メランコリア

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ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

三つのミント・キャンディー 福音館日曜日文庫 オリヴィエ少年の物語 2 ロベール・サバティエ/作 福音館書店

2024-12-14 20:28:27 | 
1996年初版 堀内紅子/訳 茂田井武/ジャケット・イラストレーション


ある日、いきなり母を亡くして、ラバ通りでうろついていた少年オリヴィエは
また突然に伯父夫婦に引き取られ、通りの人々とは縁がぷっつり切れてしまう

地図を見ると歩いて行ける距離ではあるけれども
生活基準が変わると会うのもためらうほどなのかなあ?

とはいえ、伯父夫婦も労働者からスタートした「成金」
製紙業は読書が大好きなオリヴィエにとって紙つながりで幸運だったし
兄弟になった2人ともすぐに親しくなれたのは良かった

“懐かしき友は、いまいずこに?”









【内容抜粋メモ】

登場人物
オリヴィエ 10歳 両親を亡くして伯母夫婦の家に養子となる

アンリ・デルソー伯父 製紙業の社長
ヴィクトリア伯母 オリヴィエの父ピエールの姉
マルソー 長男 肺病を患っている 16歳
ジャミ 次男
マルグリット 女中
ブランシュ 女中
ジュリエンヌ 両親を亡くしたいとこ
エミリー伯母 アンリの伯母 フリーメイソン会員
アルフォンス マルソーの家庭教師 通称パパ・ガトー



伯父とクルマに乗って豪華なアパルトマンに着いたオリヴィエは
女中によって風呂に入れられ、着ていた服は処分され、いとこのお古を着せられる

長男マルソーは肺病を患っていて、スイスのサナトリウムにいる
次男ジャミは夏休みで田舎の別荘にいる

ヴィクトリア伯母:
学校の成績が良かったら中学に行かせてあげます
ダメならうちの倉庫で働きなさい
それも務まらないようなら、ソーグで牛の面倒でもみることね

伯母はこれまでの下町言葉を改めさせ、ブルジョワの作法を身につけさせようとする
女中マルグリットとブランシュは、オリヴィエに靴磨きなどの家事を手伝わせるが
“食べて、喋って、寝るだけ”の生活をフシギに思い
雑用をすることがこの家で“厄介”になる条件だと思うオリヴィエ
(労働を苦にしないのは、この家にピッタリだったよね

オリヴィエ同様、身寄りのないいとこジュリエンヌは
週に一度訪ねて来て家族と一緒に食事をする
ジュリエンヌはマルソーが好きで、オリヴィエを無視する

本の虫のオリヴィエに伯母は居間の本棚から数冊貸してくれる
『モンテ・クリスト伯』や『家なき子』に夢中になるオリヴィエ

アンリ伯父はオリヴィエに藤のステッキをロンドン土産に買ってくれる
伯父は紅茶マニアで、あらゆるお茶を買って帰る

女中はオリヴィエに買い物を頼み、以来、アパルトマン周辺の通りを散策する自由を得る



スイスの高級サナトリウムから戻ったマルソーは、スポーツ好きの少年で
ヴィクトリア伯母が嫌う下品な喋り方をして、タバコを吸ったり、酒を飲んだり
ジュリエンヌら女の子とカーテン裏でキスしたりとやり放題
(ジェラール・フィリップに似てるって相当なハンサムじゃん/驚

ヴィクトリア伯母:早くもラバ通りの悪影響が現れはじめたのよ!
オリヴィエ:ぼく、何もしてません、伯母上

部屋にある蓄音機でベニー・グッドマン、カウント・ベイシー、サッチモなどのジャズを聴くマルソー
オリヴィエはすっかり尊敬してボスとして敬う

ときどき咳の発作を起こすが、またサナトリウムに戻されるのがイヤで
オリヴィエはマルソーが咳をするたびに一緒に咳をして誤魔化す

マルソー:
親父はけっこうイカしてるよ 迷えるロマンチストってとこだ
おふくろは「偉大なる変人」てとこかな

ジャミは“かわいいぽちゃぽちゃ坊や”そのもので、オリヴィエをすっかり気に入って
オリヴィエは俳優などの真似をして笑わせる

オリヴィエはブーグラに手紙を書くが「転居先不明」で戻ってくる
ジャンとエロディーから「また放浪の旅に出た」と書いてある

マルソーは体が弱いため家庭教師パパ・ガトーがつき
オリヴィエは小学校に通いはじめるが、いつも空想に気をとられるせいで身が入らない

学校帰りは一番楽しい時間で、あらゆる通りを散策するが、ラバ通りだけは避けている
夜は布団をかぶって懐中電灯の灯りで本を読む

本を買うお金を貯めるために、アンリ伯父の工場も手伝う(紙の工場は楽しそうだなあ!
ヴィクトリア伯母が精力的に働く様子を見て感心する

デルソー家ではしょっちゅうパーティーが開かれ、映画に出演している俳優も来る

木曜の午後は、マルグリットとジャミと一緒に公園を散歩する
映画館の支配人はマルグリットの知り合いで、3人で映画を観る

アンリ伯父はオリヴィエの本好きを見て、図書館に登録するようすすめる

アンリ伯父:大きくなったら何になりたいんだね?
オリヴィエ:ぼく、何にでもなりたい!

