現代ビジネス 12月13日(日)13時1分配信
頭に当たると即死?「タマゴ」脅威の殺傷力~物理学的に徹底検証してみた!
現代ビジネス 12月13日(日)13時1分配信
〔PHOTO〕iStock

もろいもの。やさしく扱うもの。そんなイメージのあるタマゴが、状況によって人の頭を叩き割る、恐ろしい凶器に変貌する。これを読めば頭上が気になる。物理学が示す驚異の計算結果をご覧あれ。
300個も投げた
……ガッ、バリッ!
高速道路を快調に運転していたとき、突然の破壊音とともに、フロントガラスがクモの巣のようにひび割れ、視界が真っ黄色に染まる―。
神奈川県内を走る東名高速道路で、そんな衝撃的な事件が発生した。
ボンネットがこぶし大にへこんで穴ができたり、車体側面に傷がついたりと、被害も多種多様だ。
「被害届は41件に上ります。ルーフ(屋根)やフロントピラーなどが傷ついたりへこんだりした車両が複数ありました。いちばんひどい被害では、フロントガラスの上から下までひびが入って、他の傷と合わせ修理代が55万円ほどかかるものもあります」(現場を管轄する神奈川県警松田警察署)
はたして、複数の車に甚大な被害を与えた凶器とは何だったのか。
「それは、タマゴです。犯行グループは4人で、買い物かごにタマゴパックをまとめて用意し、高速道路にかかる陸橋のフェンスによじ登って、走ってきた車めがけて投げつけました」
事件は、今秋9月20日未明と午後10時頃の、2夜連続で発生した。1回目の事件を受けて付近に待機していた警察官が、2回目のタマゴ投げつけの通報を受けて駆け付けるまで、15分間。その時間に犯人たちは、約300個ものタマゴを、高速道路を走る車を狙って、投げつづけたのだ。
動機は、「運転手の驚く顔が見たかったから」。21歳の兄と高校3年生の18歳の弟、遊び仲間の少年二人は、ふざけ半分だったと犯行を認めている。
事件は一件落着――。そう思われた矢先、今度は神奈川県警中原警察署が、武蔵小杉のマンション近くに、こんな看板を立てるはめになった。
〈落下物に注意! 生卵が落ちてくる事案が発生しました。十分に注意してください〉
今度の犯人は、就職活動に失敗した慶応大学の学生(22歳)。10月26日から11月11日にかけて、企業からの不合格通知が来るたびに、地上15mの高さにある部屋の窓からタマゴを投げ落としていたというのだ。幸い、深刻な被害こそ出なかったが、実際にタマゴが当たった女性もいた。
この二つの事件を、たかがいたずら、たかがタマゴ―、そんな風に軽く考えてはいけない。事実、タマゴには自動車のボンネットをへこませ、フロントガラスを割るほどの破壊力があった。万が一、人に当たれば、まさに「殺人タマゴ」と化すことは想像に難くない。
だが、石というなら分かるが、あの壊れやすいタマゴが、どのようにして自動車に深刻な被害を与えたのだろう。状況を検証するため、本誌記者は神奈川県足柄上郡大井町にある高速道路の事件現場に向かった。
「今回は壊れやすいタマゴをぶつけて車のフロントガラスを割ったということですが、被害が大きくなった理由は『相対速度』です。タマゴのほうは、ものを下に投げ下ろしたわけですから、場合によっては時速100km近く出ていたかもしれない。一方、向かい合って走ってくる車も時速100kmだとすると、相対速度は時速200kmと新幹線並みの速さになります」
現場の状況からすると、フェンスによじ登った無理な姿勢で、タマゴを速く投げるのは難しそうだが、「犯人の中には野球経験者もいたので、かなりの速度が出たのではないか」(前出・神奈川県警松田警察署)という。
では、タマゴを車にぶつけたときの衝撃力はどれくらいになっていたのか。北里大学理学部の山本明利教授は、次のように概算してくれた。
「かりに、手で放ったタマゴが時速80kmで、時速100kmの車と正面衝突したと考えてみます。相対速度は時速180km。秒速に直すと50mです。
これをもとに、衝撃が与えられた時間を計算してみます。
長さ5cmのタマゴがまっすぐ当たって、当たった場所は衝突した瞬間すぐに変形して潰れたとします。相対的にタマゴは秒速50mでフロントガラスにぶつかっていますから、5cmのタマゴが端から端までぶつかりきるのにかかる時間は、5cm÷秒速50m=0・001秒。つまり、1ミリ秒で衝突が終わります」

「重さ300kgの凶器」と化す
ここから、話は少し難しくなるが、分かりやすく解説してもらおう。
「次に、運動している物体が他の物体に与える衝撃の大きさを考えます。これは物体の質量×速度で計算される『運動量』で示すことができます。『重いものが、速く動いていれば、ぶつかったときに相手に与える力が大きい』とイメージしてください。
タマゴの質量を60g=0・06kgとすると、相対速度の秒速50mとかけて、相対運動量は3kgm/秒となります。
これで、衝撃力が計算できます。タマゴはフロントガラスに、これだけの相対運動量を、1ミリ秒の間にたたきつけることになりますから、その瞬間の力は、3kgm/秒÷1ミリ秒=3000N(ニュートン、力の単位)となるのです」
3000Nというと、どれほどの力なのか。
「体重約300kgの人が全体重をかけるのと同じと考えていいでしょう。
実際には、タマゴが当たったごくわずかな範囲に、この力が集中します。タマゴの直径というのは3cmほどでしょうか。すると、直径3cmの竹馬一本に体重
これでは、ガラスが割れ、アルミ製のボンネットがへこむのも無理はない。さらに詳細に、衝突で車に及ぼされた破壊の程度を求めるには、衝突物の硬さなど、さまざまな要素が関係する。
タマゴの場合、縦に当たった場合が最も硬く、「以前、実験してみたところ、じっくり押せば5kg重くらいの力まで耐えられた」(前出・左巻氏)というから、フロントガラスが大きく破損するなど、被害が大きかった車に対しては、タマゴがまっすぐ縦にぶつかった可能性もある。
こんな力を持ったタマゴが、バイクやオープンカーで走る人の頭に、直接当たっていたら……。
力士時代の小錦が、最も重かったときの体重が285kg。小錦並みの巨漢が、竹馬一本に乗って、頭の上に全体重をかけてくると想像してほしい。結果は血みどろの悲惨なものになるだろう。もちろん、即死だ。
元東京都監察医務院院長で、長年、数々の事件事故の現場で遺体を検視してきた、監察医の上野正彦氏は、こう指摘する。
「頭蓋骨というのは、厚さが4~5mm、もっとも厚いところは8mmあって、非常に丈夫なものです。しかし、飲み屋で酔って転んだだけで亡くなった人もいる。ふらふらと帰宅したのを、本人も家族も酒のせいだと考えたけれども、脳内に150ccも出血していて、朝には死んでいた。頭蓋骨が割れなくても、頭に衝撃が加わることは、死につながる大変危険なことなのです」
タマゴ投げが決して「いたずら」では済まないことが、よくお分かりいただけただろう。
「週刊現代」2015年12月12日より 」
高速道路にかかる陸橋300個も生卵を投げたは、本当に勿体無いことです。平和な今の日本だから、生卵が誰でも沢山買えるのです。もつと食べ物を大切にすべきです。
高速道路にかかる陸橋のフェンスによじ登って下を走る車やマンションの地上15mの高さにある部屋の窓からタマゴを投げ落すと十分凶器になると言う証明です。悪い真似は、やめて欲しいと思います。