■「犯人に告ぐ」(2007年・日本)
監督=瀧本智行
主演=豊川悦司 石橋凌 小澤征悦 笹野高史
●2007年日本映画プロフェッショナル大賞 ベストテン第6位
テレビ画面で刑事が犯人を挑発する。世間を巻き込む”劇場型”捜査を展開するという発想は、確かに刑事ものの映画やドラマにはこれまで少なかったかもしれない。でも2時間ドラマがこれだけ日々垂れ流されている現在では、いくらトヨエツ主演にしたところで映画としての面白さはどんなだろう・・・正直期待はしていなかった。
警察内部の醜い人間関係がとにかく腹立たしくて仕方ない。そりゃぁ、どんな職場でも妬みもあるし、出世欲をもつのは当然だろう。しかし、いみじくも人々の生命と安全を第一に考えるべき立場の人間たちが、ここまで人の足をひっぱり、陥れようと画策し、相手を理解しようともせず一方的な言葉を浴びせかけ、己の欲望を貫こうとする姿はとにかく醜い。小澤征悦がどうしようもない二世警察官のボンボンをとても気味悪く演じている。足を組んで挨拶する横柄な登場シーンから、内部情報をネタに女性キャスターに迫るところ、逆光の中でニヤリと笑うラストまでとにかく徹底して嫌なヤツ。本部長を演ずる石橋凌も凄みのあるいい仕事。腹立たしく思うのは、この二人の演技あってこそだと思う。
だが物語全体として、警察内部に力点が置かれた為か、犯人の魅力が欠けるのはもったいない。「理想の国家」だの「教育が間違ってる」などと言っておきながら、映画は犯人像やその心理に迫ることはない。犯人との駆け引きも緊迫感が伝わってこない。映画中盤までは、追い詰められるのはむしろ主人公巻島刑事だし。WOWOWが製作だったんだし、テレビ画面で観ても十分だったんじゃない?と映画の半ばで僕は思い始めた。
しかしそのもやもやした観客のうっぷんは、巻島刑事が再びテレビカメラの前で犯人にメッセージを送る場面で一気に晴らされる。彼は、翌朝から行われるローラー作戦で犯人をあぶりだす、と宣言する。
「逃げても日本中の警察官がお前を地の果てまでも追い詰める。」
ふん、この台詞くらいなら青島刑事だって亀山刑事だって言うかもしれない。僕がそう思った次の瞬間だ。
「今夜は、震えて眠れ。」
うわーーーーーっ!背筋に電流。この台詞をビシッと決められる役者はそんなにいないよ。このために豊川悦司をキャスティングしたのか!。そうに違いない。見終わって思ったのは、この映画が狙ったのは「LAコンフィデンシャル」みたいなハードボイルドなんじゃないかということ。面白いけど、ちょっと惜しいね。
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