映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ブタがいた教室

2008年11月03日 | 映画(は行)

いのちの長さは誰がきめるの?

               * * * * * * * *

昨日の「食堂かたつむり」に引き続きまして、さっそくこれを見てみました。

6年2組の新任教師、星先生が、ある日子ブタを連れてきて言うのです。
「卒業までの1年間、ブタを飼育して、最後にはみんなで食べたいと思います」
教室は騒然となりながら、やってみよう、ということになる。

学校ではよく、ウサギとかニワトリを飼っていますね。
でも、その飼っていたニワトリが寿命で死んだ時でさえ、
食べるという行為はタブーとなっているのではないでしょうか。
ここでは大胆にも、食べることを目的として、ブタを学校で飼う。
前代未聞です。

子どもたちはさっそくブタにPちゃんと名前をつけ、
思いのほかせっせと世話をします。
残飯の用意。ブラッシング。糞の始末。
名前を付けた時点でさっそく危惧が感じられますね。
このようにペット視してしまっては、後がつらいのではないかと・・・。
ブタがすくすくと成長し、どんどん愛着が沸いてきた時に、
やはり大きな問題が発生する。

本当に、Pちゃんを食べちゃうの?

卒業の間際、6年2組では子どもたちのディベートが繰り広げられます。


「こんなにかわいいPちゃんを、食べられるわけがないじゃない。」
「どこか別のクラスに引き継いで飼ってもらおう。」
「でも、その先はどうなるの?」
「自分たちが食べると決めて飼いはじめたのに、人に押し付けるのは無責任じゃないか。」
「ブタは、人間が食べるために生まれてきたんだ。」
「そんなの、人間の勝手な理屈だ。」
「私たちの知らないところで、殺されてしまうのはイヤだ。」
「食べることは、命をつなぐことなんじゃないか。」
「先生、いのちの長さは誰がきめるんですか?」

このような子どもたちの討論シーンには、台本がなかったそうです。
子どもたちの真剣な表情、はっとさせられる言葉に、
涙があふれて止まりませんでした。
命を考える授業。
その目的においては確かに成功ですが、大人でもなかなか答えを探すことが難しいこと、
小学生には厳しすぎる課題であったかもしれません。
でも、教科書を読むだけでは、絶対に得られない何かを彼らは学んだのです。

もともと、この話は、大阪の小学校であった実践。
TVのドキュメンタリーで放映され、話題となったそうです。
ちょうど今朝も、TV番組でこの映画にからめて、
その実践をした先生と、当時の子どもたちのインタビューが放映されていました。
先生は当時から16・7年を経た今でも、その時の結論がそれでよかったのかどうか、
ふと考えてしまうことがあるそうです。
この問題に正解はないし、いつか答えが出ることもないんですね。

さて、子どもたちを見守る教師、妻夫木聡は好演だったですねー。
決して教師がしゃべり過ぎない。
「命は大切です。」なんてことは一言も言わない。
子どもたちに自分自身で考えさせ、答えを見つけさせること。
ここがいいんですよ。
そして、教師の思いを受けて、真剣に考え、討論する子どもたち。
こういう姿を見たら、先生も、自分の職業に誇りを感じるでしょうね。
昨今教師は、親からは苦情や無理難題を押し付けられ、
上司からは評価にさらされ、
しかも、超多忙という大変な職業であるわけですが、
こういう子どもたちを見たら、やっぱりやめられない、と思うんだろうなあ・・・。
というか、こういうぎゅうぎゅうの毎日では、
このような実践に取り組みたくても取り組めない、
というのが、今時の実情のような気がします。
このストーリーでは、大変理解ある校長先生がいて、
この星先生をバックアップしてくれるのです。
親からの苦情にも責任を持って対応し、説得してくれる。
昨今、ことなかれ主義の人は多いですからね。
こういう校長も貴重です。


突き詰めれば、たった一匹のブタの命です。
センチメンタルに過ぎるかもしれません。
毎日、どれだけのブタや牛の命が食料のために奪われているのかを考えて見れば。
でも、そのことすら私たちは忘れがちですね。
命を「いただく」のだ、という自覚を、
やはり時々は思い出したいものです。

エンディング曲がトータス松本。
涙に暮れて疲れた心を、やや上昇させてくれます。
子どもたちが一人ひとり、卒業証書を受け取るシーンを重ねながら。
う~ん、いいエンディングロールでした!

2008年/日本/109分
監督:前田哲
出演:妻夫木 聡、原田美枝子、大杉漣、田畑智子