映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「悩む力」 姜尚中

2008年11月29日 | 本(解説)
悩む力 (集英社新書 444C)
姜尚中
集英社

このアイテムの詳細を見る

情報ネットワークや市場経済の拡大。
世界のありようが大きく変わってきています。
こんな中で多くの人々は何を信じていいのかわからず、大変なストレスの中にいる。
この本では悩みを解消するというよりは、
「中途半端でなく、とことん悩んで突き抜けろ」といっています。


今、身の回りにあふれかえる様々な情報。
私たちはお金さえあれば何でも手に入るし、自由。
確かに、私たちはそう思っています。
しかし、昔はそうではなかった。
宗教や身分、親から受け継ぐ職業・・・そういうものにがんじがらめで、
その中で何とか生きていくほかなかったんですね。
でも、今は、そういった縛りから解き放たれ、「自由」。
でも、この自由というのが曲者で、
まるで、広い野原の真ん中に1人で放り出されたよう。
どっちへ行ってもいいよって、一体どっちへいけばいいの???となってしまう。
だから悩んで悩んで、方向を決めればいい。
むしろ、悩まない方が変だとすら思えてきますね。
・・・ちょっと、能天気な自分を反省したりもします。


『何のために「働く」のか』という章にはこんなことが書いてありました。
何のために働くのか。
もちろんお金を得て生活するため、ではあるのですが、
自分が生きている意味を確かめるため、そんな意味もあるようです。
人は、他者とのつながりの中で始めて生きていけるんですね。
人と何のつながりもない、何の役にも立っていない、という思いは、
ひどく孤独感や無力感を生みます。
働くことで、人と人とのつながりができ、ほんのちょっとでも誰かの役に立っている、
そういう実感が持てたら、生きていく張り合いになる。
だから働く。
・・・なんだかとても納得できます。

また、悩みぬいて、老いたなら、
今度はうんと横着になって、夢を果たせといっています。
「最高の人生の見つけかた」という映画は、
ガンを宣告され、残されたわずかの時間で、やりたいことをするという話でしたが、
この本では、老いを生きるために、
夢を持ってやりたいことをしよう、というのです。
なんだか、勇気がわきます。
年をとるのがちょっぴり楽しみになってきますね。


この本では、100年前、夏目漱石やマックス・ウェーバーが、
今の私たちと同じ壁にぶつかっていたとして、
この二人の著書などにも触れています。
マックス・ウェーバーはともかく、夏目漱石は、名前だけは馴染み深いですが、
恥ずかしながら、いい年をして私はあまり読んでいません。
学校の国語の授業のおかげで、「文学」に拒否感。
で、もっぱらB級(?)読書の道を歩んでしまったんで。
でも、ちょっと今回読んでみたい気になりました。
最後に年表があって、これを見ると夏目漱石は慶応3年の生まれ。
って、つまり江戸時代ですね! 
意外な気がしますが、別に意外でもなんでもない。
そのすぐ後に明治維新なんですから。
確かに、それは激動の時代でありましょう。
また、ロンドン留学までした知識人ですから、
世の中のいろいろなことが見えすぎてしまって、
本当に生き辛かったのだろうなあ・・・と、思うわけです。
時代が変わっても、人の悩みは変わらないのですね・・・。
むしろ悩みのタネは現代の方が格段に多い・・・。

若いときは悩んで悩みぬいて、そして穏やかで楽しい老後。
・・・と、書きながらつい思ってしまったのですが、
生活費用の面でいうと、
若いときは働いて働きぬいて、そして貧乏で切ない老後。
これが現実だったりして・・・。
余計な話でした・・・・・・・・・・・・・・・・・


満足度★★★★☆