Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

リトル・ミス・サンシャイン

2022-12-20 | 映画(ら行)

◼️「リトル・ミス・サンシャイン/Little Miss Sunshine」(2006年・アメリカ)

監督=ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ハリス
主演=グレッグ・キニア トニ・コレット スティーブ・カレル アビゲイル・ブレスリン

不祥事で活動自粛していた映画コメンテーター有村昆氏が、テレビ番組「ロンドンハーツ」でイジられてるのをテレビで見た。ひと言だけインタビューして引っ込ませる意地悪な企画。唯一の質問は「活動自粛中にどんな映画を観てましたか」。自分の蒔いた種で離婚にも発展した。映画で発散してたのかな、逆にどーんと重いの観てたのかな。有村氏の答えは「リトル・ミス・サンシャイン」だった。

ミスコンの全米大会に、7歳のオリーブが繰り上げで地区代表として出場できるようになった。オリーブの父親リチャードは自己啓発セミナーでひと山当てると意気込んでおり、母シェリルは気が気でない。さらに自殺未遂をしたシェリルの兄フランクと一緒に暮らすことになり、オリーブの兄ドウェーンはパイロットになる夢を達成するまで口をきかない無言の誓いを実行中。オリーブのミスコンの振り付けを担当したのは、ドラッグ中毒で口の悪い祖父エドウィン。問題だらけの家族は、フォルクスワーゲンの黄色いバンで一路、ミスコン会場のあるカリフォルニアを目指す。その珍道中を描いた物語。

カリフォルニアへの道中は、次々と事態が悪化していく。冒頭自信満々だったリチャードは自己啓発セミナーのアイディアが受け入れられず、破産の危機。ドウェーンはパイロットとなる上での更なる問題が発覚。そして祖父エドウィンが…。映画とはいえ、ここまで追い詰められるなんて…と辛すぎる展開に驚くが、そこを勢いと話しかけるフランクの優しさで乗り越えていく様子が面白い。特に祖父の× ×が積まれた荷台を警察官に見られる場面の緊張感と、予想を超えたトラブル回避に大笑い。

ミスコンに集う人々のお高く止まった感は、様々な映画で目にしてきたが、主催者側まで選民意識に支配されてるような様子にイライラする。オリーブには世界が違うぞ。出場をやめさせようとするリチャードとドウェーンだが、ここまで頑張ってきたからとオリーブはステージに向かう。ここで祖父の振り付けがとんでもない事態を引き起こす。
ダメだよ!おじいちゃん!🤣
ミック・ジョーンズのSuper Freakをバックに開き直った家族が繰り広げる大騒ぎ。サイコーやんw。

「女とヤリまくれ」とけしかける祖父役アラン・アーキン。経験こそ価値みたいな言い方するお年寄りいるよね。ここにちょっとイラッとしたが、ところどころ良いこと言う。「お前は内面も外見もキレイだから大好きなんだ」言われたら嬉しいよな。

やってることはやっぱり問題だらけなんだけど、この旅で一家の結束力はきっと高まったはず。そして観ている僕らを勇気づけてくれる行動や台詞が散りばめられていて、とても励まされた気持ちになる。ポンコツ車で走り出す一家に幸あれ。





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楽園追放-Expelled from Paradise-

2022-12-18 | 映画(ら行)

◼️「楽園追放-Expelled from Paradise-」(2014年・日本)

監督=水島精二
声の出演=釘宮理恵 三木眞一郎 神谷浩史

長男からのおススメ作品。人類のほとんどが肉体を捨ててデータ化され、ディーヴァと呼ばれる仮想空間で理想的な生活を送る未来。そこに突然地球からの不正アクセス。メッセージの内容は人類が生活可能な惑星を探す旅への勧誘だった。既に理想的な生活を謳歌している人類に、新たなフロンティア開発は無用だが、不正アクセスという脅威からディーヴァの幹部たちは捜査官としてアンジェラ三等官を地球に送り込む。彼女は地球での協力者ディンゴと共に謎に挑む。

