穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

承前 タイトルおよび著者について、ウィトゲンシュタインの火かき棒(二)

2018-09-22 07:02:47 | ウィットゲンシュタイン

前回取り上げた本についての続きである。

 翻訳のタイトルは「ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い10分間の大激論の謎」である。さて原題は

Witttgenstein’s Poker; The story of ten-minute argument between two great philosophers

 である。ここは意訳せずに原題を直訳したほうがいい。たとえば「ウィトゲンシュタインの火掻棒(あるいは火かき棒) 二人の偉大な哲学者の間で交わされた十分間の議論」

 火かき棒が分からないって。困ったな。現代の辞書を見た。シャープ電子辞書にはないね。困ったな。おっと待てよ、火掻という言葉は辞書にあるね。じゃあー火掻としておくか。それでも暖炉や石炭ストーブで火をおこしたり、かまどで飯を炊いたりした経験のない連中にはわからないか。俺はしつこいからね、つぎに英和辞典を見た。pokerの訳には火かき棒とあるからいいんじゃないかな。とにかく本のタイトルは訳の分からないほうが売れるらしいしね。

 俺なんかでもヒカキボウという物体を思い出すのに0.2秒かかったからね。骨董屋にしか今は無いかもしれない。

  俺としては珍しく11ページから読み始めたんだが議論の内容の説明がいつまでたっても出てこない。表題の二人の哲学者の生い立ちだとか、性格を表す(と著者が思う)エピソード、そして交友関係が延々と続く。おかしいな、と思って巻末にある訳者の解説を読んだ。普通は著者の紹介があるが、この解説には著者についての解説が一行もない。異常である。それで持ち前の探索癖を出してインターネットで調べてみた。これは二人の共著なんだが一人のほう、エドモンズについてはごく簡単なことしかわからない。どうもBBC関係のジャーナリストらしい。経歴を見ると哲学については学部並みの知識しかないらしい。もうひとりのエーディナウについては情報がない。これでは議論についての満足な掘り下げは期待できない。

  肝心の10分間については、思わせぶりな記述が途中で何回も出てくる。ストリッパーが脱ぐと見せて何回もパンティに手をかけるが最後まで脱がないのに似ている。この種の叙述テクニックは著者の得意とする手らしい。そして最後の2,30ページになるとやや詳しいのが出てくるが、やはり「哲学的な解説」には程遠い。

  ようするにジャーナリストとして周辺人間の取材を幅広く行い、資料もひろく集めているからその辺からWとポパーを中心として交友関係とか社会事情(二人ともユダヤ人でナチスの迫害を逃れるのに必死だった)を知るにはやや興味深いかもしれない。もちろん著者たちの取材、資料収集が適切で信頼できるとしたらであるが。つづく

 


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