ジョニー・グリフィンについては最近のブログでもたびたび取り上げています。シカゴNo.1テナーとして名を上げた後、まず1956年にブルーノートと契約。3作のリーダー作を残した後、リヴァーサイドに移籍して合計15枚ものリーダー作を発表するなど同レーベルの看板プレイヤーとして活躍しました。ただ、そんなグリフィンですが、1963年にあっさりヨーロッパに移住してしまいます。
60年代はこのグリフィンだけでなく、ベン・ウェブスター、デクスター・ゴードン、デューク・ジョーダン、ケニー・ドリューと大物ジャズマン達が続々とヨーロッパに渡りますが、その大きな理由がジャズシーンの変化でしょうね。60年代も半ばになるとビバップ~ハードバップは徐々に時代遅れとなり、ジャズマン達はモード~新主流派のインテリ系路線に走るか、それともR&B寄りのソウル・ジャズ路線でブリブリ吹くか、あるいはいっそのことフリージャズ路線で突っ切るか、と主に3つの方向転換を迫られますが、グリフィン含め上記のベテラン達はどの路線も合わないですよね。その点、ビバップ~ハードバップの愛好者が多いヨーロッパの方が自分達のスタイルが受け入れられるため、居心地良く感じたのでしょう。また、本国アメリカのような露骨な人種差別がなく、アーティストとしてきちんとリスペクトしてくれるのも黒人ジャズマン達にとってはありがたかったようです。
今日ご紹介する「ナイト・レディ」はグリフィンのヨーロッパ移住後最初のアルバムで、1964年2月にドイツのケルンで録音されたものです。発売元はオランダのフィリップス・レコードです。ワンホーンのカルテットで、参加メンバーはフランシー・ボラン(ピアノ)、ジミー・ウッド(ベース)、ケニー・クラーク(ドラム)。ベルギー人のボラン以外は全員アメリカからの移住組です。なお、ボランとクラークの2人は、1962年にクラーク=ボラン・ビッグ・バンドを結成し、「ジャズ・イズ・ユニヴァーサル」等で名を上げていた頃です。元エリントン楽団のウッドも同バンドの結成当初からベーシストとして参加しています。
アルバムはまずグリフィンのオリジナル曲"Scrabble”で始まります。いかにもグリフィンらしい豪快なブロウが楽しめる曲ですが、驚くのがクラークの叩くドラムの音の大きさ。録音時の設定なのか、それとも単純に音がデカいのか、主役のグリフィンに負けないぐらいの存在感でバシバシと耳に響いてきます。2曲目”Summertime"以降も同じで、お馴染みのガーシュウィン・ナンバーをグリフィンともどもエネルギッシュに料理します。
3曲目”Old Stuff"と続く”Night Lady"はフランシー・ボランの自作曲。特に後者はタイトルトラックだけあってなかなかの名曲で、グリフィンのソウルフルなテナーはもちろんのことボランのファンキーなピアノソロも冴え渡ります。5曲目”Little Man You've Had A Busy Day”はあまり有名ではないですがサラ・ヴォーンも歌ったスタンダード曲。本作中唯一のバラードで、グリフィンがダンディズム溢れるテナーソロをじっくり聴かせます。当然ながらクラークのドラムはここでは控えめです。ラストは定番スタンダードの”All The Things You Are"で、再びクラークのアグレッシブなドラムをバックにグリフィンがパワフルなソロを取ります。
この後、グリフィンは1970年代後半までヨーロッパに滞在し、多くの作品を残すようですが、例のごとく私は70年代以降のジャズに疎いので細かいことはよく知りません。有名なスティープルチェイスのライブ盤「ブルース・フォー・ハーヴェイ」だけは以前所有していましたが、内容的には本作の方が上と思います。