Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

パフューム ある人殺しの物語

2008-12-06 | 映画(は行)

■「パフューム  ある人殺しの物語/Perfume The Story Of A Murderer」(2006年・ドイツ=スペイン=フランス)

監督=トム・ティクヴァ
主演= ベン・ウィショー ダスティン・ホフマン アラン・リックマン レイチェル・ハードウッド

スクリーン越しでは伝わらないだろう、と思われる題材に敢えて挑んだ映画はこれまでにもたくさんあった。撮る側は様々な工夫を凝らしてそれを表現しようとしてきた。ヒッチコックが表現した「下宿人」の2階を歩く男のイメージ、恐竜が近づく様子を揺れるコップの水で表現したスピルバーグ。「バベットの晩餐会」では自分が食卓についているかのように食欲を刺激され、「視線のエロス」では自分が女性に触れようとしているのではないかという感覚を感じた。

 この「パフューム ある人殺しの物語」が挑んだのは嗅覚である。銀幕越しには絶対に伝わらないものだ。しかし、この映画に向かう僕らは、気づくと大きく呼吸している。主人公ジャン・バティストがずっと残したいと感じた官能的な匂いを、僕らも感じ取ろうとしているかのように。パリの街角で花売り娘のうなじから漂っていた香り、社交界の人々が手にしていた香水の香り、皮をなめす工場の湿った匂い・・・それらを感じられるはずもないのに。示されている映像だけで僕らを引き込む魅力をもった映画だ。女性を次々に殺害して匂いを集めるジャン・バティスト。映像のエロスと嗅覚というフェティズム。それを映像美で表現し尽くすトム・ティクヴァ監督の巧さ。旧作も観てみたくなった。

 映像美と連続殺人にドキドキハラハラさせられるだけの映画ではない。物語は結局、普遍的なテーマへと行き着く。それは人に愛されることの大切さ。誰もがそれを求めていること。魚市場で望まれずに生まれた主人公は、天才的な嗅覚を持っていた。だが特殊な才ある人には何かが欠けている。彼は自分に体臭がないことに気づき、匂いに執着した。しかし、本当に彼が求めていたものは”愛されること”だった。彼が花売り娘の回想をする場面、うなじや髪のフェチなショットが続く中、物語後半からそれは変化を遂げていく。そして、連続殺人の罪で裁かれるクライマックス。彼は完成した”愛し、愛される”香水をふりまく、異常な行動に出る。その想像を絶する効果・・・これまでの映画では観たことのない光景が展開されるのだ。自らを世界から消し去ることを選ぶ切ないラストシーン。死刑宣告をされる冒頭からは、全く想像すらできないクライマックスの展開に驚くけれど、こういう部分こそきちんと受け止めて、自分なりに噛み砕くのが映画を観る面白さ。この映画は、究極の大人のファンタジー。

 描かれ方はサイコ野郎だけど、裏にある切なさを見事に演じたベン・ウィショーの怪演。ダスティン・ホフマンがこんなコスチュームプレイに?とまたびっくりしたが、これが見事にいい雰囲気。そしてこの手の映画にはお似合いのアラン・リックマン。昨年劇場で見逃して悔しい思いをしていた。やっと観ることができた が、劇場で観なかったことをやっぱり後悔した。このサスペンスを、緊張感を、そして映像美を、劇場の暗闇で味わいたかった。

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ベン・ウィショー.レイチェル・ハード=ウッド.アラン・リックマン.ダスティン・ホフマン, トム・ティクヴァ

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