ビバ!サッカー研究会の12月の月例会で、伝説のサッカー番組「三菱ダイヤモンドサッカー」のディレクターだった寺尾皖次さんの話を聞いた。
寺尾さんの話の中で、現在のサッカー中継への不満として、カメラの台数が多すぎるということがあった。ダイヤモンドサッカーが始まった頃は、カメラは3台だったそうだ。センターライン上の高いところから、ピッチ全体を俯瞰するカメラ。そして、それよりもやや低い位置からそれぞれのゴール付近を狙うカメラが2台で、合計3台である。それが今や、10台以上のカメラが、ピッチ上のプレーはもちろん、選手や監督の表情までを追いかける。W杯では、たしか16台ものカメラが使われていたはずだ。
多くのカメラでいろいろなシーンを撮っていても、その中のどの映像を選んで、テレビに流すのかは、ディレクターの判断による。たくさん並んだ映像を同時に見ながらスイッチイングしていくのだ。
寺尾さんの経験では、1人のディレクターが追えるのは、せいぜい3つか4つの画面だそうだ。それに、3、4台でも十分に、サッカーの試合の流れを追えるそうだ。それ以上になると、せっかくあるのだから使わなくてはならないという気持ちになり、かえって映像が散漫になってしまい、肝心な試合の流れがつかめなくなってしまうとも。
寺尾さんの話の前に、ダイヤモンドサッカーの元となった、イギリスBBC放送の「マッチ・オブ・ザ・デイ」のビデオを見た。マンチェスター・ユナイテッドとベンフィカ・リスボンが対戦した1968年のチャンピオンズ・カップの決勝戦だった。歴史に残る一戦である。
数が少ないはずのカメラが、ジョージ・ベストの華麗なドリブルを余裕をもって追いかけていた。余計なスローVTRや選手の表情のアップがないために、サッカーの流れを楽しめる。なんとも味わい深く、自然に目が画面に吸い込まれてしまった。
寺尾さんの話を聞きながら、そのモノクロのサッカー中継を思い出し、今では普通となっている過剰なカメラワークや余計な実況や解説によって、サッカー本来のおもしろさが損なわれていることをあらためて感じた。
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