映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

4ヶ月、3週と2日

2008年11月30日 | 映画(や行)
4ヶ月、3週と2日 デラックス版 [DVD]

ジェネオン エンタテインメント

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オティリアの緊迫した長い一日
                      
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ルーマニアの映画・・・というのも珍しいです。
これは1987年、チャウシェスク政権下のルーマニアが舞台。
大学生オティリアが、ルームメイトであるガビツァの違法妊娠中絶を手伝うというストーリー。
中絶がご法度、というのはそう珍しくない話です。
欧米では主に宗教上の理由でそういうことが多いですね。
ちょっと「ヴェラ・ドレイク」を思い出したりします。
しかし、この映画ではもっと厳しい実態があって、
この頃のルーマニアでは、政治・経済、思想、教育、また、個人生活にまで国家のコントロールが及んでいて、
出産が奨励され、中絶は絶対に禁止されていた。
それなので、これは今私たちが思う以上に危険な行為であるわけです。
しかしこの映画は、当時のチャウシェスク独裁政治を糾弾するための作品ではありません。

4ヶ月、3週と2日とは、ガビツァの妊娠経過日数のことなのです。
大学の寮の狭い一室で、この二人がなにやら緊迫して準備をしているシーンから始まります。
片言の会話から、今日何か秘密のことをしようとしているらしいとわかる。
でも、何かわからない。
ワンシーンワンカット。
セリフのないところも、カメラが俳優の表情や行動を執拗に追います。

一番圧巻だったのは、オティリアがボーイフレンドの家族のディナーに招かれ、
心ならずも、大人たちの歓談に付き合うハメになったシーン。
ここは、実はガビツァの容態が心配で、
一刻も早く戻りたいという内心の焦りを表すシーンです。
静止したカメラが、取り留めのない会話に表情をなくしたオティリアを11分間捕り続けます。
観客も見事にじれてきます。

オティリアはこの日、ガビツァのために非常に危ない橋を渡り、神経をすりへらし、
また、かなりショッキングな事態にも遭遇するというのに、
ガビツァのほうは意外と無神経で悪びれる様子も見られない。
そんなところにもイライラさせられるオティリアの感情も良く表わされています。
とにもかくにも、何とか緊迫の長い一日が過ぎてゆく・・・。
見ようによっては退屈な映画かも知れませんが、私はかなり見入ってしまいました。

ここには結局、ガビツァの妊娠の相手は出てきませんよね。
いつも割を食うのは女ばかり・・・。
でも、これをやり遂げるオティリアのたくましさにも目を見張る。
特にこういう時代で生き抜くには、自分だけが頼りなのだろうと、そういう気もします。ものすごく友人のためを思っている、というよりは、
一度、友人を助けると自分が決めたのだから、自分がやり遂げるしかない。
そういう一本の芯が感じられるのですね。

終始、静かで緊迫感の漂う作品だったのですが、
エンディングテーマ曲の妙な明るさに、拍子抜けでした。

2007年/ルーマニア/113分
監督:クリスティアン・ムンジウ
出演:アナマリア・マリンカ、ローラ・ヴァシリウ、ヴラド・イヴァノフ