穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

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2020-12-17 08:01:28 | 小説みたいなもの

新連載開始、

登場人物

甲 警察幹部 地球植民三世

乙 同秘書  地球植民四世

丙 首席補佐官助手 星人

丁 日本地区本部長 星人

戌 首席補佐官   星人

山野井明      トップ屋、ノンフィクション作家

河野太郎      北国製薬研究開発部長

徳川虎之介     葵生物科学研究所代表

岸         国防省動員課係長

田村        厚生省薬事課課長補佐

勝五郎       内閣府人口調整庁係長

 

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甲は事務所に着くとデスクの一番上に置いてある書類のタイトルを一瞥して眉をひそめた。またか、とうんざりしたような顔になった。茶色い革張りの回転いすに腰を落とすと試すように前後左右に少しづつ動かして最適点を決めると、改めて深く座りなおした。

 やれやれとため息を漏らすと一番上の報告書を取り上げた。タイトルは「日本国東京都秋葉原における大型貨物運搬車の暴走による大量殺傷事件」とある。一昨日は茨城県土浦市で同様の事件があった。先週にはフランスのニースでやはり大型クレーンを積んだトラックが群集の中に突っ込んで百人近くの死傷者を出した。

 「よく続くもんだよ」と甲はうんざりしたように呟いた。「やはり死霊は空を奔るのかもしれないな。成層圏では空気抵抗もないからな」と独り言ちながら書類を取り上げた。大分前のことだが、世界各地で旅客機の墜落事故が短い期間に半ダースほど続いたことがあるのを甲は思い出した。

 「厄介なことになりそうだ」と思っていると、ドアを開けて乙が入ってきた。小笠原流に音がしないように注意してドアを閉めると「本部から、お出でになる前に連絡がありまして至急連続大量殺傷事件の原因を調べよ、と指令がございました」と薄ら笑いを浮かべながら報告した。

 彼女は緑色の髪を乳房と肩甲骨の下まで前後に振り分け垂らしている秘書である。乙は金色の右目を上司に向かってウインクした。「どうもこの女はすこし馴れ馴れしくなったようだ」と甲は先週の乱交パーティはまずかったな、と彼女のガラスの義眼のように見開いたままの紫色の左目を見ながらチクと反省した。