国会議事堂上空十五キロに停泊している巨大な宇宙船のなかにある統合管理本部(General Headquaters、GHQ)の大会議室の円卓のまわりには30人の星人と20人の日本人の高級官僚が着席して、対策本部長の入室を待機していた。
奥の入り口に本部長の姿が現れると一座は私語をやめた。彼は六本の足で磨きこまれた床の上を擦るようにして入ってくると正面の席に近づいた。着席すると秘書官が背後から介添えのために静かに近づき、マイクの高さと口向きを慎重に調節してから日本語翻訳用の装置をオンにした。本部長の丁(テイ)は自分の前におかれている報告書を取り上げると瞥見した。ガサゴソと言う音がマイクを通して会議室に流れた。彼はおもむろにキンキンと咳払いすると口を開いた。日本人の出席者は同時通訳用のヘッドフォンを装着した。
「諸君がご承知のように今年に入ってから理解に苦しむような事態が連続して発生した。日本人は何と言ったかね、そうそう通り魔事件というのだね。ご承知とおもうが、、」と彼は日本人の高級官僚たちを見て語りかけた。「地球人馴致計画は%一千年前に完成している。ご存じのとおりだ。これは自慢するわけではないが、ほぼ完ぺきな出来栄えなのだ。人間は畜群として考えられる最高のユーフォリアをエンジョイしているはずだ。しかるに、最近の事案はこれを否定するがごとき由々しきものである。もちろん、我々のプログラムには小さなバグ(プログラム上の瑕疵)はある。これは、こういってよければ、いわば(遊び)のようなものである。しかし、最近の連発する事案はシステムに棲むというか許された遊びの範疇を超えている、どうだね」と彼は首席補佐官の戌に問いかけた。
「仰せの通りでありますな」と彼は重々しく答えた。
「どうしてなのだろう、システムに経年疲労が出てきたのだろうか。それともなにか突然変異と言ったものだろうか。どうだろうか」と彼は思いついたように厚生大臣に問いかけた。
「アヘンの配給には手落ちがなかろうね」
いきなり質問を振られた厚労相は慌てふためいて立ち上がると目の前に積まれた書類を誤って床の上にまき散らした。
「とんでもございません、本部長。今年はケシの花が大豊作でありまして、備蓄も数年分ありますし」
「しかし、薬には適量ということもある。やりすぎても逆効果だ。まさか配給量が多すぎたということはないかね」
濡れ衣を着せられたかのように厚生大臣は両手を振り回した。
本部長はその有様を見て眉を顰めると、甲のほうをむいて「捜査はどうなっているかね、身柄は確保してあるのだったな」
「はい、確保して取り調べ中であります」
「犯人は逃げなかったのかね」
「いずれの事件の犯人も現場から逃走するという意思はまったくなかったようであります」
「それも妙な話だ。動機は何なのだね」
「それが雲をつかむような話でして。SNSで仲間外れにされたから、というのであります」
「なに、なんのことだ」
本部長はSNSなどという言葉は知らないのである。
日本人の出席者の間にもざわめきが起こった。彼らも初めて聞いた話らしい。