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店内は客が少ないのに25年連続増収 西松屋がコロナ禍でも絶好調の理由
2020/08/24 06:30
店内は客が少ないのに25年連続増収 西松屋がコロナ禍でも絶好調の理由
(ITmedia ビジネスオンライン)
コロナ禍でアパレル業界が不振に陥り、店舗を持つ小売業が苦戦しています。その一方、業績を拡大させている企業があります。それが西松屋チェーン(以下、西松屋)です。西松屋はしかも、縮小が続く子ども服の販売を商売の軸にしています。
「アパレル」「子ども服」「小売業」という一般的には三重苦の商売でありながら、2021年2月期には単独税引き後利益が前期比5倍になりそうだという業績発表を行いました。
いつもガラガラ。人のいる気配がない。しかし店舗数はすでに1000を超え、さらに出店増加中。西松屋だけがなぜ伸びるのか。一般的な常識を打破する西松屋の経営手法に、コロナ禍でも伸びる小売・サービス業界の成長因子を見つけました。
流通小売・サービス業のコンサルティングを約30年続けてきているムガマエ株式会社代表の経営コンサルタント、岩崎剛幸がマーケティングの視点から分析していきます。
●西松屋は不況に強い企業
西松屋が2020年8月に発表した数字は驚きでした。各社がコロナ禍で今期の年間数値予測を見送る中、同社は21年度の数値予測を上方修正したのです。売上高予想が前期比9%増の1560億円、経常利益は同3.7倍の88億円、単独税引き後利益は同5.2倍の56億円。6月に発表した業績予想をさらに上回るという予測です。これはコロナ禍でも同社が消費者に支持され、ここ数カ月も売り上げを伸ばしてきた証です。
緊急事態宣言の影響もあり、一時は40店舗程度を休業するなど、業績を落とした月はありました。しかし、客数、客単価共に伸ばし、全店売上高は今期の累計でも113.6%と2桁の伸びです。
実は、9年前の11年ごろにも同社は「16期連続増収企業」として注目されていました。この年には東日本大震災があって、日本全国が不況に陥りました。
同社は世の中が景気後退局面に入り、デフレ傾向が強まると非常に強さを発揮する、まさにリセッションブランドなのです。
●業界に染まっていないからできた非常識経営
西松屋は兵庫県姫路市が本社のローカル企業です。同社を率いるのは鉄鋼メーカーの研究者から2代目社長に就任した大村禎史氏(20年8月21日に代表取締役会長CEOに就任)。1985年に義父の会社をサポートするため西松屋に転職。当時の会社の規模は店舗数30店、売上高30億円程度でした。1956(昭和31)年に創業した同社は、出産準備品やお宮詣(まい)り衣装を扱う店として設立されました。おそらく当時の日本の小売業ですから、他社と同様に経営手法はアナログ的で、中小企業独特のムダも多かったことでしょう。
生産性と効率性を求める製造業を見てきた大村氏の目には、当時の小売業の現場は「売り上げ至上主義」がまかり通る「ムダの多い会社」と映ったのです。そこで、製造業で学んだノウハウを自社の経営に活用していきました。それが、「効率性を上げることによって収益性を高め、売り上げを拡大させる」という、それまでの小売業には見られなかった戦略でした。
西松屋は直近の5年間も増収を続けています。利益にはばらつきはあるものの、およそ3〜5%程度の経常利益率を維持しています。
同社は必ずしも高収益型の経営ではありませんが、売り上げを伸ばし、適切な利益を確保さえできれば、あとは消費者に還元しようと考えています。「顧客満足と効率性の追求」を第一に置いて、売り上げと利益は結果と捉えています。企業にとって大切なのは、単に規模を追うことではなく、ムダを省き、削った分で商品開発を行い、より安い価格で消費者に商品を届ける発想だと気付かされます。
●西松屋の特徴は“ガラガラ”の店内、だが顧客満足度は高い
西松屋の店舗に行くと、大抵、店内はガラガラです。いつも「空いている」印象です。
お客さんは本当に来ているのか? と心配になるのですが、売り上げは伸びています。しかも、「顧客満足度」調査(サービス産業生産性協議会)では、何度も「衣料品専門店」分野で1位に。特に、子どもを持つ母親から絶大な人気を誇ります。
