(DVD)
二次大戦下、ドイツ。
ユダヤ人強制収容所が舞台とくれば、すでにさまざまな映画作品がありますが、
これが特異なのはそこで、贋札作りをしていた、ということ。
これは、史実であり、実際に贋札作りに携わった印刷技師、アドルフ・ブルガー氏の著作をベースに作品化したもの、ということです。
ベルンハイト作戦と呼ばれるこのプロジェクトは、
大量の贋ポンド紙幣をばら撒き、イギリス経済を混乱させるという目的で計画されました。
各地のユダヤ人強制収容所から集められた職人たちが、技術の粋を集結して、贋札を製造する。
彼らは収容所の他のユダヤ人からすると破格の待遇を受けます。
まずまずの食事、やわらかいベッド(それでも、2段ベッドですが)、シャワーも浴びられる・・・。
監視つきとはいえ、手に入れたこの生活に安堵してしまうのは当然です。
しかし、塀一つ隔てた向こう側では相変わらず、惨めなユダヤ人がぼろくずのように生き、殺されている・・・。
そのことに対する、罪悪感。
さて、その贋札作りにおいては、これが成功しないことは、自分たちの破滅を意味します。
役立たずのユダヤ人ということになれば、秘密を守るためにも、あっさりと抹殺されてしまうでしょう。
しかし、それを成功させるということは、ますますナチスを増長させる。
つまり、同胞たちをさらに苦しめることにつながるのです。
この二面性の中で、苦悩する彼ら。
ここでは、それぞれの信条信念が、くっきりと浮かび上がってきます。
ナチスに協力し働くもの、作業を少しでも遅らせようとするもの・・・。
いずれにしても命がけです。
結局、ドイツの敗戦により、この作戦は終止符が打たれますが、
実際、その贋札は銀行家も太鼓判を押すほどに精巧であったということです。
異常な抑圧。緊迫感と諦念。生への執着。
こんな状況下では、個々の本性が丸見えになってしまうのが怖いですね。
それは、支配する側でも同じなんですが。
だからこそ、数々のドラマが生まれるのでしょう。
しかし、二度とあって欲しくはないですね。
2006年/ドイツ=オーストリア/96分
監督:ステファン・ルツォヴィッキー
出演:カール。マルコヴィクス、アウグスト・ディール、デーヴィト・シュトリーゾフ、アウグスト・ツィルナー