電脳世界とリアルワールドのお話だから、あー、また「攻殻機動隊」の亜流かよ、と思っているとなかなか面白い着地点にたどり着く。マテリアルとしての肉体を与えられるアンジェラ、生身の人間であるディンゴ、そして自我が目覚めたAI。機械と人間の境目が曖昧な存在を通じて、人間の存在について考えさせる。なるほど「攻殻」ほどハードでなく受け入れやすい。そしてディーヴァで暮らす身体を捨てた人々の現実。

音楽がそれぞれの登場人物をつなぐ一つの要素になってるのも好印象。心地よい環境音楽しかディーヴァでは聴いてこなかったアンジェラに、ディンゴはロックは骨で感じる音楽だと語る。AIが「好き」という感覚を説明するくだりがいい。システム的にはノイズでしかないのに、プロセッサの処理能力を活性化させる現象で、自我を認識するきっかけになった。あー、わかるわかる。上手いこと表現するよな。

クライマックスはハイスピードのバトルが展開されて、ロボットアニメとしての見応え十分。







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ロッキーVSドラゴ ROCKY IV

2022-08-27 | 映画(ら行)


◼️「ロッキーVSドラゴ ROCKY IV/Rocky IV:Rocky vs Dorago」(2021年・アメリカ)

監督=シルベスター・スタローン
主演=シルベスター・スタローン ドルフ・ラングレン カール・ウェザース タリア・シャイア

「ロッキー4」本編に使われたシーンやカット、台詞にシルベスター・スタローンは不満があった。コロナ禍でできた時間で再構築に挑んだ作品。本国では2021年に限定公開され、配信なしとの触れ込みで日本では劇場公開となった。

「ロッキー4」は初公開時に、熊本市の電気館で観た。あの頃、米国国威高揚映画だの、レーガン大統領が賛辞を送っただの、プロパガンダ映画だの散々言われていたのを覚えている。そう受け取られる描写が入ったのも、きっと時代の空気だったのだろう。

人間ドラマ重視で観るならば、圧倒的に「ロッキーVSドラゴ」が優れている。「ロッキー4」は、とにかく"東対西、国対国"の話に持っていこうとする流れが明らかにある。国旗に彩られたグローブが激突するオープニングに、なんて挑発的!とドン引きしたのを覚えている。エキシビジョンマッチに参戦したいと言い出すアポロに、ロッキーは「自分自身との戦いじゃないのか」と言うが、オリジナルだと「ソビエトに思い知らせてやらないと」めいた台詞が目立つ。

試合前の控室でもそんな事を言ってるのだが、今回の再編集ではアポロのそうした対立をあおる台詞は記者会見シーンに絞られている。それだけにリングに向かう前に「試合が終わればわかるさ」とのアポロのひと言は、自分のファイターとしての生き様や考えが理解できるさ、と受け取ることができる。こんなに印象が変わるとは。ドラゴの妻ブリジット・ニールセンの台詞がかなりカットされていることも同様。

また、この二つの試合に向けられる登場人物それぞれの思いが、再編集版では色濃く出ている。ロッキーがドラゴ戦を決心するまでの追加シーンもいい。特にアポロの葬儀シーンは別アングルから撮られた全く違う台詞になっており、オリジナルと違ってロッキーは嗚咽を抑えられない。また、アポロのトレーナー役トニー・バートンの弔辞が加わっている。これがロシアでトレーニングを始める場面でのロッキーとの会話への前置きになっているから、「お前が意志を受け継ぐ」との言葉がズシリと重い。

オリジナルに出てくるロボットは、潔くスパッとカット。一方で、No Easy Way Outが流れるほぼMTV的な演出はそのまま。ラストにビル・コンティのオーケストラスコアが少しだけ付け加えられているのと、ロッキーたちが試合会場を去る後ろ姿が付け加えられたのはいい余韻が感じられた。

この映画のキーワード、Changeが強く心に残る。オリジナルでは対ソビエト色が濃厚だったので、いい事言ってるよな!と思ったけれど薄味に感じられた。アポロとの会話でもChangeがキーワードだったとも気付かされる。ウクライナ侵攻があって製作された映画ではないけれど、「2000万人が殺し合うよりマシだ!」のメッセージが今心に響く。映画館で観られてよかった。



