Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

宮廷画家ゴヤは見た

2009-01-06 | 映画(か行)

■「宮廷画家ゴヤは見た/Goya's Ghosts」(2006年・アメリカ=スペイン)

監督=ミロス・フォアマン
主演=ハビエル・バルデム ナタリー・ポートマン ステラン・スカルスガルド

 久しぶりにミロス・フォアマン監督作である。 フォアマン監督と言えば「アマデウス」。僕ら80年代青春組にとって、「アマデウス」は重要な映画だ。様々な世代の映画ファンと話すと、MTV世代の80年代はどうしても”よいもの”を残していないように言われがち。しかし、そんな80年代に世代を超えて支持されるのが「アマデウス」だ。この「宮廷画家ゴヤは見た」も18世紀のヨーロッパが舞台。「アマデウス」では音楽家サリエリが語り部として重要な役割を果たしてきた。だが、この映画でタイトルロールでもあるゴヤは主役ではない。ゴヤはあくまでも語り部として物語に登場するだけである。

  18世紀末のスペインは、ヨーロッパ諸国の中でも市民革命の波が起こらなかった、カトリックにこだわった”自由のない国”。カトリック教会の威厳を保つために踏み切った異端審問の強化が2人の人物の運命を狂わせることになる。 異端審問の先頭に立ったロレンゾ神父は、獄中の少女と関係をもってしまったことから教会を追われることになる。ナポレオンのスペイン侵攻でフランス軍による傀儡政権となった途端に、フランスの検察官として舞い戻り、司教たちを裁く。ところが、あっという間にイギリス軍により政権・教会が元に戻ったら、再び裁かれる身に。この展開は、重厚な歴史劇の割にテンポもよく、対比が非常に巧い。卑劣で身勝手でこれ以上ないような憎まれ役なのだが、一方で人間としての弱さをも演じてみせるハビエル・バルデムは実に見事。

 それにしてもナポレオンによって市民革命の波が押し寄せ、旧体制から解放されたとは教科書的な表現。実際には市民はフランス軍に略奪され、女は犯され、要するに侵略されただけ。王位などいらないと言ったナポレオンを皮肉る描き方もされている。結局、いちばん時代に翻弄されるのはやはり名もなき市民。その辺りを、ゴヤは時代を写し取る証言者として絵筆を走らせ続ける。タイトルバックとエンドロールにゴヤの絵画が映し出されるが、恐ろしいまでのグロテスクな光景や、恐ろしい巨人が描かれる彼の絵の意味を理解できた気がする。ともかく、2時間弱の上映時間が、人間の生き方について、歴史について、宗教について考えさせる濃密な時間だったことを僕は嬉しく思う。こんな映画は本当に久しぶりだもの。

 「アマデウス」もそうだったが、この映画には歴史劇を演ずるにふさわしい見事な配役が生きている。ゴヤの絵の少女に似ているという理由で、ナタリー・ポートマンはキャスティングされたそうだが、彼女を筆頭にランディ・クエイドにしても司教を演じたミシェル・ロンスデールにしても違和感がないから不思議。もちろん、ゴヤを演じたステラン・スカルスガルトもだ。ユーモアが効いた描写も素敵。僕は王妃の乗馬姿の絵を開帳する場面に笑いを抑えることができなかった。

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コメント (2)
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