映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

おおかみこどもの雨と雪

2012年07月24日 | 映画(あ行)
成長していく“子どもと親”の物語



                   * * * * * * * * * 

「サマーウォーズ」にすっかりハマった私は、この細田守監督作品、迷わず見ました。
脚本の奥寺佐渡子さんも好きなんですよね。

ただ、“おおかみおとこ”と恋に落ちて、生まれた“おおかみこども”の話し・・・というのは
題材としてやや期待はずれ?のようにも思えたのですが・・・、
見始めてそのような思いはどこかへ消え失せてしまいました。



19歳女子大生の“花”が好きになった人は
実は“おおかみおとこ”。
二人は都会の片隅で慎ましく暮らしていました。
そしてまもなく二人の子供を授かります。
姉の“雪”と弟の“雨”。

二人は父親の血を受け継いで、何かの拍子におおかみに変身してしまいます。
ところがそんな矢先、“おおかみおとこ”は突然この世を去ってしまいます。
さあ、大変!! 
実際、私は、どーするんだっ!!と思ってしまいました。
乳飲み子を抱え、勤めようにも勤められない。
保育園に預けたくても、いつおおかみに変身してしまうかもわからないのではとても預けられない。
ご近所から赤ん坊の鳴き声がうるさいとか、
ペット(?)は飼えないはずだとか、苦情が来る・・・。
花はついに決心して、豊かな自然に囲まれた田舎町に越してくるのです。
なるべく近所に家がなさそうな山奥。
格安の古い家。
そこで、家族3人の生活が始まります。



おおかみというのはもともと自然の化身のようなものですね。
だからこの家族が自然に囲まれたこの土地にやってくるのは
ごく当然の成り行きのように思えます。
花とおおかみおとこの生活には、いつも慎ましい野の花が飾られていましたっけ。
さて、二人は姉弟でも性格が随分違います。
姉の雪の方はまさに野生児で怖いもの知らずの元気者。
すぐにこの山の生活に馴染みました。
ところが弟の雨は違います。
引っ込み思案で臆病。
いつも母や姉の後ろに隠れているような・・・。
彼はもとの家に帰りたくて仕方ないのです。
でも、面白いものですね。
二人が成長していくに連れ意外な面が見えてきます。



二人は成長していく過程で
おおかみとして生きるのか、人として生きるのか、
選択を迫られることになります。

自分とはナニモノなのか。

そうです、考えてみれば“おおかみこども”ではないどんな子供も、
いつか自分を知り、何者かになろうとする。
そうして、親は結局子供の決断をハラハラして見守るしかない。
このストーリーは決して特殊なものではないのですよね。
そうした中で親自身も成長していくのでしょう。
花が田舎暮らしを決意し、あばら屋を見事に蘇らせたその行動力、たくましさに打たれます。
守るものができると人は強くなるのかも知れません。
けれど、彼女は後に気づくことになります。

「人目を避けて引っ越してきたはずが、
いつの間にか里の人達にお世話になっている」

片意地張っても1人では生きられない。
いろいろな人の手を借りてこそ生きていける
という気づきもまた、成長の証です。
何よりも、子供たちの自立こそが子育ての成功を物語っています。





美しい雪原を笑いながら駆けまわり転げまわりする母子3人のシーンが印象的。
後にはこの一人一人の胸に
帰らぬ思い出となってよみがえるであろうその至福のとき。
私も今にして思いますが、そういう時期はほんの一瞬なのです。
今子育て中の皆様、
精一杯“子供の小さい時”を楽しんでくださいね。


おおかみおとこという特殊な題材を置きながら、
実は普遍的な“親と子供”、“家族”の物語なのでした。
雨の成長ぶりにも泣けますが、
雪の淡い初恋にも泣けます。
願わくば、子供たちを送り出した花さんにも、
また新しい生きがいが見つかりますように。
まだまだものすごく若いですしね~。

2012年/日本/117分
監督:細田守
脚本:細田守、奥寺佐渡子
声:宮崎あおい、大沢たかお、黒木華、西井幸人、大野百花