ハードバピッシュ&アレグロな日々

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タビ―・ヘイズ/ダウン・イン・ザ・ヴィレッジ

2024-09-13 18:22:43 | ジャズ(ヨーロッパ)

前回のヴィクター・フェルドマンに続き、本日もイギリス出身のジャズマンと言うことでテナー奏者のタビ―・ヘイズをご紹介します。フェルドマンは50年代半ばにアメリカに渡り、そこでキャリアを重ねましたが、ヘイズの場合は演奏活動等で渡米することはあっても拠点は終生イギリスに置いていました。アルバムも50年代はイギリスのテンポ・レコード、60年代はオランダのフォンタナ・レコードから発売しています。テンポ時代の作品はいくつか澤野工房から発売されており、本ブログでも過去にロニー・スコットとのツインテナー作品「ジャズ・クーリアーズ」、ワンホーンの「タビーズ・グルーヴ」を取り上げています。

本作「ダウン・イン・ザ・ヴィレッジ」は1962年5月に吹き込まれたフォンタナ時代のヘイズの代表作で、かつての盟友のロニー・スコットが経営するジャズクラブ”ロニー・スコッツ”でのライブを収録したものです。共演メンバーはジミー・デューカー(トランペット)、ゴードン・ベック(ピアノ)、フレディ・ローガン(ベース)、アラン・ガンリー(ドラム)と言った面々。ローガンだけがオランダ人で、後は全員イギリス人です。メンバーのうち、ジミー・デューカーはクラーク=ボラン・ビッグ・バンドでも活躍するなどヨーロッパ屈指のトランペッターとして知られていました。ゴードン・ベックもフィル・ウッズのヨーロピアン・リズム・マシーンで活躍したらしいですが、私は前衛ジャズは詳しくないのでよく知りません。

全6曲。前半が有名スタンダード、後半がオリジナル曲という構成です。ライブ録音ということでMCも入っており、ヘイズによるメンバー紹介の後、ロジャース & ハートの"Johnny One Note"で演奏が始まります。1962年と言えばアメリカではモードジャズが主流になりつつある頃ですが、ここでの演奏は熱血ハードバップですね。ただ、ゴードン・ベックのピアノソロにはちょっと前衛的な要素を感じます。続くジミー・ヴァン・ヒューゼンの"But Beauriful"では、ヘイズがマレットを手に取り、しっとりバラードを演奏します。ピアノとヴァイブを兼任する人は他にもいますが、テナーとヴァイブの二刀流はかなり珍しいですね。デューカーのトランペットもお休みで実に静かな曲ですが、個人的には少し物足りないかも。ただ、それも続く"The Most Beautiful Girl In The World"のための箸休めと思えば許せます。こちらもロジャース&ハートの名曲でモダンジャズではソニー・ロリンズやマックス・ローチの名演が思い浮かびますが、ここでの演奏もそれらに劣らない出来です。アラン・ガンリーが刻むワルツ調のリズムに乗せて、ヘイズ→デューカー→ベックと目の覚めるようなソロをリレーします。ライブはここで一旦終了らしく、MCが入ります。

後半は全てオリジナル曲で、まずはタイトルトラックでヘイズ作の"Down In The Village"。ヘイズは再びヴァイブを演奏します。ややモーダルな雰囲気の曲で、ヴァイブとミュートトランペットのユニゾンで奏でるテーマが何とも言えずクールです。ソロに入るとまずヘイズがファンキーなマレット捌きを見せ、デューカーがオープン奏法で力強いプレイを聴かせます。続く”In The Night"もヘイズのオリジナルで、ここではヘイズはソプラノサックスを手にし、コルトレーンの「マイ・フェイヴァリット・シングス」の影響も感じさせます。ゴードン・ベックのピアノもちょっとマッコイ・タイナーっぽいですね。曲も牧歌的で魅力的な旋律です。デューカーはお休みです。ラストの”First Eleven"はデューカー作の熱血ハードバップで、デューカー→ヘイズ→ベックとパワフルなソロを展開します。ヘイズはその後も活発な演奏活動を続けるものの、心臓病を患い、1973年に38歳の短い生涯を閉じます。ただ、本作は60年代英国ジャズの熱きエネルギーを伝える名盤として、ヘイズの名前とともに語り継がれることでしょう。

 

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