記憶のないものは通さないと言い、アは自分が証人になると答える
理由を聞かれると「ぼくは、かれの友だちです」
泉:
この場所がアウリンで、ずっとバが自分の内に持っていた
月の子のお力はここまで ご自身を外すことはできないから
ヘビたちはファンタージエンのものは通さないから、
バは幼ごころの君からもらったものをここですべて返さなければならない
黒いヘビが頭をもたげると、大きな門になり、そこを通るとバはふたたび太っちょの、気の弱い少年に戻り
裸のままためらわずに水に飛び込み、水を飲むと体中に生きる悦び、自身であることの悦びに満ちあふれた
今はあるがままの自分でいたいと思い、世の中に悦びの形は無数にあれど、
結局のとことたった一つ、愛することができる悦びだと知った
バは後で自分の世界に戻ってからも、この悦びが消え去ることはなく、彼を微笑ませ、周りを慰めた
バはすべての記憶を思い出す
バ:この水を父さんに持って帰ってあげたいなあ
泉:
バは白いヘビの門を通ってもう行かねばならない
それには、ファンタージエンではじめた物語一切に結末をつけなければならない
それはムリだとバが言うと、ア「ぼくがする」、フも「幸いの運で!」と答える
2人が去ると、白いヘビの門ができ、バは飛び込んだ
バ:父さん! ぼくだよ バスチアン・バルタザール・ブックス!
気づくとふたたび学校の物置にいた 靴もオーバーもどしゃ降りのあの日のように湿っているが本が見当たらない
学校の時計が9時を打ったが、教室には誰もいない
2階の足場から下におり、家に向かうと、父が上から駆け下りて迎えた
父:しょうがない坊主め、どこへ行ってたんだ?!
バは昨日、学校へも行かず、父は一晩中探し、警察にも届けたという
バは体験したことをすべて話すと、父の目に涙が浮かんだ
やっぱり父さんに生命の水を持ってくることができたんだ
父:さあ、これからは、何もかも変わるぞ 今日はお祝いの日にしよう 何がしたい?
バはまずコレアンダーさんに本を盗み、なくしてしまったことを言わなくちゃとハッキリ言った
父:変わったなあ 父さんも慣れるまで時間がかかりそうだ
店に入り、本のことを話すと、そんな本は持ってないという
バ:あれは魔法の本なんです おじさんには分かってるはずだよ!
コ:始めからもっと詳しく話してくれなくちゃ
順を追って話すと
コ:
その本自体、ファンタージエンから来たんだ この瞬間も他の人が手にしているかもしれない
絶対にファンタージエンに行けない人間もいる
行けるけれども行きっきりになる人間もいる
だが、また戻ってくるものもいるんだな そういう人たちが両方の世界を健やかにするんだ
君は幸せだよ ファンタージエンに友だちがいるんだから
私ももちろん行ってきた 幼ごころの君も知っている
だがモンデンキントではない 別の名前をさしあげた だがそれは問題じゃない
ほんとうの物語は、みんなそれぞれはてしない物語なんだ
ファンタージエンへの入り口はいくらもあるが、気づかない人が多い つまり読む人次第
ファンタージエンでは誰も知らない秘密が1つある
新しい名前をさしあげることができれば、君はまた幼ごころの君に何度もお会いすることができる
そして、それはその都度初めてで、一度きりなんだ
きみ、ちょくちょく顔を見せてくれ 互いの経験したことを話し合おう
扉の向こうで父が待っているのが見えた その顔は輝きそのものだった
コ:
君はこれからも何人もの人にファンタージエンへの道を教えてくれる気がする
そうすれば、その人たちが、俺たちに生命の水を持ってきてくれるんだ
彼の期待はたがわなかった
けれどもこれは別の物語 いつかまた、別の時に話すことにしよう
コメントありがとうございます
名作は何度読んでも色褪せない感動がありますね
また遊びに来て下さい😊