■「しあわせの雨傘/Potiche」(2010年・フランス)
監督=フランソワ・オゾン
主演=カトリーヌ・ドヌーブ ジェラール・ドパルデュー ファブリス・ルキーニ ジュディット・ゴドレーシュ
フランソワ・オゾン監督は変幻自在の監督だ。一作ごとにスタイルを変え、ジャンルにも統一感がなく、悲劇も喜劇も、静も動も何でもござれ。「まぼろし」はフィリップ・ソーテのような静かな人間ドラマ。「8人の女たち」は女優だらけのドールハウスでヒッチコックのようなユーモアあるサスペンス。「スイミング・プール」は一転して、アンリ・ジョルジュ・クルーソーみたいなシリアスなサスペンス。「エンジェル」は英語脚本で往年のハリウッドスタイル。幅広いジャンルをこなす監督はいるけれど、オゾン監督の守備範囲はなんとも広い。この「しあわせの雨傘」はコメディ。ここまで広いジャンルをこなしている監督って、思いつくのは北野武くらいでは?。きっとオゾン監督が、僕らと同じビデオ育ち世代だからだと思うのだ。お気に入りの映画を、自分なりに消化して形にしてくる。「スイミング・プール」はオゾン版「悪魔のような女」だし、「8人の女たち」の登場人物は過去の映画スタアたちだ。映画をたくさん観ている人ほどオゾン監督作にはさらに楽しくなる要素がある。
そんなオゾン監督の最新作は女性の生き方を描いたコメディ。タイトルにあるPoticheとは「飾り物」の意味(本編では「飾り壺」と訳されている)。社長夫人として家庭にいて、詩作を楽しめばよい。そんな生活を夫に強いられ、台所に立つことすら許されない。満足はしながらも生き方として満足できない主人公スザンヌ。そんなとき、仕事と労使交渉と秘書との浮気にに忙しい夫が突然入院することに。労使交渉を任されたスザンヌは、かつて恋仲だった市長ババン氏の協力もあって労使交渉を乗り切り、女性らしい発想と心遣いで職場の雰囲気を変えていく。自分の居場所を見つけた彼女だったが、夫の帰還と共に公私ともに騒ぎが起こり始める・・・。カトリーヌ・ドヌーブが生き生きと演技を楽しんでいるのがよくわかる。ドヌーブの出演作を観て思うのは、それぞれの年齢で代表作がちゃんとある女優だということ。過去の出演作の栄光だけで仕事をしてる人ではない。それぞれの時代に違った輝きをみせてくれる。雨傘工場の社長夫人という設定は、もちろんオゾン監督ならでわの遊び。ナイトクラブでババン氏と踊る場面はとっても素敵な場面ですな。主人公の自立を描くだけでなく、家族それぞれの思いがきちんと描かれているのも丁寧なつくり。
ミュージカルとまではいかないまでも、音楽が主人公の心情を補足して、雰囲気を盛り上げてくれる映画でもある。台所でスザンヌがラジオに合わせて歌う「私をダンスに連れてって」は、物足りない彼女の心持ちを表現しているし、ナイトクラブでのディスコチューンは観ているこっちまで楽しくさせてくれる。そして新しい生き方を発見して「美しい人生」と歌い上げるラストまで、飽きさせることはない。スコアも70年代のフランス映画に流れていそうで、どことなく懐かしさを感じさせる。
この映画はとっても楽しいのだけれど、ちょっと政治色が強い映画でもある。登場人物の台詞の中には、フランスの政治家の実際の発言が使われているようだし、ストライキをめぐるそれぞれの考えも政治色抜きには描けない部分だ。そこがあちらの事情を知らない日本人にとっては理解できない部分ではある。まっ、それを抜きにしても、楽しめる2時間。夢中になれることがあってこその人生。それでこそ人生は美しい。せぼん、ら、う゛ぃー♪