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観客席で思ったこと ~200文字限定のスポーツコラム~
 



U-20女子ワールドカップ2012・最終日
2012/9/8 東京・国立競技場

■MVPはディフェンダーの土光真代
FIFA U-20女子ワールドカップ・ジャパン2012の3位決定戦は、2対1でナイジェリアを破った日本がU-20大会史上初の3位を決めた。この大会の日本の攻撃を象徴するように、田中陽子のロングシュートで先制し、柴田華絵の小気味よいドリブルからのラストパスを西川明花が冷静に追加点を決めた。終盤に1点を返されたが、ナイジェリアの反撃をしのぎきって、銅メダルを獲得した。田中(陽)は得点王の2位になり、柴田は大会優秀選手の2位に選ばれた。
ヤングなでしこの攻撃陣に注目が集まるなかで、この試合、この大会のヤングなでしこのMVPには、ディフェンダーの土光真代をあげたい。1996年5月3日生まれの16歳はチーム最年少でありながら、大会を通じて守備の中心をまかされた。ニュージーランド戦での2失点や、ドイツ戦での序盤での3失点など、必ずしもヤングなでしこの守備はうまくいったとは言えないかもしれない。
しかしながら、ドイツ戦での完敗ショックから立ち直り、3位決定戦のナイジェリア戦では、激しく迫るナイジェリアの選手相手に体をはった守備を随所にみせ、最終ラインからの攻撃の組み立ての起点としても落ち着いたプレーぶりだった。そして、なによりも、この短期間の大会のなかでの成長ぶりが目覚ましく、素晴らしかったと思う。
次回の女子ワールドカップ・カナダ大会(2015年)では19歳、そして日本が招致を狙う2019年の大会でも、まだ23歳である。なでしこの将来も託したMVPでもある。

■決勝戦は別格
日本対ナイジェリアの3位決定戦後に行われた決勝戦は、同じU-20女子の大会なのかと思うほどレベルの差を感じた。
まず米国、ドイツ両チームの選手の体格が違った。ウォーミングアップのために入場してきた選手を間近でみると、3位決定戦が、まるで子どもの試合のようにも思えた。アップから強烈なシュートをゴールにつきさすドイツ。グループリーグでも米国に勝っているので、ドイツの勝利は間違いないと思っていたが……。
試合は、テクニック、スピード、フィジカルなど、あらゆる面でフル代表と比べて遜色のないハイレベルのものだった。(とはいえ、なでしこジャパンが対戦したら、きっときっちりと勝つことだろう。)
ともにクロスからチャンスを作ろうとするが、守備の壁があつく得点にはいたらない。どちらかというと、米国の方が、スピードに加えてしなやかさがあり、どこか突破口を見出す予感はあった。そして、それが前半の終わりに現実となった。右サイドでディフェンスをかわしたヘイズからのクロスにオハイが中央で合わせてゴール。このオハイは、90分間を通じて、随所でスピードスターの片りんを見せつけてくれた。フル代表のアレックス・モーガンのようになるか。それにしても、米国のしたたかさ、強さを感じた試合内容だった。
一方、シュート数で圧倒したドイツだったが、結局、実らず、この大会での初失点によって優勝を逃した。その負け方をみると、国際大会で上位には進出するものの、優勝に手が届かないという最近のドイツ・サッカーが抱える課題が、U-20女子でも共通しているように感じた。良い意味でも、悪い意味でも、ドイツのサッカーは国全体で統一されているということか。

■日本の運営能力の高さ
今大会は、もともとはウズベキスタン開催の予定だったが、事情により日本で代替開催となった。今年の2月に正式に開催が決まってから約半年という短い準備期間で、これだけの素晴らしい大会を開催できたことは、2002年の日韓W杯や数多くの国際大会をこなしてきた日本サッカー界の事業運営能力の高さをあらためて国内外に示すことになった。
ただし、アウェイ側のサポーター席の入場方法など、日韓問題の影響もあったのだろうが、やりすぎのような気がした。本来ならば、ホームとアウェイの区別なくサポーターを収容しなければならないのだから。
また、決勝戦のハーフタイムの宮間あや選手の「これからも女子サッカーの応援をよろしくお願いします」というコメントのなかで、翌日のなでしこオールスターやカップ戦決勝にふれずに、次週の男子のW杯予選の応援をしていたのがFIFAの指導だとしたら、それこそやりすぎだろう。
しかしながら、試合とは別に開催されたサッカー少女を対象とした「レガシー・プログラム」なども含めて、素晴らしい運営だったことは間違いない。このことは、2019年(あるいは2023年)の女子サッカー・ワールドカップや2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致活動におおいにプラスになることだろう。

■大会成功の要因
組織委員会によるスムーズな運営だけでは、これほどの盛り上がりは生まれなかったのは、言うまでもない。
何よりも、ヤングなでしこの活躍があった。地元開催に加えて、なでしこジャパンの女子ワールドカップの優勝、ロンドンオリンピックでの銀メダル獲得によって、ヤングなでしこも、当然のごとく、上位進出が期待されていた。若い選手へのプレッシャーも大きかったことだろう。そのプレッシャーをはねのけ、期待にこたえてくれたヤングなでしこに拍手を送りたい。
そのヤングなでしこの活躍が、テレビで生中継されたことも大きかった。昨年の女子ワールドカップも中継したフジテレビだが、状況はまったく違うので、その英断には敬服する。
会場内では、「大会盛り上げ隊」と称するサポーターが、日本だけでなく参加した全チームを応援し、会場を盛り上げてくれた。
3位決定戦には、3万人近くのサポーターが会場に足を運んだ。特に、5000円のカテゴリー1(メインスタンド席)が完売したと聞いて驚いた。ヤングなでしこの表彰台での晴れ姿を見たかったのだろうか。
ふりかえると、今の日本における女子サッカーのプラスのうねりが集約されたような大会だった。サッカーの魅力に、新たな一面を加えることができたような貴重な観戦体験だった。サッカー・ピープルの一人として誇らしくもあり、広くスポーツ界へ好影響をもたらせばいいなと思った。



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