◾️「ワンダーストラック/Wonderstruck」(2017年・アメリカ)
監督=トッド・ヘインズ
主演=オークス・フェグリー ジュリアン・ムーア ミシェル・ウィリアムズ ミリセント・シモンズ
トッド・ヘインズ監督は時代の空気をスクリーンの中に再現する名手だ。「エデンより彼方に」にしても「キャロル」にしても、風景だけでなく道行く人に至るまで時代の様子を垣間見ることができる。「ワンダーストラック」は1927年と1977年の二つの物語が並走する構成だけに、その手腕は見事に発揮されている。27年のローズの物語はモノクロとサイレントで、77年のベンの物語は赤みがかったカラー映像に個性ある音楽が重なる。話は交互に映されるのだが、頻繁に画面は転換し、しかも同じような危機に陥ったり、自然史博物館で同じものを見ていたりと対比が面白い。そして二つの物語がどう融合するのか、ドキドキさせられる。
ヘインズ監督作品では、社会的な少数者に向けられた視点もよく見られる。今回は聴覚障害者が主人公。特にローズのパートはサイレント映画の演出なので、文字として示される数少ない場面があまりに雄弁。憧れの女優の映画を観て映画館を出たら、トーキーに移り変わることを伝える幕が張られる。聴覚障害があっても、好きな映画だけは他の人々と同じように楽しめていたのが、決定的なハンディを負う残酷さ。また彼女らが筆談することで示される紙に記された台詞が、観客に初めて人間関係や新事実を突きつけるから目が離せない。
ラストですべての謎が解き明かされる場面。ジオラマの手作り感が素敵で想像していた展開ではなかったから感動的。しかし、映画冒頭、壁にピンナップされた文章についてその後語られることはないし、デビット・ボウイのSpace Odittyももっと意味ある使われ方をしているのかと想像していた。ほっこりした気持ちで迎えるラストは心地よいけれど、ちょっと物足りなさは残るかなぁ。