映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ラブ・アペタイザー

2008年11月04日 | 映画(ら行)

神は私たちが嫌いなのか・・・

             * * * * * * * *

(DVD)
老大学教授ハリー(モーガン・フリーマン)は、
息子を麻薬中毒で亡くし休職中で、妻と静かな二人暮らし。
彼が行きつけのコーヒーショップで知り合った人々の、
様々な恋の出会いや失恋を絡めた人生模様を語っています。

この作品は日本では公開がなくて、いわゆるDVDスルーというヤツなんですね。
確かに、終始静かに語られるこのストーリーは地味ではありますが、
とても上質で、胸にしみます。

まず、その行きつけのコーヒーショップがなんだか素敵なんですよ・・・。
明るくて清潔でいかにもコーヒーは美味しそう。
ふっと、香りが漂ってきそうな・・・。
そこの店長ブラッドリーはまじめで誠実でいい人なんですが、女運が悪い。
・・・というか、女心がわかっていないというべきか。
最初の妻はあるとき知り合った女性(!)と駆け落ち。
次の彼女は、結婚式当日にドタキャン。

また、そのコーヒーショップ店員のオスカーは、通りがかりのクロエに一目ぼれ。
この二人はほんとにいい感じなんですが、
あるときクロエがふと占い師に運命を見てもらうと、
あなたの彼のこの先の運命が見えないといわれてしまう・・・。


「アペタイザー」は、食前酒とか前菜のことですね。
恋の始まり。
ハリーはよく人が恋に落ちる瞬間を目撃してしまうのです。
「ハチミツとクローバー」の中にありましたよね。
「初めて人が恋に落ちる瞬間を目撃してしまった。」
ちょっとさめた目をしているハリーは、特別意識しているわけでもないのに、
そういうことがすごく目についてしまうのです。
その瑞々しくまた無鉄砲な情熱をうらやましくもあるのだけれど、
その先に必ず来る、修羅、
気持ちの行き違いや別れが彼らには見えていないことに、哀れを感じてもいる。


私たちが生きていく上で必ずある、人と人との出会い、そして死。
息子の死で、ずっとある意味「諦観」の思いを抱いているハリーは、
「神はよほど私たちが嫌いなのだろうか・・・」とつぶやく。
これに答えるのはブラッドリーで
「いや、そんなことはない。神は困難を乗り越える勇気を与えてくれる。」
何度も、失意のそこから這い上がったブラッドリーの言葉らしいですね。

みんなの恋愛の相談を受けたりしていたハリーなのですが、
最後には、その皆にまた、生きる勇気を与えられるのです。

はい、しみじみと味わい深い良い作品でした。

2007年/アメリカ/102分
監督:ロバート・ベントン
出演:モーガン・フリーマン、グレッグ・キニア、ラダ・ミッチェル、セルマ・ブレア