穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

失われし時を求めて 2 

2022-06-18 07:12:12 | 小説みたいなもの

 プルーストの「失われし時を求めて」の岩波文庫本の1と14を買った。何しろ全部で14分冊もある。とても全部は読めないだろうとはじめと終わりを買ったわけだ。1の180ページほど読んだが平板で退屈だね。記憶の戻ってくるのは訳者によれば「無意志的記憶による過去の再生」なんだそうだが、これは『記憶の無意志的な再生(想起)』とすべきではないか。そうしないと訳が分からない。
例の「紅茶に浸してトロンと柔らかくなったマドレーヌ(菓子)を口に含んだら昔のことを自然に映画一巻分くらい詳細に思い出した」という有名な(どうして有名か分からないのだが)記述もあった。とにかく記述者は臭覚あるいは味覚が記憶再生の入り口らしい。
 また、起きた時の反覚醒状態で今までに住んでいたすべての家の寝室の情景をことごとく思い出す、という記述も趣向なのだろう。寝起きは意識がはっきりしないし、思い出そうという意志も発動していないからね。
そういう断りをいれてこれから書くことは無意志的記憶ですよ、と延々と記述が続く。記述は時系列でやけに細かい。描写にひねりや変な加工はないようだ。極めて現実的、写実的で伝統的な記述方法である。ユダヤ系のブルジョワ大家族の地方都市やパリでの生活が延々と記述されている。
 時はナポレオン三世の後の第?共和制の十九世紀世紀末のことだ。どうもこの時代背景は我々にはすっきりと入ってこない。ちなみにプルーストの生没年は夏目漱石と重なる。幕末明治初期に生まれ大正時代に無くなっている。小説の背景に描かれている社会は漱石のほうがずっと現代の日本に近い印象を与える。
 と言うわけで、「失われし時を求めて」の内容はあまり参考にはなりそうもない。