映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ぜんぶ、フィデルのせい

2008年11月16日 | 映画(さ行)
ぜんぶ、フィデルのせい

ギャガ・コミュニケーションズ

このアイテムの詳細を見る

ふくれっつらの女の子の言い分

               * * * * * * * *

1970年代。パリ。
9歳の少女アンナは、弁護士のお父さんと雑誌記者のお母さん、
そしてやんちゃな弟の4人家族。
まあ、ほどほどの上流家庭で満ち足りた毎日を過ごしていました。

ところが、ある日突然、両親が共産主義に目覚めてしまったのです!
それまでの庭付きの広い家を出て、狭い家に引越し。
なんだかわけのわからない、大勢の人々がいつも家を出入りしている。
学校は何とか移らないで住んだけれども、
大好きな宗教の授業は受けてはダメと親に言われ・・・。

こんなことになってしまったのは、全部、あのフィデルのせい!
と、アンナは怒るのです。
フィデルというのは、かの革命家、フィデル・カストロ。
共産主義なんて大嫌い!!と、彼女は不満を募らせる。
「まったく、子どもって大人の都合に振り回されるばかりで、
ほんとにソンなんだから・・・」
と、彼女の心の声が聞こえてくるようです。
この、いつも仏頂面のアンナがとてもかわいいのです。
悪いけれど、そのふくれっつらを見ているこちらは、つい、苦笑してしまう。


この映画は、別にイデオロギーがどうこう、という作品ではないのだと思います。
まだ、自分のことしか考えられない本当の子どもが、
少しずつ、自分を取り巻く大人たちや社会を認識し、理解していく。
そうして、1人の自我を持った大人へと成長していく過程を描いたものなんですね。
それは、長い人生からすると、
ほとんど一瞬といってもいいくらいのわずかな期間に起るもののような気がします。
このアンナの成長の姿には、胸がほんわかさせられます。
こういう風に、成長を促す周りの大人たちも、素敵ですよね。

この両親は、実に思い切りがよく、自分の信じることに一生懸命。
思想はあっても、普通は自分の豊かな生活を捨ててまでは、なかなか思い切れないですよ。
実は、両親のここのところがすごいと思うのですが、
映画の中では、アンナの視点なので、
突然親が狂った、としか思えない。
この辺のギャップがおもしろいところです。
両親二人とも忙しくて、子どもは外国人のお手伝いに預けっぱなし。
確かに、理想的な両親とはいえないと思うのです。
しかし、なんだかんだといいながら、
こういう姿勢は結局のところ、子どもにとってはいい刺激になるのではないでしょうか。
子どもは親の後姿を見て育つ、と。
親もぼやぼやしていてはいけません。

2006年/フランス/99分
監督:ジュリー・ガヴラス
出演:ニナ・ケルヴェル、ジュリー・ドパルデュー、ステファノ・アコルシ