映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

オレンジと太陽

2012年07月11日 | 映画(あ行)
“使命”を持つ人



                    * * * * * * * * * 

今作はイギリスで1970年まで行われていた
オーストラリアへの「児童移民」の実態を明らかにした女性、マーガレット・ハンフリーズの物語です。


イギリス、ノッティンガムで社会福祉士として働くマーガレットは、
「幼い子供だけで船に載せられ、オーストラリアに送られた」
という人の話を耳にします。
彼女自身これまで聞いたことがない話だったのですが、
調べてみると実際、過去に英国が児童施設に入った子供たちを、福祉の名のもとにオーストラリアへ送っていた。
そこで子供たちを待っていたのは、劣悪な環境の施設と重労働、性的虐待・・・。
それは数十年に渡りその数13万人以上。


英国で児童施設に入っていた、というのはつまり圧倒的に私生児が多いようなのです。
宗教上のこともあり、結婚外の子供というのは世間からも家族からも疎まれていたのでしょうね。
今はそこまでひどい状況はないでしょうけれど。
そんなわけで、実の親も知らぬうちに、オーストラリアに送られてしまった
などということがほとんどのようです。
「オーストラリアは、太陽が輝いていて、オレンジがたくさん実っているよ」
などと甘い言葉をささやかれて。
物心つくかつかないかでこのようなところに無理やり連れてこられた子供たちは、
自分がどこの誰なのかもわからないまま大人になり、
子供の頃の虐待の記憶と相混ぜになってひどく苦しんでいる人が多いのです。
このような多くの人々の苦しみを少しでも癒そうと、マーガレットは立ち上がりました。
彼女は真実を明るみに出しただけなのですが、
こういうことには反感を持つ人も多いのです。
特に、教会を批判しているとして、嫌がらせを受けたり、実際に身の危険を感じたり。
また、自分の子供を置き去りにして、オーストラリアに長期滞在しなければならず、
そのことも非難の的になります。
人の心の痛みを自分のことのように引き受けるために、PTSDの症状が現れたり。


数々の困難を背負いながらも、
私がやらなくて誰がやるのか、
という思いで仕事を続けるマーガレット。
“使命”という言葉がふさわしいですね。
天から与えられた役割とでもいうのでしょうか。
そういうことをやりぬく人は喩えようもなく強く美しい。
憧れます。




今作のように、オーストラリア史の隠された事実を描く作品に
「裸足の1500マイル」というのがありました。
これはアボリジニと白人の混血児をアボリジニから隔離し、
白人社会と同化させようとしたもの。
これも強制的に子供たちを親元から引き離したのです。
このことも1970年ころまで行われていたようです。
私の子供の頃「白豪主義」と呼ばれていたオーストラリアの正体がそれなんですね。
「裸足の1500マイル」のところにも書いたのですが、
私たちはエアーズロックで愛を叫んでる場合じゃないです。
きちんと歴史を学びましょう。

「オレンジと太陽」
2010年/イギリス・オーストラリア/106分
監督:ジム・ローチ
原作:マーガレット・ハンフリーズ
出演:エミリー・ワトソン、デビッド・ウェンハム、ヒューゴ・ウィーヴィング、リチャード・ディレイン、ロレイン・アシュボーン