穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

ノワールの意味はノワール2

2010-09-11 19:49:08 | ミステリー書評

ウィリアム・アイリシュもノワール作家なんだってね。ネヴィンズと言う人が書いたアイリッシュの伝記にもそうある(1988年)。訳者の定義、理解によるとノワール小説というのは「出口も入口もない物語」だそうだ。これは定義ではない。無意味な言明だ。

この伝記の作者は銀行員でアイリッシュ(ウールリッチ)の遺産管理を行っている。小説も書くらしいが。そのせいで、何年にどういう作品をどこに売って小切手で200ドル稼いだとかやたらに詳しい。映像化やラジオ化に関する契約なども詳しい。勿論作品解説もあるが、書評や売れ行きの紹介のほうが多い。

したがって、多数の短編についての評価もある。これが面白い。訳者もあとがきで書いているが彼の鑑識眼はあまり上等とはいえない。なかでも滑稽なのは「ヨシワラ殺人事件」を口をきわめてほめそやしていることだ。

これはあまりと言えばあまりなことであります。しかし、アメリカではこの作品の評判がいいらしい。何回も映像化されているという。21世紀に入ってから出版されたアンソロジーにはしっかりとヨシワラ殺人事件が入っている。

勿論妥当な評価をされている作品もあるにはあるのだが。


ノワールの意味はノワール1

2010-09-11 18:50:47 | ミステリー書評

ノワールというのは便利な言葉らしい。書評屋にとっては。最近はいたるところで安直に使われている。

ノワールの意味はノワール(真っ暗闇)のなかだ。ハメットの本質はノワールだというのがあった。どうも。

光文社文庫でハメットのガラスの鍵の新訳が出た。ハメットは日本語に訳せないのかなと思っていたので書店で目についた。女性の訳者だ。どんなものかな、と巻末だけ拾い読み。訳者のあとがきは短くて、しかも無難だ。買うまでには至らなかったが東大準教授とかいう人の解説があるので立ち読み。

これがひどい。準教授て何、昔の助教授のことか。ま、それはどうでもいい。この人がハメットの小説の特徴はノワールだというのだな。どういう意味で使っていいるのか。大学の教員のことだ、どうせアメリカの雑誌あたりの受け売りなんだろうが。だからといってノワールなるラベルが適切かどうか。

とにかく、ノワールの定義をしてもらわないことには処置なしだ。

オットトトン、定義があった。436ページあたり、ノワール小説の先駆者としてのハメット、だと。同、ノワールとは「出口のない閉塞した世界において、運命に翻弄されて虚しくあがく人間を描く作品」だそうだ。

小説の大半はこれに該当するところがあるだろう。ハメットの専売特許ではあるまい。また、電脳空間を漫歩するとノワール小説、あるいは映画の解説がある。その辺でしている定義めいたものとこの諏訪部浩一先生の定義は趣が違うようだ。

ノワールとは犯罪小説だ、犯人を主人公にした(犯罪者の視点で描いた)作品だという解説が多い。また、人間の意識下の邪悪な本質を描くものだというのもある。

ま、善意に解釈すればノワールという巨象、そして虚像を無数の書評屋がなでまわしているということかもしれない。あるものは尻をなで、あるものは足をなで、あるものは鼻をなでているのかもしれない。

電脳空間には代表的だというノワール小説家のリストがある。これがテンデンバラバラ。エルロイ位が共通しているかな。