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流浪の月

2022-06-20 | 映画(ら行)


◼️「流浪の月」(2022年・日本)

監督=李相日

主演=広瀬すず 松坂桃李 横浜流星 多部未華子

15年前の少女誘拐事件の加害者とその被害者である元女児。文と更紗の二人は思わぬ再会をすることになる。事件から時が流れても世間が二人に貼られたレッテルが剥がれることはない。"あんなことしたヤツ"と"あんな目に遭ったかわいそうな子"。しかし実際は、親を亡くして親族の家にいた少女が、当時19歳だった彼の家から帰ろうとしなかったのだった。二人の間には二人にしかわからない絆があった。

心に刺さる言葉がたくさん出てくる。
「人は見たいようにしか見てくれません」
「私、そんなにかわいそうな子じゃないよ」
「最終的に逃げる場所のない子」
「ボクはハズレですか」
それらの言葉が意味するものいろんなレビューで読んでしまうよりも、まずは本編を観て感じて欲しい。

世間からは理解されない存在、関係の二人を象徴的に表現しているのが、本編に登場する文学作品。文が読んでいたポーの詩集には、他の子と違うと感じている自分が出てくる。それは文が共通の気持ちを感じる存在だった。そして10歳の更紗が読んでいたのは「赤毛のアン」。両親を亡くした少女が文章の中にいたのだ。でもアン・シャーリーのように人と人をつなぐ少女にはなれなかった。自分と関わったことで、文を犯罪者にして、人生を壊してしまったのだから。

マスコミやネットが流す情報のあまりにも強大な影響力。その表面的で憶測でしかない情報がすべてだと信じる人々。それがデジタルタトゥーや興味本位の雑誌記事となって、二人にずっとつきまとい、押し潰してくる。その恐ろしさと悲しみ。タナダユキ監督の「ふがいない僕は空を見た」にも同じように描かれる嫌がらせの様子は見ていてキツいし辛い。

こういう陰湿な状況が描かれる映画って、不思議と外国映画ではなく日本映画に多いように思える。しかもけっこうな数の作品がこうしたテーマに触れている。それだけ現実は病んでいると悲しく思えるけれど、人間関係を掘り下げ問題提起して、高いクオリティの作品を生み出して評価されてもいる。製作されて世に示すことの意義を感ずる映画たち。しかしながら派手なエンターテイメントこそ映画と思っている人々にはその良さはなかなか届かなくって、日本映画は面白くないと言われてしまう。せめて現実を離れてスクリーンに向かう間だけは、陰湿なものを目に触れさせないで欲しいって気持ちもあるだろう。それでもこの映画に触れてみたら、そこには日常への気づきが必ずあるはずだ。

広瀬すずと松坂桃李の繊細な演技が素晴らしい。DV野郎を演ずる横浜流星はそのキャラの危うさだけでなく、弱さまで演じきって見事。クライマックスで文が示したかったこと。映像で示された結末、人と人がつながれない悲しみに息を飲んだ。



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ローマの休日

2022-06-05 | 映画(ら行)

◼️「ローマの休日/Roman Holiday」(1953年・アメリカ)

監督=ウィリアム・ワイラー
主演=オードリー・ヘプバーン グレゴリー・ペック エディ・アルバート

ほぼわたくし事です。ご了承を。

映画に夢中になり始めた中学生の頃。同じクラスで生徒会長だった映画好きのW君と仲良くなった。僕らは世間が名作と呼ぶものを片っ端から観てやる!と、意欲に燃えていた。そんな折、地元の映画館がクラシック二本立てを500円で上映し始めた。僕らはまずはここからだと心に決めて映画館へ。「ローマの休日」と「ロミオとジュリエット」の二本立て。とても男二人で観る映画ではないww。ともかく、映画にますますのめり込むきっかけとなった。気づくとオードリー主演作は、大部分を映画館で観ている

