「名短篇、ここにあり」 北村薫・宮部みゆき編 ちくま文庫
北村薫・宮部みゆき選りすぐりの短編集。
半村良、小松左京、山口瞳、松本清張など、豪華キャスト。
しかし、私はアンソロジーは実はちょっと苦手。
一人の作家の短編集なら良いのですが、全く別々の作家の短編集となると、
それぞれ文体も異なるので、一つ一つの物語世界に入り込むまでにちょっとエネルギーがいる感じです。
トップは、半村良「となりの宇宙人」。
SF・・・というよりは、これは落語だと思いました。
まあ、面白いのですが、どうもこれは・・・
ちょっと、おじさん向きかなあ・・・、と、その先いくつか読むうちにだんだん気が重くなってきたのです。
しかし、またさらに読み進むうちに、結構はまってきました。
うわ、と、息を呑む感じなのは、吉村昭「少女架刑」。
これは死んだ少女が語り手なのです。
もちろん死んでいるなら、語ることはできません。
幽霊ではないのですが、もしあるとすれば彼女の魂が語っている。
それも、その自分自身の亡き骸の行方を・・・。
大学病院へ運ばれ、衣服をはがされ、体をえぐられ、切り刻まれ、ホルマリンにつけられて・・・。
これってつまり、見ようによってはひどく、エロ・グロなのですが、
不思議な静謐さ、尊さに包まれている・・・。
だから、「架刑」なんですね。
こんな話は初めてですし、誰にでも書けるもんじゃない。
作家の力量というものに感じ入ってしまいました。
ほとんどミステリ寄りの私の読書も少し考えたほうがいいかも、なんて気さえしてしまいました・・・。
このほか、さすが大御所、松本清張の「誤訳」もいいですし、
井上靖「考える人」、これもまた、圧倒されてしまうすごい話です。
この本の続編もすでに出ているので、やはり読んでみようと思います!
満足度★★★★