映画と本の『たんぽぽ館』

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「ブレイズメス1990」 海堂尊

2012年07月20日 | 本(その他)
患者をお金で選別するという天城医師の真意は・・・?

ブレイズメス1990 (講談社文庫)
海堂 尊
講談社


                * * * * * * * * * 

海堂尊ワールド、
今作は、「ブラックペアン1988」の2年後の物語ということになります。


東城大学医学部附属病院の新米医師世良は、
佐伯教授よりある極秘のミッションを受けてモナコへ向かいます。
それは、この世でただ一人しかできないという心臓手術をする天才外科医、天城雪彦を日本へ連れ帰ること。
紆余曲折、この医師を連れ帰るまでが、
ほとんど冒険譚と言っていいくらいに困難で、
そして読者としては面白いものでした。
しかし、日本へ舞台を移してからがまた大変。
この医師、天城の主義はとんでもないものなのです。
つまりはお金!! 
彼はお金で患者を選別します。
彼の手術を受けるためには、全財産の半分を投げ出す覚悟が必要。
何やら、ブラック・ジャックを彷彿とさせますが、
同様に、彼の最終的な目的はお金儲けなのではない。
彼が見つめる先は、医療の未来。
現制度の矛盾やら複雑さやらを蹴散らして、
自分が望む未来を目指そうとする。
それは多分著者自身の理想なのかも知れませんが、
その道のあまりの険しさに、ただただ圧倒されるのみ。
これだけの強烈な人物でなければ、思うことはあっても踏み出せるものではないですね。
まあ、そこが小説の醍醐味でもあるのです。


ちょうど、舞台はバブルの絶頂期。
天城はいいます。

「日本は凋落しないとでも?
・・・日本も遠くない未来に必ず凋落します。
だからこそ栄華の頂きで考えなければいけない。
不採算部門の確率ができるのは好景気の今しかない。」


ほんとうに、あの頃そう考えることの出来る人がいれば、
今の日本はもう少しマシになっていたかも知れません。
キザでアクの強い天城については、読み手としてもちょっと引くものがあったのですが、
終盤、彼が語る理想については、同調してしまいました。
そして、ご自慢のグリーンの愛車ガウディの色をカエルに例えられてムッとくるあたりが、
なかなかチャーミングだったりする。
なんだか素敵な夢を見させてもらったような・・・?


いつもながらの海堂尊ワールドは、見知った人々が多数登場。
黄金地球儀やボンクラボヤの話なども出てきて、
読みこめば読み込むほど楽しめるわけでした。

「ブレイズメス1990」 海堂尊 講談社文庫
満足度★★★★☆