2022年5月、早見沙織(「俺妹」のあやせが好き)、浪川大輔(「ヴァイオレット…」のギルベルト少佐が好き)の新録吹替版が、金曜ロードショーで放送されたのでウン十年ぶりに鑑賞。靴の場面がカットされてるのが残念。あそこはキャラクターが伝わるいい場面なのにもったいない!キャメロン・クロウ監督が「エリザベスタウン」で引用してるし、あの場面に思い入れがある人多いことだろう。でも今回のような放送で映画の楽しさが若い人に伝わるといいな。

初めて観た時はオードリーに見惚れながらも、王女様に振り回されるグレゴリー・ペックを中心に観ていた。今観ると逃げ出した王女の気持ちや、自分の役割を果たすために戻った気高さに感激する。オードリーがオスカーを獲得したのも納得。彼女を利用してスクープ記事を書こうとしたのに断念するジョーの優しさ。誠実そうなグレゴリー・ペックのパブリックイメージがあってこそ伝わった気もする。エディ・アルバートも含めてキャストが見事なこと。美容室の場面も、黒服の秘密警察の一団登場も、好きな場面しかない。

そして無言のラストシーンで胸がいっぱいになる。この間をじれったいなんて思わないで。黙って歩き出すまでの彼の気持ちを考えたら、あの場面は観ている僕らにとっても名残惜しい場面。何度も観てるはずなんだけど、ええ歳になった自分、キスシーンから先をウルウルしながら観ていた。でも写真渡すところで声あげて笑ってしまう。

2004年に「オードリー・ヘプバーン展」と題した展示を観に行った。「麗しのサブリナ」の白いドレス、「ティファニーで朝食を」の黒いドレスをこれかぁーと感慨深く眺めたけれど、「ローマの休日」で使われたベスパが展示されててちょっと感激。

父の机をあさっていたら古い映画の半券やチラシが大量に出てきた。その中に「ローマの休日」初公開時の上映スケジュールが記載されたものが。画像アップしときますね。*クリックすると拡大します。

別のチラシには「ローマの休日」にわざわざ赤鉛筆で丸つけていた。*クリックすると拡大します。

待てよ。まだ親父が独身の頃だよな。誰と一緒に行ったのだろう。妹が母に尋ねた。
「私じゃないわよ」

そしてその父の子である僕は、新婚旅行でイタリアに行くことになる。ローマの行く先々でガイドさんが黙ったら喋る客と化した(恥)。
「ここでブルース・リーとチャック・ノリスが…」
「ここでモンゴメリー・クリフトが…」
「ここでアニタ・エクバーグが…」
少しは黙ってろ、オレ(心の声)。
ところが「ローマの休日」ゆかりのスペイン広場と真実の口を目の前にして、感激して何も言えなくなったのでした😭。


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ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー

2022-05-28 | 映画(ら行)

◼️「ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー/Rebel In The Rye」(2017年・アメリカ)

監督=ダニー・ストロング
主演=ニコラス・ホルト ケヴィン・スペイシー ゾーイ・ドゥイッチ ホープ・デイヴィス

作家志望だった若き日から、成功を収めた後隠遁生活に入るまで。J・D・サリンジャーの半生を描いた伝記映画。僕は熱心な文学青年でなかったからサリンジャーは「ナインストーリーズ」をつまみ食いした程度。作家自身についてあまりに知らなかったので、脚色も主観も誇張もあるだろうけど、こういう触れ方もいいかなとこの映画「ライ麦畑の反逆児」に手を出した。

確かに反逆児。表現を学ぶために大学で講義を受けながらも、教授の指導に対していちいち皮肉を返す。憧れだったニューヨーカー誌から掲載のラブコールがあったのに原稿の修正を拒否。文壇や業界、世間に媚びない彼の姿勢は、文学に対するひたむきな気持ち故なんだけど、他人の考えや意見に理解を示そうとしないので、一般から見ればやはり反抗的に映るのだろう。そして最後は世間からも背を向けてしまう。

