創元推理文庫で表題の本を読んだ。1999年初版2023年71版でまあ、書評で取り上げる基準を満たしている。百年くらい前になるか、たしか英国のみすてりー評論家が探偵小説の二十規則というのを発表していて、犯人は最初から登場していなくてはいけないというのがある。それも名前があり、他の登場人物との関係がはっきりしている必要があるというものだった、記憶が正しければ。
貫井の小説では、無記名、職業不詳、他の登場人物と関係不明の人物が出てくる。こいつが犯人とはすぐ推測できる、作者が犯人に仕立て上げたい意図があるとはすぐわかる。が他の登場人物との関係は不明、不明じゃないけど明かしていない、という点では二十則を満たしていない。読者はこの名無しの権平が犯人とは最後の10ページで分かるが、小説的盛り上がりは皆無である。
400ページを超える長編であるが、終末の種明かしが10ページ強しかない。構成に問題がある。盛り上がりが全く欠ける。ストレートに呑み込めない。それまでの筋も反復が多く、冗長であった。