店舗はガラガラなのにもうかる理由。それは、同社が徹底的にムダを排除していった結果出来上がった、独自の効率的な店舗づくりにあったのです。
(1): 西松屋の店舗フォーマットがコロナ禍の繁盛店条件にぴったりあてはまった
西松屋の店舗は必ずしも良い立地にはありません。郊外の、幹線道路から一本入った脇道のような二等立地に店を構えています。なぜなら、その方が「賃料が安くなる」だけでなく、「目立たないので客で混みづらい」店を作れるからです。立地選定は大きな特徴の一つといえるかもしれません。
また、店内は主導線(売り場のメインとなる通路)の幅が2メートル程度とられています。通常は、ベビーカー2台が通れる1.5メートル程度の幅なのですが、同社ではベビーカー3台が楽々とすれ違えるほどの広さが特徴です。その分、商品が置けなくなるので、売り上げに限界がでてきます。売上至上主義であれば決してやらない導線計画です。
また、アパレル業界では当たり前のマネキンやセール品が並ぶワゴンも置かず、すっきりとした店内陳列という印象です。商品は、比較しやすいよう壁一面にハンギングで陳列されています。あまりカッコいい売り場ではありません。しかし、この陳列によって客の滞在時間は他社と比べて20分以上短くなったものの、1人当たり購入点数は4〜5点を維持できています。客にとっては「欲しいものがすぐに買えて、すぐに店を出られる買い物しやすい店」といえます。
さらに同社の特徴は、「1店舗当たりの売り上げが低い」ことです。実際に同業の赤ちゃん本舗(セブン&アイグループ)と比較するとよく分かります。
1店舗当たりの売り上げは、赤ちゃん本舗の方が6倍弱、坪効率も3倍強あります。しかし、西松屋の店舗数は赤ちゃん本舗の9倍。西松屋は人口10万人に1店舗程度の出店計画を持っていますので、出店していない立地はないほどです。時には自店の競合店として自店を出店させるという常識では考えられないこともしてきました。結果的に1店舗当たりの売り上げは1億4000万円ほどです。300坪(200〜300坪が同社の出店パターン)の面積を持つ店として売り上げは小さい部類に入ります。しかし、これが結果的にソーシャルディスタンスを保つという、With/アフターコロナの「繁盛店条件」につながっているのです。
「都心ではない郊外だから車で買い物に行ける。店舗が広くて、社会的距離がとりやすい。客が少ないからソーシャルディスタンスも保てる」という、まさに今の時代の繁盛店条件に西松屋はぴったりあてはまっているのです。
(2): ガラガラなのにもうかるのは販売員がムダな作業をしなくてすむから
西松屋では1店舗を2人のパート店員で運営することを基本にしてきました。現在の300坪パターンでも3〜4人でまわしています。正社員の店長は1人で5店舗を掛け持ちで見るという体制です。
実は同社は「生産性が非常に高い企業」なのです。
同社の20年2月期の正社員は696人。パートタイム社員は3993人。この数、16年度からほぼ変わっていないのです。正社員1人当たりの売り上げで見ると2億円です! 前回ご紹介したコストコが1億1000万円ですから、2倍の効率です。ただし、1店舗当たりの売り上げは小さいので店舗スタッフ数も少なく、販売にかかる人件費を抑えることが可能です。
さらに、同社では、一般的な衣料品小売りでやらなければならない作業を極力カットしているので、店舗スタッフの負荷が少ないことでも有名です。
一番は何といっても「過剰な接客をしない」というルールでしょう。お客さまに話しかけて売り上げを増やしなさいというマニュアルもありません。それは売り上げを最大値まで上げることにつながらないかもしれませんが、最低限の売り上げは接客しなくても確保できる仕組みになっているともいえます。しかも店舗スタッフには残業もありません。従って、売り場はできるだけ客自身が商品を選びとれるように工夫されています。
例えば、高い位置の商品を客が自分で取れるよう、先がY字になった「商品取り棒」を設置するなどの工夫で作業を効率化しています。
さらに西松屋では店舗を全国統一のレイアウトにしています。ですから、兵庫県にある本社で売り場を一元管理できます。本社社員が各店舗に直接行かなくとも店内画像を確認するだけで、店内の状態を確認し、売り場変更の指示ができる体制になっています。
