海辺のカフカを100ページほど読んだところで、文章に1Q84よりよほど艶があると書いた。
さらに読み進んでほめすぎかなと思い始めた。一巻の終わり近くでオイデプス王が出てきてゲンナリだ。エディプス・コンプレックスさえ出せば恰好がつくと思うのは三流の作家だけかと思っていたのにね。いまさら芸のないはなしだ。
筆はたしかに「世界の終り、」ころに比べると年の功で軽くなっているが、中身がない。世界の終り、は苦労して書いたらしく生硬なところはあるが、とにかく一つのプロトタイプを出している。
ユング言葉で言えばアーキタイプの試みがあった。そこで評価だ。ドストエフスキーに星五つをつけたから、いくらなんでも、村上氏に星五つはむりだ。そこでこうなる。
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 星四つ
海浜のカフカ 星三つ半(上の終りまで読んだところの評価)
1Q84 星三つ
念のために言うが、エディプス・コンプレックスすなわち人間はだれでも自分の母親とセクシャル・インターコースをしたいという潜在的願望を持っている、それがソフォクレスのオイデプス王のテーマだというのはジムクンドのフロちゃんの解釈だ。
そんなこととは夢知らず、運命のいたずらでそれとは知らずに予言どおりに結果的に父親を殺し、母親と結婚して子供まで作ってしまった、という宿命を悲劇として描いたのがソフォクレスであり、フロちゃんの解釈とはまったく関係ない。大体フロちゃん流のいやらしい妄想では悲劇でもなんでもなかろうが、喜劇だ。あるいは変態性欲者のポルノに貶められてしまう。
父親とは知らず街道で行きあったときのトラブルで相手を殺すわけ、そして母親とは知らずに結婚するのだから。よく読みなさいよ。まとも解釈できる人間がほとんどいないのは嘆かわしい。