映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「無理 上・下」 奥田英朗

2012年07月04日 | 本(その他)
何が無理かって・・・

無理 上 (文春文庫)
奥田 英朗
文藝春秋


無理 下 (文春文庫)
奥田 英朗
文藝春秋



                  * * * * * * * * * 

この本の帯に曰く。
「一気読み、必至!!」
「※この物語には夢も希望もありません。でも笑える面白い。」
はい。
全くそのとおりでした。
著者の「最悪」が好きだった方なら、こちらも必読です。


合併で生まれた地方都市・ゆめの。
ここで暮らす5人の男女にスポットを当てながらストーリーは進行していきます。


市役所で生活保護を担当する男。
生保受給者のあまりの生活態度のいい加減さに人間不信。


東京に憧れる女子高生。
ごく平凡な日常を送っていたのですが・・・。


暴走族上がりのセールスマン。
インチキ商品の訪問販売をしています。


スーパーの警備の仕事をしている中年女性。
彼女の心の支えは新興宗教。


無理難題を押し付けられて苦悶する市会議員。
奥さんも苦労のモト



これらなんのつながりもない5人が、次第にぬきさしならない問題を抱えていくのです。
そして、たぶん最後には彼らの人生が、どこかで交差するはず・・・と思えば、
なんとも意外な方法で、実際的に"交差"。
こ、これはアクション作品でもあったのか!! 
これが映画なら最後のシーンは絶対スローモーションですね。
無音で。


それにしても一人ひとりの抱える問題は、なんとも気が重くなることばかり。
例えば、はじめの公務員氏は、
生活保護費を切り詰めなければならないという命題を背負い、
生保受給審査を厳しくするあまり、ある人物の恨みを買ってしまいます。
また、空疎な心を埋め合わせるように、主婦相手の援助交際にハマってしまう。
そんな時に例の相手から命に関わる攻撃を受けるのです。
生命の危機&買春がバレる危機。
一体どーするんだっ!!


自業自得の面もありながらドツボにはまっていくさまは、
つい同情を禁じ得ないけれど、どこか可笑しくもある。
そんなのが5人分。
キツイです~。

そしてまた、さあ、これからが大変、大騒ぎ!!となる寸前で、
ぷつりと終わってしまうのです。
著者の思いを察するに、

彼らがこの泥沼から這い上がるのは無理!

もうこの先のドタバタを書くのは無理!!

そういうことなんでしょうね・・・。
私は意外とまともな生活感覚のある加藤くんが好きでした。

「無理 上・下」奥田英朗 文春文庫
満足度★★★★☆