第二次世界大戦に従軍し、戦場の悲惨な光景や経験から、一時は作品を書く気力を失ってしまう。このPTSDの描写は生々しく、「帰還兵なら誰にでもあること」と医師にも突き放され、一人苦しむ姿はなんとも痛々しい。

大学の恩師の支えとアドバイスもあって、その後のサリンジャーは「ライ麦畑でつかまえて」で成功を収める。しかし、多くの読者の共感を呼ぶ成功が、彼の日常をこの上なく不安に陥いるきっかけにもなった。世界中から届くファンレターを読まなくなったのはこうした原因があったのだ。ジョン・レノンを殺害したマーク・チャップマンが「ライ麦…」を持っていたことも知られている。フランソワ・オゾンのある映画で、このことを例に挙げて文学の無力さを説く人物が出てくる。影響力の怖さはあるけれど、文学は決して無力ではない。一部の人々に過激な影響になったかもしれないが、多くの人には支えになったのは間違いないのだから。

マイ・ニューヨーク・ダイアリー」と合わせて観ると、何故サリンジャーが人を避けるようになって、老舗出版社が彼を守ろうとしていたのか、背景を理解するのにきっとこの映画は役立つ。恩師役ケビン・スペイシー、ルーシー・ボーイントンも印象的な好助演。



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ライトスタッフ

2022-05-07 | 映画(ら行)

◼️「ライトスタッフ/The Right Stuff」(1983年・アメリカ)

監督=フィリップ・カウフマン
主演=サム・シェパード スコット・グレン フレッド・ウォード エド・ハリス デニス・クエイド

宇宙開発競争で米ソが火花を散らしていた1950年代、アメリカのマーキュリー計画の舞台裏を描いた大作。80年代育ちとしては観ておくべき作品だと思うのだが、今回が初鑑賞。屈強な野郎ばっかりの映画だもの、当時の僕はそこで敬遠したんだろな(恥)。

ソビエトに先を越されてばかりの宇宙開発に、焦り始めたアメリカは有人宇宙飛行を実現させるべく、プロジェクトに参加する宇宙飛行士を集める。音速の壁に挑み続けてきたテストパイロットから志願者を募る。選ばれた7人は、困難な任務に挑むと決まっただけでまだ何もやってないのに英雄視される。その一方で開発者たちは彼らを宇宙船を操縦する役割だとは思っていない。そのギャップは次第に埋まり、計画の裏側で男たちが思い悩みつつもタフに向き合う様子が感動的だ。

シリアスな場面も多い中、散りばめられたユーモラスな場面が楽しい。初めての有人飛行の発射前に、尿意を堪えるパイロットに管制室は我慢しろと言い続けるのだが、そこにはウォーターサーバーで水を汲んだり、コーヒーをすする職員の姿が重なる編集のセンス。メキシコ人をからかうコメディアンを真似るパイロットの一人が、メキシコ人のスタッフから逆襲される場面も面白い。

「スペース・カウボーイ」でクリント・イーストウッドが「グレン議員も飛んだゼ」と高齢の自分たちが認められないことに反論する場面がある。「ライトスタッフ」でエド・ハリスが演じたのが、マーキュリー計画の一員で、後に77歳でスペースシャトルに搭乗する若き日のジョン・グレン。

ところで、この映画が製作されたのは冷戦真っ只中の1980年代。「ライトスタッフ」の後数年間には、名だたる反ソビエト的な作品が登場する。同じ年には防衛システムが少年にハッキングされる「ウォー・ゲーム」、翌年はソビエトがアメリカ本土に攻めてくる「若き勇者たち」、その翌年が少年がミグを撃ち落とす「アイアンイーグル」、ボクシングの米ソ対決「ロッキー4」。そして「トップガン」と続く。「ライトスタッフ」では、ロケットの炎を向こうで高笑いをするソビエト人がなんとも不気味な印象で映される。これも時代か。

ラストのイェーガーの勇姿。一事を貫く男のカッコよさにシビれる。







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レディ・バード

2022-01-28 | 映画(ら行)

