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天国で君に逢えたら (新潮文庫) 飯島 夏樹 新潮社 このアイテムの詳細を見る |
この物語には素敵な「手紙屋」さんが登場します。
がんセンターの19階、オープンエアのエントランス。
ここに、本物のヨットが置いてあって、そこがこの手紙屋、純一のオフィス。
手紙屋さん?
実は精神科のドクターなのですが、
ガンで余命○ヶ月と宣告され、悩み苦しむがん患者たちの思いを受け止めて、
「手紙」という形に整理し、手渡す役目を受けもっています。
そこに訪れた人々の思いを綴る、物語。
すごく気持ちが優しくて、
だからこそ、いまいち要領が悪くてなんだか情けない純一さんなのですが、
この「手紙屋」の仕事はぴったり。
とにかくあるがままに人の気持ちを受け止めるって、
しんどいけれど、大事なことかも知れません。
この、オフィスがいいですよねー。
海の上じゃないのは残念ですが、
そこには露天の檜風呂まであったりする、癒しの空間なのです。
公立の病院も、こんなところにお金をかけてくれるなら、すごくいいのですが・・・。
このストーリーでは、とても物分り良く、豪快なお金持ち(!)のおじいさんが登場しまして、
ポンとその費用や段取りを付けてくれる。
う~む、実際にはこんな人、いそうもありません。
いればいいなあ・・・・という願望ですね。
何で、よりによって自分が、こんな病に侵されなければならないのか・・・、
それぞれ、登場人物はみなこんな思いを胸の底にたぎらせています。
だから本当はすごく悲惨でつらいストーリーになりそうなのに、
なんだか気持ちがホンワカと、温かくなってくる。
愛と勇気にあふれた素敵なストーリーなんですね。
さて、この著者なんですが、実はもうすでにこの世の人ではありません。
8年間ワールドカップに出場し続けた世界的プロウインドサーファー。
この、健康の塊のような方が、ガンに侵され、余命宣告を受けてしまう。
そして突然病床で書き始めたのがこの小説、とのこと。
「これまでの人生すべてが、この物語のための取材だったのかな」
と、本人は語ったそうですが、
奇跡のように、わずか3週間で、この物語を書き上げたのだという。
自ら、目前の死を見据えながら、こんな明るいストーリーをかけるというのは、
本当に精神が強い方なのだろうと思います。
生を生き抜いた、とでもいいましょうか・・・。
しんみりとするけれども、涙はなし。
愛と優しさと、ちょっぴりの勇気で、案外幸せ。
著者は天国から、そのようなメッセージを送ってくれているようです。
満足度★★★★☆