:お待たせしました
??
おや、お忘れになりましたか。「破片」という連載狂詩文ですが、だいぶさぼっておりまして・・・何、待ってなんかいないよ、ですか。いやそうでしたか、失礼しました。:
正月休みはレトルト食品とインスタントばかり食っていた。一度川崎大師にお参りに二人でいった。いや大変な人出で、行列ができていて三時間も並びましたよ。ファイナンシャル・プランナーである妻は非常に縁起を担ぎますので、毎年正月には川崎大師にお参りするのだそうです。今年はお供をさせられました。
そんなわけで、今日は妻が久しぶりに出勤した後で、まだ松の内でしたが久しぶりにダウンタウンに第六は行った。店はもうやっていて、入り口にはまだかわいらしいしめ飾りが残っていた。さすがに店は閑散としている。女主人と新年の挨拶をすると席に座っていつもの頭がしびれるようなきついコーヒーを注文した。店にはもう下駄顔も卵頭も来ていた。
ようやく平年の紙面に戻った朝刊を持って老人たちのそばに行き「今年もどうぞよろしく」なんてもごもご言って隣に座った。
「正月は無事でしたか」
「は?平凡な正月で何時もの年と変わらず」なんて当たり障りのない挨拶をしていると、クルーケースを持った男が店に逃げ込むように入ってきた。
「おや、もう仕事ですか」
「ええ、診療所も昨日からやってましてね。これから行くところなんですがね」と言いながらしきりと店の入り口を気にしている。
「誰かと待ち合わせているんですか」
男ははっとわれに返ったように「いや下の本屋でね、キチガイにからまれてね。後をつけられたんですよ」
「その男は若いんですか」
「いや、中年の女なんですが」
「オンナ」なんだか彼のおびえた様子がおかしくなったのか卵頭が笑って訊いた。
「女性のキチガイというのはこわいからな」と下駄顔が言った。「このごろはいきなり包丁で切りつけたりする通り魔みたいな女がいるぜ」
「なぜトラブルになったんですか」と第九が尋ねた。
クルーケースはグラスのお冷を一口飲むと、「一階の本屋に入ったんですよ。棚の間を一回りしているといきなり背後から「触らないで」と女の声がしましてね。
「触りましたか」と卵型が期待をこめて膝を乗り出した。
「とんでもない。本棚の間をすり抜けたんですよ。ぼさぼさの髪の毛をした背の高い女がいたんですが、その後ろを体を横にしてすり抜けようとしたんです。触った感触はなかったんですが、このケースが当たったのかもしれない」と彼は椅子の脇におい銀色の冷凍ボックスのようなケースを叩いた。「しかしかすった程度でしょう。こちらには全然当たった感触はありませんでしたからね」と付け加えた。彼は水をもう一口飲むとまだ心配なのか入り口のほうを見た。