「妃は船を沈める」 有栖川有栖 光文社
アリスと火村准教授のシリーズです。
あれ、助教授じゃなかったっけ?
これは別に出世をしたのではなくて、このたび、助教授の名称が准教授に変わっただけとのこと。
彼はなんと臨床犯罪学の研究をしており、たびたび、警察から協力要請があって、持ち前の鋭い洞察力で事件の解決に貢献している、という設定です。
さて、今回はもともと別個の中篇のはずが、同じ登場人物が出てきて、結果、一つの長編となったとのこと。
二つをつなぐ登場人物とは、三松妃沙子(ひさこ)。
40代、実業家。
貧乏な青年を拾ってきて世話をするのが趣味・・・ということで、
まあ、お妃様、のような存在。
この人物が犯罪の中でどのような役割を果たすのかは、まあ、ご想像の通り・・・ということになります。
この作品は、誰が犯人か、というよりは、どのように行ったのか、ということが問題となってくるわけですね。
このストーリーの中に出てくる「猿の手」という話があります。
怪奇小説の名作として名高いウィリアム・W・ジェイコブズの短篇。
(私は読んだことありませんが)。
そのミイラ化した「猿の手」は3度だけ願い事をかなえてくれる。
しかし、そのためには、そのつど、大きな代償を払わなければならない。
・・・という伝説のような話をモチーフにしたストーリー。
で、その短篇の解釈が読みようによっては、全く違うものになる・・・という話が出てくるのですが、これがすごく面白かった。
また、アリスの住んでいるのは大阪なのですが、文中、海遊館や天保山ミュージアム等、地下鉄大阪港駅付近の情景が出てくる。
実は私、先日大阪出張のついでに、そこへ行ったばかり。
これまで、大阪の地名など何も知らなかったのですが、
このように実際に行った地名が出てくるとすごく親しみがわきます。
アリスが一人でここの観覧車に乗ったりするシーンも、
ああ、先に読んでおけば、もっと、楽しめたのに・・・、と思います。
以前、横浜に行った時も私は、「馬車道」にぜひ行ってみたかったんですけどね。
(残念ながら、このときはかなわなかった)。
フィクションはフィクション、とわかってはいるのですが、つい、馬車道付近では、石岡氏の姿を探して、きょろきょろしてしまいそうな気がする・・・。
作品と、土地のイメージ、これも結構大事です。
満足度 ★★★★