無痛 (幻冬舎文庫 く 7-4) 久坂部 羊 幻冬舎 このアイテムの詳細を見る |
私にははじめての作家です。
著者は医師でもあるので、その知識がふんだんにいかされたミステリとなっています。
ここに登場するのは、為頼(ためより)という医師。
彼は人の外見だけでその人の症状を完璧に読み取ることができる。
まあ、普通の人は、顔色などを見て具合が悪そうだ・・・くらいの判断はできますが、彼はそれをもっと詳細に読みとるのですね。
こんな医者がいたらいいなあ・・・とは思いますが、
彼は例えばガンが治るか治らないかまでわかってしまう。
医者もイヤでしょうが、診られるほうもちょっとイヤかも。
たとえワラのような可能性でも、信じたくなるかもしれないですし・・・。
でも、このストーリー上、彼の妻はガンの不治がはっきりした時に、
一切の治療をやめ、夫婦でオーストリアに渡り、豊かな時間を過ごします。
こういうのはいいなあ、と思います。
抗がん剤の治療は、苦しいばかりで、さらに体力を消耗し、
本来もっと長く生きられたかもしれないのに、寿命を縮めている。
こんな描写は、医師としての著者の本音でしょうか。
・・・私は共感しますが、いざ自分の身の上のこととなったら、
どうなるかわからないなあ・・・。
さて、話がそれましたが、冒頭、無残な一家四人の殺害事件。
一体誰が何のために・・・。
捜査は行き詰まりを見せる。
その真犯人と医師為頼が次第に接近していくわけです。
スリルとサスペンスに富み、また、医学的な部分はミステリアスでもある。
結構ボリュームたっぷりの本ですが、一気に読めます。
犯人像も、すごく特異ですが、憎みきれないところもあって、それは悪くない。
しかし、実のところ、私は途中で投げ出したくなったところもいくつか・・・。
ここに登場する要造という男が、
とんでもなく粘着質のぞっとするくらいにいや~~~な奴なんですよ。
まあ、それに見合った運命をたどるのですが・・・。
それに、医師の本領発揮しすぎのリアルな死体や犯行の描写・・・。
う~ん、具合悪くなりそう・・・。
というところで、全く、強烈でした。
あまりに強烈なので、この本の主題は本当は、
「犯罪者の心身喪失は罪にならない」
という現代日本の法律にあると思うのですが、
それはすっかりかすんでしまいました。
この残虐に耐える自信のある方にはお勧めです・・・。
満足度★★★☆☆