また、本部の在庫管理責任者が全店の「値下げ」「商品の店舗間移動」「返品の指示」「棚割り」まで全部決定します。この仕組みによって、各店舗では在庫管理の責任者を置かなくて済むわけですから、結果的に人件費が抑えられ、同時に店舗の質を保つことができるのです。
この売り場管理のシステムによって、全国約1000店舗をわずか数人だけで管理できるようにしている点が、同社のガラガラでももうかる仕組みを支えています。
さらに、同社には有線放送などのBGMやスタンプカード、お客さまリストもありません。設備も最小限で、アフターメンテナンスがかかる部分は極力なくしています。その分を徹底的にコスト削減につなげて、低価格商品開発につなげているのです。
(3): 全ては「低価格で魅力的な商品開発のために」
同社のこうした努力は何のためにしているのか。それは、魅力的な商品開発のためと断言してもいいでしょう。
以前、ある雑誌のインタビューで大村氏はこう発言していました。
「毎日の子育てが楽しくなるような、『豊かなくらし』を実現したい。そのために私たちは、お客さまに満足していただける品質の商品をどこよりも低価格で、最も便利に提供していきたいと常に考えています」
同社が徹底的に店舗にかかるムダを省き、ロスをなくし、余分な経費を削っているのは、その分をより魅力的な商品開発につなげていきたいと考えているからです。
同社がターゲットとしている「子育て世帯」。彼らにとって一番の課題は何かを突き詰めた結果、子育て世帯の可処分所得が下がり続けていることに行き着いたのではないかと私は推測しています。これが西松屋の戦略の本質です。
ですから同社では「399円の半袖Tシャツ」「1万円以下のベビーカー開発」といった、いわゆるキュッキューのオリジナル商品(末尾が99円の低価格商品)をメーカーと共同で開発し、一定以上の粗利を確保して、低価格を実現させる商品開発に力を入れています。POSで売れ筋を徹底管理する新商品管理システム、取引先と作ってきた物流システム、そして他社を圧倒するこの商品開発力が同社を躍進させてきました。
西松屋の商品開発にかける努力はすさまじいものがあります。私のコンサルティング先が委託を受けて西松屋のある商品を作っています。西松屋の開発担当者(家電メーカー出身)は、品質に関して疑問を抱いたり、原価低減に向けて取り組む余地があると考えたりすると、海外の生産工場にまで一緒に出向き、その生産ラインを徹底的に研究し、ムダを省く提案をします。そして、西松屋の取る粗利を確保しつつ、最終的には業界最安値の商品価格を設定してしまうのです。
結果的に2000年には29.1%だった粗利率を、20年度には34.8%にまで高めたのです。
(4): 子どもの数が減っているから市場はなくなるのウソ
西松屋はターゲット顧客を「低価格でいいものであれば買ってくれるはずだ」と捉えて経営をしているのだと思います。
子育てにはお金がかかります。しかし、子育て家庭の可処分所得は下がり続けています。今の時代に子どもを育てるのはなかなか難しいことです。一番の負担である「子育てにかかる費用の低減」に貢献できれば、ターゲットの支持を得られるはずです。
日本には年間で86万人(19年度)の出生数があります。14歳までを同社がターゲットとする市場としても、約1500万人の子ども市場があります。
西松屋は10万人の商圏には原則1店舗出すと決めています。
子ども服のマーケットサイズ(年間1人当たり消費支出金額)は約7000円。玩具や消耗品、靴などの周辺商品を含めると西松屋が取り扱う商品のマーケットサイズは1万円程度になります。
では、西松屋の商圏内シェアを算出してみます。
(1)商圏内総需要額=子ども関連マーケットサイズ×商圏人口=1万円×10万人=10億円
(2)西松屋の1店舗当たり売り上げ=1.42億円
(3)西松屋の商圏内シェア=(2)÷(1)=1.42億円÷10億円=14.2%
つまり、西松屋の1店舗当たりの売り上げは小さいのですが、たくさんの店舗を出店することによって、全国市場では15%のシェアを確保することが可能になるのです。
日本全国の10万人以上の商圏に1店舗ずつ出店すれば、子ども関連市場の15%のシェア(優位シェア)をとることが可能で、会社としても安定的な数字を確保できます。これがコロナ禍かつ縮小市場でももうかる企業のマーケティング戦略の論理です。
●西松屋が変えた繁盛店の常識がコロナ禍の繁盛店条件に
西松屋の経営には、コロナ禍で生き抜くための知恵があふれてい