穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

トルストイ「戦争と平和」

2014-10-05 16:00:28 | 書評
長雨に振り込められた気の滅入るような日ですな。そこで書き込みをする気になった。十日以上ご無沙汰でした。さぼってはいけません。

トルストイの「戦争と平和」第二巻第三部あたりまで読んだ。例によって進行形書評である。恥ずかしながら初読である。普通は中学生の頃読む本らしいが。

ところがどうも記憶にある場面が出てくる。はてな、ぼけたかなと思ったが、なに、映画を見たのをかすかに思い出したのだ。何度も映画されているようで、何時の誰の作品かはまったく憶えていないから相当昔のだ。

トルストイ40代前半の作品だが、他の長編に比べてツヤ、粘り、弾みがある。アンナ・カレーニナになるとすこし枯れてくる。復活になると抹香臭くなる。文章の比較の話で作品の程度の話ではない。

ドストエフスキーの中年時代の作品「罪と罰」がもっとも小説的で文章に艶があるのに似ている。

というわけで、まだ途中だが、長編では一番好きになりそうだ。ナポレオンとの数次の戦争の場面が出てくる。二巻の途中までだと、ロシア軍が敗走したアウステルリッツの戦闘場面が出てくる。ヘミングウェイが絶賛した様に戦闘場面はすばらしいというか見事である。

トルストイがこれを書いた頃にはロシアにも鉄道が出来たようだが、19世紀の初頭にはすべて馬車である。モスクワーペテルブルグ間も馬車しか無い。それにもかかわらず、貴族達は新幹線で東京・大阪を行き来するように往来している。

ドストエフスキーを読んだときにも感心したがロシア人というのはあのくらいの移動は苦にしないらしい。両都市間は東京大阪くらいの距離があるだろう。馬車でいって、昼間だけの移動だろうが、駅ごとに替え馬が置いてあるにしても馬車だと時速20キロがいいところだろう。30キロは出まい。ロシアは平野ばかりで真っ平らだから出来るのだろうが、それにしても三日以上はかかるだろう。雨でも振ったら立ち往生だろうし、ロシアの小説を読むたびに非現実的で不思議に思うところである。冬は豪雪だろうしね。

クッションの悪い馬車に三日も乗っているだけで疲れてしまうだろうに。まして貴族の女性も一緒だろう。いつもほんとかなと思う。もっとも本当らしいからしょうがないが。

今のウクライナに領地がある主人公等も馬車で旅行するんだから感心する。

ヘミングウェイを空間的作家だと書いたが、トルストイは時間的作家だ。ナボコフも同じことを別の表現で言っているらしいが。

妻を離縁したピエールがフリーメイソンに入る。アンドレイ公爵がアウステルリッツの戦闘で瀕死の重傷を負い、臨死体験というか神秘体験をする。この二人が主人公なのかなと思って読んでいる。