昨日に続きアルト奏者ジーン・クイルとトロンボーン奏者の共演作をご紹介します。ただ、今回はクイルはサイドマンで、リーダーはジミー・ネッパーと言う白人トロンボーン奏者です。ネッパーは決してメジャーとは言えませんが、50年代後半から60年代初頭にかけてチャールズ・ミンガスのバンドに在籍し「ティファナ・ムーズ」「ブルース&ルーツ」「ミンガス・アー・アム」はじめ10枚以上の作品群に参加していることから、名前を目にしたことがある方も多いと思います。その時のエピソードで有名なのは、ミンガスと口論になったネッパーが殴られて歯を折られたということ。それって立派な傷害事件やん!と思いますが、ミンガスはかなり血の気の多い人物だったようでこの手のエピソードには事欠かないようです。ちなみに事件が起きたのは60年代に入ってからで、1957年の録音の本作ではまだ歯は無事です。
ミンガスはまた同時代のジャズの中では比較的前衛的な音楽志向の持ち主で、上述の一連の作品群でも独特のミンガス・ワールドを展開しています。ネッパーもそれらの作品ではソロにアンサンブルにとミンガス・サウンドの一翼を担っているのですが、ベツレヘムに吹き込まれた本作では意外とオーソドックスなプレイです。メンバーはネッパーとクイルの2人に加え、リズムセクションはビル・エヴァンス(ピアノ)、テディ・コティック(ベース)、ダニー・リッチモンド(ドラム)と言う顔ぶれ。ここでビル・エヴァンスの名前が出てくるとは意外ですが、この頃のエヴァンスはまだマイルス・デイヴィスのバンドに抜擢される前の駆け出しの時期で、プレイそのものもそこまで際立った個性は見せていません。
全9曲。アルバムはヴィクター・ヤング作曲のスタンダード”Love Letters"で始まります。後にエルヴィス・プレスリーもヒットさせたキャッチーなメロディの曲を、ネッパー→クイル→エヴァンスが軽快にソロをリレーして行きます。実に気持ちのいいナンバーで本作のベストトラックと言っていいでしょう。3曲目”You Stepped Out Of A Dream"と続く”How High The Moon"も定番スタンダード。前者はアップテンポ、後者はスローで演奏されていますが、どちらもストレートアヘッドな演奏です。ネッパー、クイルとも快調ですがエヴァンスのソロはまだ控え目です。
ネッパーのオリジナルも3曲あります。2曲目”Ogling Ogre"はタイトルも変ですし、曲も少しとぼけたような感じでミンガス門下生っぽいと言えばぽいです。6曲目”Idol Of The Flies"と8曲目”Avid Admirer"はどちらも熱い曲で、前者はややエキゾチックな旋律、後者はもろビバップです。パーカーの直系のアルトを聴かせるクイルに引っ張られるようにネッパーも熱いプレイを見せます。
以上の6曲がクイル、エヴァンスの参加曲で、残りの3曲はクイルの代わりにジーン・ロウランドと言う白人トランぺッター、ピアノもビル・エヴァンスからボブ・ハマーというよく知らない人に代わっています。5曲目”Gee, Baby, Ain't I Good To You"ではいきなりロウランドがヴォーカルを披露したりして、ちょっと全体の中で浮いてますね。7曲目”Close As Pages In A Book"と9曲目”Irresistible You"はどちらも歌モノスタンダードですが、ロウランドのトランペットはやや中間派風のオールドスタイルな感じです。これはこれで悪くはないですが、個人的にはクイル&エヴァンス入りの方を強く推したいと思います。ズバリ名盤と言っていいんじゃないでしょうか?