◼️「レディ・バード/Lady Bird」(2017年・アメリカ)

監督=グレタ・ガーヴィク
主演=シアーシャ・ローナン ローリー・メトカーフ トレイシー・レッツ ルーカス・ヘッジス

もし僕が女子だったら、素直に観られないのを承知で、20歳前にこの映画に出会いたかった。おかしな事を言う、と思うかもしれないけれど。

この映画、「男にゃわからん」めいた感想をやたらと見かける。確かにこの映画に詰め込まれた、18歳女子が感じていることのいろんな感情や機微やニュアンスは、男子には理解できないだろう。親との関係については、個人的にはところどころ自分を重ねてしまうところがある。この映画で男子なりに感じた共感もあるけれど、「男にゃわからん」と言い放たれると、正直ちょっと悔しいww。

映画友達の女性に「これも観ないでシアーシャ好きとか名乗るのは、ちゃんちゃらおかしい」と言われたことがある。まだ観終わったとは伝えてないけれど、もし伝えたら「そう、観たの。でもわっかんないでしょ。男だもんねー」と言われそうな気もしている(笑)。多分彼女はそんな事言わないだろうけど、もし言われたらマジで悔しい。

でもね。優等生でもなく、変にトガってもないフツーと呼べる高校生の不器用でカッコ悪い日常は、十分に共感できる。あの年頃特有の、親の干渉や自分の住んでる場所をウザったく感じてしまうこと、素直に相談できずに怒らせてしまうこと。僕自身もあれこれ経験あるだけに、結構グサグサ刺さるところがある映画だった。お母さんごめんなさいと何度も思いながら観ていたw。

実は、シアーシャ・ローナンの「ブルックリン」は、大好きで映画館でリピート鑑賞したのだけど、今でもレビューが書けずにいる。社会人デビュー物語の映画は、イケてなかった当時の自分やいろんなことを思い出して何も書けなくなってしまうのだ。「レディ・バード」のエンドクレジット眺めながら似たような気持ちになったけど、少しは気持ちの整理ができたのか、この程度の駄文は書けている。

結局、自分は自分でしかない。自分でつけたレディ・バードでなく、クリスティンと名乗る"等身大の自分"を受け入れる姿は、胸に迫るものがあった。それは男子も女子もない気持ちだろ。80年代育ちの僕には、青春映画「ブライトライツ、ビッグシティ 再会の街」のラストで、マイケル・J・フォックスがそれまでの自分を顧みる場面にどこか重なって見える気もする。





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ライフ・オン・ザ・ロングボード 2nd Wave

2022-01-19 | 映画(ら行)





◼️「ライフ・オン・ザ・ロングボード 2nd Wave」(2018年・日本)

監督=喜多一郎
主演=吉沢悠 馬場ふみか 香里奈 泉谷しげる

前作「ライフ・オン・ザ・ロングボード」は、中高年男の再挑戦を描いた素敵な映画だった。続編となるこの「2nd Wave」は、サーフィンしか頭にない青年の物語。映画序盤からいきなり彼は見事に波を乗りこなす。「海猿」みたいに、最初からデキるヤツがなんだかんだでチヤホヤされるタイプの映画なんじゃないの?。その先入観は見事に打ち砕かれた。

陸に上がった彼はダメ男。挨拶もできなければ、種子島で暮らす為の仕事を紹介されても、まともにこなすこともできない。サーフィンの恩師の娘からは冷たくあしらわれる始末だ。そんな彼が、病院の仕事で知り合ったお年寄りたちに尋ねられ、サーフィンの魅力を語る。地球に抱かれているみたいだ、生きているって実感する、と彼は言う。お年寄りとの関わりを通じて、彼が人間関係の大切さに気づき、行動が変わっていく。

前作同様、僕は素直に感動した。ベタな話だと言う人もいるかもしれない。でもダメ男が変わっていく成長物語は、古今東西そんなに本質が変わるもんじゃない。ベタだと感じるのは、死んだ父の思い、お年寄りや家族の再会のエピソードが絡むのを、きっとこそばゆく感じてしまうから。人が変われるのは誰かがいるから。それを素直に受け止めて観て欲しい映画だ。