アンリ伯父はオリヴィエを図書館に連れて行く
オリヴィエは散々迷って、AとZから1冊ずつ借りていくことにする

アンリ伯父:私は新聞スタンドから始めたんだ

アンリ伯父は自分の好きな散歩コースに連れて行く
「プチ・カジノ」で懐かしのマイヨールが歌い
2人で楽屋を訪ねて、アンリ伯父は若い頃
ハイ・バリトン歌手を目指して挫折したと分かる











ローザンヌの医者はマルソーの右肺に曇りを見つけて手紙をよこすが
「ばらすなよ」とオリヴィエに約束させる

オリヴィエはヴィクトリア伯母が捨てたたくさんの帽子をぼろ屋で売り
古本と交換したことを冗談にされる

ヴィクトリア伯母がオリヴィエに亡き母ヴィルジニーの墓参りに行くよう命令する
オリヴィエ:母さんは、こんな中にいないよ
マルグリット:天国にいるのよね
オリヴィエ:違うよ! 母さんはラバ通りの小物屋さんにいるんだ

ブランシュは付き合ってた男の子どもを妊娠して捨てられた

ヴィクトリア伯母はオリヴィエを連れて豪華なデパートに来る
アイスクリームを買ってあげるが、婦人は歩きながらアイスなんて食べないと教える

ヴィクトリア伯母:
あなたの気持ちは嬉しいわ
せっかくだから頂いて、私からあなたにプレゼントしましょう
どうぞお食べなさい







男っぽいエミリー伯母が訪ねて来て、嵐を呼ぶ

夏休みが近づき、マルソーはロンドン、ジャミと伯母はモンリシャール
オリヴィエは祖父母のいるソーグ村に行くことになる



マルソーはひどく咳き込み、痰に血が混じっているのを見てさらに心配になったオリヴィエは
自分だけにしまっておけず、誰にも話さないと約束させてマルグリットに話してしまう

オリヴィエの通信簿はひどく、マルソーに話すと、父のサインを真似て書いてくれる
家族で食事の際、通信簿の話になり、マルソーはあっさり、オリヴィエが偽造サインしたと話して
伯父、伯母は激怒する

マルグリットが伯母にマルソーの体調を話したため
マルソーはオリヴィエが裏切ったと知って鼻血が出るまで殴る

マルソー:裏切り者!

オリヴィエは夜、アパルトマンを出て、放浪の旅に出ようと思う
浴槽でひと晩寝て、1年ぶりにラバ通りを訪ね
学友ルルーと再会するが前のように話が続かない

マドはニースに引っ越し、ジャンとエロディーは念願のサン・シェリーにヴァカンスに出かけた
アルベルティーヌはなんだかよそよそしい話し方
オリヴィエは別れてから急に泣き出す

樽の中で2日目の夜を明かし、翌朝、また歩くと、気づけば出発地点に戻っていた
ぐったり疲れてベンチで寝ていると、心配して探していたマルソーが見つける
2人の間に初めて本当の兄弟らしい感情が生まれる

マルソー:帰ろう、みんな待ってるよ



数日後、みんなバラバラになる前に揃って散歩に出る
マルソーは結核の治療を受けるためにローザンヌの療養所に行くことになる
伯父は3本のミント・キャンディーを買って、3人の息子たちにあげる




少年時代の光 オリヴィエと1930年代のフランス 鹿島茂
オリヴィエが見たラバ通りは光と喜びに満ちていた
その理由の1つは、彼が自分であることに目覚める少年時代だったこと

第一次世界大戦の後、束の間訪れた平和で豊かな1920年代
1929年にニューヨークのウォール街で起きた株の大暴落の影響の不景気と失業
ジャンが失業したのもそのせい

第一次世界大戦で勝ったフランスは、アルザス・ロレーヌを取り戻し
多額の賠償金をドイツからとり、二度と戦争をする気はなかった
ナチスの噂があっても誰も本気で信じなかった

民衆はほどほどに働き、ほどほどの収入を得て、ほどほどの消費と娯楽で十分に幸せだった

モンマルトルでは仕事と生活が同じ場所で行われる昔風の生活習慣が残っていた
子どもは親の職業を継ぐのが当たり前

子どものいる若夫婦が家賃の安くて広いアパートを求めて引っ越してくることが多かった

フランスの夏は短く、パリは冬が長く厳しい
オリヴィエは初夏から真夏までの光があふれる通りで過ごしていた

伯父夫婦のアパルトマンは、遠くに感じられていたが
実際は歩いて行ける通りの区にあった








デルソー家は「ブルジョワ」と呼ばれる階級
先祖から受け継いだ土地の収穫で生活する貴族に対して
知恵を働かせて財をなした商人をさす

丁寧な言葉遣いなどにこだわるのは、貴族の真似ではなく
生活のモラルに忠実であろうとするから

男たちに伍して働くヴィクトリア伯母が着るシャネルスーツは
それまでの高級婦人服とは違って、新しいタイプの女性のためにデザインされていた







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