孔雀狂想曲 (集英社文庫) 北森 鴻 集英社 このアイテムの詳細を見る |
この物語の主人公は趣味・骨董の店、雅蘭堂(がらんどう)の店主である越名。
いつも眠っているように目が細いけれども、
実はそのまなざしはとても鋭いのであります。
骨董の世界は奥が深いですね。
この本に出てくるだけでも、
ライター、カメラ、古九谷焼、鉱石、江戸切子、油彩絵画、根付、ビスクドール、
と様々な題材があふれています。
「鑑定団」のTVにも良くあるように、往々にして贋物が現れる。
これらの目利きをするにはかなりの熟練と知識、そして直感が必要なんでしょうね。
しかしまた、この物語を見ると、
それらを高く流通させるためには、裏取引やら駆け引きやら、
相当手の込んだだましをすることも・・・。
ほとんど狐と狸の化かしあい。
こんな世界で生きていくのはいかにも大変そうです。
知れば知るほど怖くて手が出せそうもありません。
しかし、良くぞこのような専門知識も必要なことで、
思わずうなってしまうような、巧妙なミステリを作り上げるものだ・・・と、
いまさらながら感心してしまいます。
どの短篇もなかなかのできばえ。
この中の作品は、結構他のアンソロジーに収納されているものが多いですね。
他で読んだことがあるものも、いくつかありました。
物語自体はこのように渋い題材がならびますが、
ここに、精彩を加えているのは高校生安積(あづみ)。
彼女は店の品を万引きしかけたところを、越名に見つかってしまったという、
全く今時の少女なのですが、
それ以来この店が気に入ってしまい、押しかけアルバイトで時々店番をする。
しかし、非常に貴重な品を二束三文で友人に売りつけようとするなど、
なかなか油断ならない。
変に「清々しく良い子」でないところが魅力です。
しかし、バカっぽっく見えても、鋭いところもある。
越名に言わせると、調子の乗るので、それは「本人には内緒」だそうで。
表題の「孔雀狂想曲」には、鉱物見本が登場します。
どこにでもあるものではないですが、欲しい人がそういるとも思えない、鉱物見本。
しかし、珍しく売れてしまったその品の行方を、しきりと知りたがる人物が登場。
ところが、その人物が後日死体となって発見される。
男は一体何のためにそのような鉱物見本を欲しいと思ったのか。
そして、殺されてしまった訳は・・・。
実はその見本の中に孔雀石が入っていたのです。
さほど貴重なものではないけれど、緑色の顔料を作るのに使われる。
どうも、最近盗難にあったK画伯の風景画と関係があるらしい・・・。
果たしてこの謎をどう解くのか・・・・。
いろいろな薀蓄のネタにもなる一冊です。
満足度★★★★☆