ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

サージ・チャロフ/ブルー・サージ

2024-09-20 15:06:56 | ジャズ(クールジャズ)

本日は白人バリトンサックス奏者のサージ・チャロフをご紹介します。名前からしておそらくロシアとか東欧系でしょうね。サージ(Serge)はセルゲイの英語読みと思いますが、ここでは洋服の生地のサージとかけているそうです。と言われても私はピンと来ないのですが、ジャケットで美女が寄りかかっている服の青い部分がそうなのでしょうね。

1940年代にウディ・ハーマン楽団に所属し、スタン・ゲッツやズート・シムズらと並んで”フォー・ブラザーズ”と呼ばれるなど名を馳せたらしいですが、その頃の録音はあまり残っていないので詳しいことはよくわかりません。50年代以降も決して作品に恵まれているとは言い難く、出身地であるボストンのストーリーヴィル・レコードに「サージ・アンド・ブーツ」含め2枚、キャピトル・レコードに「ボストン・ブロウアップ」と本作の2枚を残すのみです。理由の一つとして挙げられるのは麻薬。この時期の多くのジャズマンと同様に彼もジャンキーで、40年代後半から50年代前半にかけてをほぼ棒に振ります。1954年以降に活動を再開し、上記の作品群を残すのですが、今度は病魔に蝕まれ、1957年に脊椎のガンで33歳の生涯を閉じました。

そんな薄幸の人生を送ったチャロフですが、バリトンサックス奏者としての評価は高く、評論家筋からはジェリー・マリガンを超える、とも言われていたとか。個人的にはテナーやアルトと違って、バリトンと言う楽器自体があまり細やかなアドリブ表現に適さないような気がするのですが、言われてみれば比較的滑らかなプレイと言う気もします。ただ、ペッパー・アダムスのようにゴリゴリとハードに吹くのを身上とするタイプもいますので、どちらが良いかは好みの問題ですね。

本作「ブルー・サージ」は1956年3月の録音。チャロフはこの1年4ヶ月後に亡くなるのですが、この時点ではまだ元気だったのか快活なプレイを聴かせてくれます。収録はハリウッドのスタジオで行われ、当時は西海岸でセッション・ピアニストとして活躍していたソニー・クラークがピアノで参加しています。ベースは同じくウェストコースターのリロイ・ヴィネガーですが、ドラムがフィリー・ジョー・ジョーンズと言うのが意外な人選です。当時のフィリー・ジョーはご存じマイルス・デイヴィス・クインテットの一員でしたが、この頃ちょうどツアーでロサンゼルスに滞在中で声がかかったようです。全員が黒人によるリズムセクションですが、かと言ってそれほどハードバップ色が強いわけではなく、リーダーであるチャロフの個性が前面に出ています。

全7曲、うちジャズ・オリジナルは2曲だけで、あとは歌モノスタンダードです。”All The Things You Are"”I've Got The World On A String"”Stairway To The Stars"等の定番スタンダードもありますが、個人的にはオープニングトラックの"A Handful Of Stars"を推します。あまり他では聞かない曲ですがミディアムテンポのほのぼのした曲調で、チャロフの暖かみのあるバリトンにクラークも軽快なソロで華を添えます。バラードの"Thanks For The Memory"も良いですね。ここではチャロフが低音でじっくり歌い上げます。

オリジナル曲のうち1曲はウディ・ハーマン楽団の同僚だったアル・コーン作の"The Goof And I"。アップテンポの曲で、クラークの躍動するピアノソロに続きチャロフがバリトンとは思えない高速アドリブを披露します。チャロフの唯一のオリジナル曲である”Susie's Blues"はブルースと言うよりバップナンバーで、チャロフのバピッシュなプレイが堪能できます。クラークも何だかんだこういう曲の方が生き生きしていますね。

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