バブル期に暗躍した、所有者になりすまして不動産を売り飛ばして巨額の現金をだまし取る「地面師」の動きが活発化している。先日には、大手住宅 メーカー「積水ハウス」(大阪市)が、地面師に支払った63億円のほとんどが回収できなくなっているとして、警視庁に刑事告訴する事案もあった。同様の被 害に遭った不動産関係者は「『いい土地を誰より早く押さえたい』と考える不動産業者の弱みを突いてくる」と手口の巧妙さを指摘している。
巨額現金を詐取
JR五反田駅(東京都品川区)から歩いて約5分。近代的なオフィス街にぽっかりとあいた穴のように、高い塀と樹木に囲まれた旅館がある。同社が「取引事故」に巻き込まれた2千平方メートルの土地だ。登記簿などによると、所有者は旅館を営んでいた女性だった。
関係者によると今年4月、この土地をめぐる取引契約が結ばれた。契約は、所有者を名乗る女性から東京都港区の不動産業者がいったん土地を買い取り、即座に積水ハウスに転売するというものだった。
積水ハウスは6月、購入代金70億円のうち63億円を不動産業者に支払い、登記を法務局に申請。しかし約1週間後、法務局から「所有者の本人確認書類が偽造されている」と指摘され、登記は却下された。
この女性とはその後連絡がつかなくなり、代金のほとんどが未回収のままだ。
五輪特需で再び
地面師は、不動産価格が上昇し、不動産業者による土地の「買い」需要が高まった際に現れるとされ、2020年東京五輪に向けた不動産価格の高騰に合わせて、再び活動を活発化させている。
東京都が公表している基準地価によると、今年7月1日時点で、東京23区の住宅地は前年より3・3%、商業地は5・9%上昇。上昇傾向は平成25年度以 降、5年連続で、それに合わせて地面師による詐欺被害も増加。捜査関係者は「全てを把握しきれないほど被害相談がある」という。
地面師の手口は土地所有を装うことから始まる。所有者を名乗る人物が全くの別人ということもあれば、代理人が登場することもある。ただ、共通するのは、購入側が代金を支払うと、偽の「所有者」側とは連絡がつかなくなることだ。
購入側が土地所有者の本人確認を徹底すれば被害を防ぐことができるはずだが、地面師側も本人確認書類などを精巧に偽造するなどしており、見抜くのは容易ではないという。
弱みにつけ込み
過去に地面師被害に遭った不動産業の60代男性は「所有者を名乗る人物の身分証はきちんとしていた。急いで売ろうとしているのが不思議だったが、いい土地 を購入できると思えば、多少トラブルになっても後で代金を上乗せすれば解決できると考え、怪しさに目をつぶってしまった」と振り返る。
男性は司法書士から「この取引は危ない」と助言されたが、代金を支払った。「取引自体が嘘とは考えもせず、『他にも興味を示している社がある』と言われ、焦燥感を刺激された。今思えば全てが詐欺の仕掛けだった」と悔やむ。
男性は勤務先の不動産業務を1人で担当していた。しかし「積水ハウスのような大企業であれば担当者1人で全てを決めることはできないはず。なぜチェックが働かなかったのだろうか」と男性は首をかしげる。
積水ハウスによると、取引には弁護士や司法書士も関与していたが、書類偽造は法務局から指摘されるまで見抜けなかったという。
刑事告訴を受け、警視庁捜査2課は関与した人物や手続き内容などの確認に着手。全容解明を進めている。』
東京オリンピック開催で、東京の都心では不動産バブルが、起きていると言う現実です。
デジタル大辞泉の解説
じめん‐し〔ヂメン‐〕【地面師】
他人の所有地を利用して
詐欺を働く
者。
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
朝日新聞掲載「キーワード」の解説
地面師
土地や建物の持ち主が知らないうちに本人になりすまして不動産を勝手に転売して代金をだまし取ったり、担保に入れて金を借りたりする詐欺グループ。書類を 偽造する役や土地を探す役、持ち主になりすます役など役割を分担しているとされる。地価高騰で土地取引が活発だった1990年前後のバブル期も地面師によ る事件が目立った。