映画と本の『たんぽぽ館』

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「ルポ 貧困大国アメリカ」 堤 未果

2008年11月06日 | 本(解説)
ルポ貧困大国アメリカ (岩波新書 新赤版 1112)
堤 未果
岩波書店

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米大統領選に、決着がつきましたね。
だからというわけではありませんが、たまにはこんな本も読んでみました・・・。

今、アメリカの経済界は大変なことになっていますが、
この本は、そのアメリカのひどい格差の実態について書かれています。
なんとも、心が暗くなっている話ばかりですが、
どうも日本もその跡をたどっているように思えてならない。
今、きちんとその実態を理解しておくことは、必要だと思います。

まずは・・・

☆貧困が生み出す肥満国民
貧困・・・と聞けばやせ細った姿を想像しますが、
なぜか、アメリカにおいては貧困層の子どもは肥満児が多い。
貧しいと、食事が安価なジャンクフード・ファストフードばかりになるというのですね。
給食はハンバーガーにピザ、マカロニ&チーズ、フライドチキン、ホットドッグ・・・。
ニューヨークの児童の4分の1は貧困児童で、
その3分の2が無料~割引給食制度に登録しているというのですが、
その給食の実態がこの通り。
裕福な家庭の子どもは、低カロリーで栄養価の高い手作りのお弁当を持参しているという。
この給食を提供しているのが、日本でもどこにでもあるファーストフードの大手チェーン店。
コストと効率しか考えない企業論理の犠牲というわけですか・・・。

☆民営化による国内難民と自由化による経済難民
2005年8月のハリケーン・カトリーナ。
日本でも相当話題になったひどい災害でしたが、
あれは自然災害などではなく、人災であるという。
FEME(連邦緊急事態管理庁)の対応が悪すぎた。
このFEMEがその他の救助活動を禁じたために、
内部で起きた暴力や略奪を防ぐすべさえなかったというのです。
FEMEは、当初は、災害の規模を縮小し多くの人命を救う、というその目的のためにきちんと機能していたのに、
民営化により、いかに災害対策をライバル会社よりやすく行うか
という目的にすり替わってしまった。
ニューオリンズの街は今もなお電気さえ通っていないところも多く、
瓦礫の山だという。
当然、仕事もなく失業者があふれている。

また、今アメリカで行われている学校のチャータースクール化。
公設民営化ですね。
このことで、国からの教育予算は大幅にコスト削減され、
貧困家庭の子どもたちは教育における平等な機会を奪われている。
また多くの移民たちも職がなく、あっても単純労働でひどい低賃金、
子どもたちは未来に希望がなく、軍隊に入るほかない・・・。

☆一度の病気で貧困層に転落する人々
アメリカは医療費が高いとはよく耳にします。
それは日本のように公的な医療保険制度がないため。
実は我が家のアメリカ留学中の娘がある日、歯の詰め物がポロリと取れてしまった。
仕方なく歯医者へ行ったら、きちんと治療するのに日本円にしたら20数万円かかると言われたとのことで・・・。
応急措置で穴だけふさいでもらい、その後、一次帰国した時にこちらの歯医者で治しました・・・。
私、最近保険の利かない歯の治療をしましたが、一本8万円でした。
それでも、なんでこんなに高いの?と思ったのに。
一体アメリカの人は虫歯になったらどうしているのでしょう。
さぞかし朝晩せっせと歯を磨いているのだろうなあ・・・。
もちろん、民間の保険はありますが、
カバーされる範囲がかなり限定されるのだそうです。
それで、中流程度の家庭でも、一度入院などの自体が生じようものなら、
多大な借金ができて、もう這い上がることができなくなってしうという・・・。
これが貧困層なら、そもそも始めの治療自体も無理ですよね・・・。
出産も日帰り出産が増えてきているとか・・・。

☆出口をふさがれる若者たち
アメリカには「落ちこぼれゼロ法」というものがある。
全国一斉学力テストで良い成績を出した学校にはボーナスが出るが、
成績の悪い学校は助成金削減または廃校。
このシステムがサービスの質を上げ、全体的学力の向上につながるというのですが・・・。
なんと、この法にはすべての高校は軍のリクルーターに個人情報を提出するという一文がある。
軍は貧困家庭を狙い、学費免除をえさに入隊を勧めるという仕組み。
貧しいために進学できず、まともな職に付けないという悪循環を断ち切るためには
入隊するしかない。
なんて卑劣な状況なのでしょう。
また、移民に対しては「市民権」をえさに、これまた入隊を迫っている。

一方、現役の大学生たちもまた、非常に苦しい状況にあるというのです。
それは学資ローン。
ローンは比較的簡単に組めるそうなのですが、
それがやがてずっしりと肩にのしかかってくる。
大学を出て就職しても給料は安く、バイトと掛け持ちしてもなお、苦しい。
何のためにわざわざ借金までして大学を出たのかわからない・・・。
カード破産も多発。

☆世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」
軍隊に入るしかなくて入隊し、イラクに送りこまれた貧困層の青年たち。
しかし、彼らはまだいいというのです。
いまや、戦争さえも民営化。
物資の運搬、倉庫の作業・・・これが企業の派遣社員として、
これまた貧困層をターゲットに雇われ、イラクに送り込まれる。
丸腰で戦場に立つのと同じ。
劣化ウラン弾の放射能にもさらされ・・・。
万が一のことがあっても単に事故死で「戦死者」には数えられない。


大国アメリカの、真の姿がこれか・・・。
問題のサブプライムローンというのも、
結局、アメリカの富裕層が貧困層の貧困度を甘く見ていたんですよね。
皮肉なもんです。
なにやら日本も教育界では同じ過ちを繰り返そうとしているようにも思えるし。
私たちはしっかり目を開けて、世の中のことを見ていなければなりませんね。
アメリカの人々も、こんな状況を何とかして欲しい、という思いでオバマ氏に票を投じたのが良くわかります。
人種問題がどうのこうの、というより、もっと差し迫った問題山積み。
オバマ氏は、これらの問題にどう立ち向かおうとしているのか。
お手並み拝見というところです。

満足度・・・というより納得度★★★★★