傍目から見たサーフィンのカッコよさを写した映画はいくらでもある。でもサーファーが肌で感じている面白さ、楽しさ、夢中になる気持ち、うまく波に乗れて技が決まった瞬間のエクスタシーを真正面から捉えた成功作って実はあまりないと思うのだ。「ビッグ・ウェンズデー」以外の最近の作品なら、キャスリン・ビグロー監督の「ハート・ブルー」がサーフィンとスカイダイビングの魅力にちゃんと触れている稀な映画かな。特に邦画ではなかなかない。だけど本作はまさにその一つ。

種子島の美しいビーチの風景が気持ちを盛り上げてくれるだけじゃない。水面スレスレから波を撮ったサーファー目線の映像。さらに上空からの目線で、乗りこなす波の高さを、そして広がる海原と次々に迫ってくる波を捉える。その視点があってこそ、地球に抱かれる感覚という言葉が活きているように思えた。そして前作以上に、種子島の暮らしが描かれているのも素敵なこと。

夢中になれることがある素晴らしさと、人生の波を感じること、それに乗り遅れないこと。タイトルの意味がじんわりと心にしみる映画だった。





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ラストナイト・イン・ソーホー

2021-12-21 | 映画(ら行)


◼️「ラストナイト・イン・ソーホー/Last Night In Soho」(2021年・イギリス)

監督=エドガー・ライト
主演=トーマシン・マッケンジー アニャ・テイラー・ジョイ マット・スミス ダイアナ・リグ

「ベイビー・ドライバー」のエドガー・ライト監督の新作は、60年代ロンドンと現代を行き来するスリラー映画。「ティファニーで朝食を」のポスターが貼られた部屋、レノン=マッカートニー作の「明日なき世界」が流れる冒頭から心掴まれて、ホラーぽい映画苦手なくせに、もうワクワクが止まらない。本筋のネタバレ防止と、気づいたことの備忘録として、筋に関係ないことを好きに語らせてもらいますww。

もう一つの舞台となる60年代ロンドンを示すために、ヒロインが好む当時の楽曲が効果的に引用されているのがなんとも素敵。鏡を通じてシンクロするもう一人のヒロイン、サンディがオーディションで歌うのが、ペトラ・クラークの代表作Downtown。80年代にジョージ・ハリスンがカバーしたI've Got My Mind Set On Youに、ウォーカーブラザーズの「ダンス天国」。

泣きのバラードYou're My Worldのイントロのキーッ、キーッって高音のストリングスを、まるで「サイコ」の劇伴のように使う発想。やるじゃん!映画後半では、血まみれ刃物に瞳が映る演出が怖くって、イタリアの残酷映画テイストだなーと思ってたら、劇中出てくる店の名前が「インフェルノ」。ダリオ・アルジェントのホラー映画(音楽担当キース・エマーソン)へのオマージュなんですと!すげえ趣味の振り幅。エドガー・ライト、すげえな。

そしてテレンス・スタンプがカウンターで演奏の真似をしながら、「君の名を冠した曲だ!」と紹介するのがEloise。「ベイビードライバー」でヒロインの名前の曲があるだのないだの言う場面が思い出されて、映画館の暗闇で「またかい!」とツッコミ入れながら思わずニヤリ。

ストーリーや映像でもワクワクが止まらない。カフェドパリでのダンスシーンは、エロイーズとサンディが入れ替わるコンビネーションがあまりに見事。観客のミスリードを誘いながらも、決して情報量が少ない訳じゃない脚本と映像。これが遺作となったダイアナ・リグの存在感。2時間たっぷりワクワク、ハラハラ、喜ばせたり、怖がらせたりした後で、この映画は僕らにエールを送ってくれる。過去に憧れるのは勝手だが、決していいことばかりではない。過去から学んで前を見ろ、と。ラストシーンの彼女(たち)が眩しかった。

英国ワーキングタイトル社の映画、やっぱり好きだな。



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