Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

抱擁のかけら

2011-02-02 | 映画(は行)

■「抱擁のかけら/Los Abrazos Rotos」(2008年・スペイン)

●2009年ヨーロッパ映画賞 音楽賞
●2009年放送映画批評家協会賞 外国語映画賞

監督=ペドロ・アルモドバル
主演=ペネロペ・クルス ルイス・オマール ブランカ・ポルティージョ ホセ・ルイス・ゴメス

 ペドロ・アルモドバル監督がペネロペ・クルスを主演に迎えた4度目の作品。監督自身がペネロペの為に書いたという脚本は女優志願のヒロインが映画監督と恋をする物語で、彼女への賛美と感謝の気持ちが感じられる愛情にあふれた作品であった。元映画監督マテオは、過去の自分を封印して脚本家ハリー・ケインと名乗って仕事をしている。それはかつての大恋愛の果ての悲劇で恋人も視力も失ってしまったからである。そんな彼の元に男が訪れて一緒に脚本を書くことを提案する。その男はマテオのかつての記憶を呼び起こすことになる・・・。

 人を愛した記憶というものは瞬間の記憶が積み重ねられたもの。幸せな思い出も、悲しい出来事も、美しい断片となって僕らの記憶に刻み込まれる。「抱擁のかけら」はそんな愛の記憶が散りばめられている。そもそもこの映画はアルモドバル監督が何気なく撮った写真に写っていた人目を忍ぶ男女に着想を得たものだと聞く。二人はどういう人物なのか、二人の関係は、何故ここにいるのか・・・そしてできあがったのが「抱擁のかけら」だ。マテオが机のしまってあったのは、かつて愛したレナとの幸せな瞬間を撮った写真たち。しかしそれらは切り刻まれて、しかも彼はそれを二度と見ることはない。視力を失ったマテオが、レナとキスする映像が映し出されたテレビ画面に触れる場面に、僕は涙をこらえることができなかった。失った愛と思い出、愛しき日々の断片たたち。それを考えると「抱擁のかけら」って何ていい邦題だろう。久しぶりに当を得た見事な邦題だ。

 アルモドバルにとってのペネロペ・クルスは、きっとヒッチコックにとってのグレース・ケリー。劇中カメラテストと称してペネロペを時にオードリー・ヘップバーンのようなヘアスタイルにしたり、マリリン・モンロ-のようなウィッグをつけさせたり。シリアスな演技も、劇中劇(アルモドバル監督作の引用)でのコミカルな演技。ペネロペ・クルスの様々な魅力を引き出したている。二人が富豪エルネストから逃れた宿でロベルト・ロッセリーニ監督の映画「イタリア旅行」を観る場面が出てくる。火山の噴火で死んだ男女が映し出されてイングリッド・バーグマンが涙する場面だ。愛し合いながら死んだ男女を見て涙するレナを抱いて、マテオは黙ってセルフタイマーで写真を撮る。台詞が全くないのに、心に染みるいい場面。そして悲しみに暮れるだけで物語は終わらない。マテオが再び自分を取り戻す素敵なラストが待っている。アルモドバル映画って、どうしてこうドキドキした後にホロッと泣かせてくれるんだろう。今回も素敵な瞬間をありがとう。 



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