拙著のタイトルから伝記的な、ノンフィクション的なものと思われる読者もいるようだ。「中途退職者 新屋敷第六氏の生活と意見」というタイトルからリアリズムというか実在の背景があるかと思って、それにしては描写が中途半端だというような批判がある。
前にも書いたが18世紀のイギリスの小説家ローレンス・スターンの「紳士トリストラム・シャンデイの生活と意見」というふざけた滑稽小説をまねたものであるが、スターンの小説も現実のモデルがいたわけではない。そういう前例もあるから必ずしもリアリズムでなくてもいいだろうと紛らわしい題をつけたわけで読者を惑わせたとしたらお詫びしなければいけない。
失業者の意識と生活はどういうものか、と社会学的興味から手に取られた方にはお詫びを申し上げる。もっとも内容はスターンと似ているところはない。タイトルと文章が戯文調なところが似ているだけである。面白いと思っていただければ望外の喜びである。
あとはPTSDといっても教科書に出ているような例ばかりではないよ、といったところが特徴かもしれない。