ケニー・ドーハムはハードバップ期を代表するトランぺッターですが、代表作と言えば「アフロ・キューバン」「カフェ・ボヘミア」等のブルーノートの諸作品、プレスティッジ系列の「静かなるケニー」を思い出します。一方、同じく名門レーベルであるリヴァーサイドに残した4枚のリーダー作はいずれも地味な扱いを受けています。ただ、それも仕方ない面があり、どれも少しクセありなのです。1957年の「ジャズ・コントラスツ」は半分がソニー・ロリンズ入りの2管編成、半分が珍しいハープ入りのセッションです。前者は王道ハードバップですが、後者はハープを入れる必然性が正直よくわからない。同年の「2ホーン/2リズム」はアーニー・ヘンリーを加えたピアノレス・カルテットですが、個人的にはピアノがないジャズはどうも苦手です。翌1958年の「ジス・イズ・ザ・モーメント」は何と全曲でドーハムがヴォーカルを披露します。チェット・ベイカーに触発されたのか知りませんが、お世辞にも美声とは言えず、マニア向けの珍盤扱いされています。
今日ご紹介する「ブルー・スプリング」は1959年1月から2月にかけて録音されたリヴァーサイド第4弾で、4枚の中では一番聴きやすい作品と思われます。ただ、これも少し編成が変わっていて、コ・リーダーを務めるキャノンボール・アダレイ(アルト)とシダー・ウォルトン(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズまたはジミー・コブ(ドラム)のリズムセクションは文句なしなのですが、なぜかそこにセシル・ペイン(バリトン)とデイヴィッド・アムラム(フレンチホルン)と低音楽器が2名入っています。ジャケットも不思議です。サックス、トランペット等各楽器の写真に、セージ、オニオン、ラディッシュの写真が土に植えられている構図。シュール過ぎてわからん!
全6曲。全て曲名にSpringが入っています。1曲目はタイトルトラックの”Blue Spring"でドーハム作のブルースです。実は本作と同じ年に有名な「静かなるケニー」が吹き込まれ、その中にも”Blues Spring Shuffle"と言う曲が入っていますが、タイトルが似ているだけあってテーマメロディは同じような感じですね。2曲目"It Might As Well Be Spring"と4曲目"Spring Is Here"はどちらもリチャード・ロジャース作曲の定番スタンダード。通常ではバラードで演奏されることが多いですが本作ではミディアムテンポで料理されています。前者では短いながらもフレンチホルン、バリトンのソロが入ります。それ以外の"Poetic Spring""Spring Cannon""Passion Spring"は全てドーハムのオリジナルで、中でもキャノンボールを意識して書かれたと思われる元気一杯のハードバップ"Spring Cannon"がおススメです。
ドーハムとキャノンボールの組み合わせは珍しく、おそらく本作だけと思いますが、いつもながらのややくすんだ感じのドーハムのトランペットとキャノンボールのソウルフルなアルトの相性は悪くないです。60年代にジャズ・メッセンジャーズでブレイクするシダー・ウォルトンもこの頃はまだ駆け出しながらフレッシュなピアノを聴かせてくれます。ただ、セシル・ペインのバリトンとデイヴィッド・アムラムのフレンチホルンはソロを取る機会もわずかしかありませんし、かと言って4管ならではの分厚いアレンジが施されているわけでもなく、正直必要か?と思ってしまいます。上述のハープ入りやピアノレス、ヴォーカル作品と同じでこの頃のドーハムは少し変わったことがやってみたかったのかもしれませんね。